2021/8/4 広上淳一×京響 エロイカ2021年08月05日 09:10



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2021
 京都市交響楽団 

日時:2021年8月4日(水)19:00
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:広上 淳一
共演:ヴァイオリン/黒川 侑
   チェロ/佐藤 晴真
演目:ブラームス/ヴァイオリンとチェロのための
         二重協奏曲
   ベートーヴェン/交響曲 第3番「英雄」

 京都市の交響楽団は是非一度聴いてみたいと思っていた。古都の名門、優秀なオケとして夙に有名だ。首都圏以外のオケでは札響、仙台フィル、オーケストラ・アンサンブル金沢、名古屋フィル、セントラル愛知響、大阪フィルくらいしか知らない。オケ好きだから全国各地のオケにも関心はある。フェスタ サマーミューザでは3、4年前から地方オケを招聘しており、この先、フェスタを重ねて行けば各地のオケに出会うことができる。

 広上の指揮は、20代半ばでキリル・コンドラシン指揮者コンクールに優勝した前だったか、後だったか、デビュー早々に聴いている。「アルルの女組曲」のキレのいいリズムと歌心にひどく感心した覚えがある。汐澤安彦の弟子ということで成程と納得した。広上の東京音大時代は、学長は伊福部昭だったのではないか。
 その後は活動拠点のすれ違いもあって、あまり頻繁に聴くことはなかった。ここ数年では日フィルを振った恩師尾高惇忠の「ピアノ協奏曲」や、母校東京音大との「ツァラトゥストラはかく語りき」くらいである。自ら常任指揮者兼芸術顧問を務める手兵、京都市交響楽団との組合せは期待大である。
 プログラムは、ひと昔前の定期演奏会の王道演目、ブラームスの協奏曲とベートーヴェンの交響曲。

 舞台上にコンマスとして神奈川フィルの首席ソロ・コンマスの石田泰尚が登場したのでビックリした。あとで調べてみたら京響の特別客演コンマスを兼ねているのだった。

 ブラームスの「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」は、ブラームスが書いた管弦楽曲の最後の作品らしい。
 ソリストの黒川と佐藤はいずれも若い。二人とも小柄で指揮の広上も上背はないから、三人が並ぶと父親と息子二人といったふう。
 佐藤のチェロは骨太な音で表情豊か、今後が楽しみな逸材。ヴァイオリンの黒川はちょっと線が細いものの良く通る音、高音部がとても綺麗。
 ブラームスのドッペルコンチェルトは渋い。ときに退屈することもあるけど、二人のソリストは新鮮で熱い演奏。広上×京響も滋味あふれ好サポート。特に第2楽章の優美さと枯淡は魅力的だった。最後まで飽きることなく聴いた。

 ベートーヴェンの「エロイカ」。
 広上はプレトークで“温故知新”という言葉を口にして、LPで聴くような、モントゥーやアンセルメのような、古き良き時代の音楽を醸し出したいと言っていた。まさに鬼面人を驚かす類の過激なエロイカではなくゆったりとした運び。それはそれでいい。音は稠密で各パートとも上手い。
 弦の編成は12型の変形で12-12-8-6-5。数だけの問題でなくヴァイオリン群は雄弁だが、ビオラ、チェロがちょっと弱い。コントラバスもぶんぶんうなるほどではない。管楽器の音色にもあまり特徴はなく、オケ全体のなかに溶け込んでいる。オケの合奏力はもちろん大事で調和しなければならないが、一方で各パートがそれぞれどう主張するかがオケを聴く面白味につながる。
 最近の首都圏のオケは緻密な弦の織物のうえを木管、金管の個性がぶつかり合い、打楽器が強烈なアクセントをつけることが多くなってきた。破綻を恐れず攻めてくる。そういう意味では聴いていて非常にスリリング。指揮者の考えにも左右されるが、オケ自らが独自性を打ち出そうとし、激しく変貌している。
 この「エロイカ」、さすが最終楽章の変奏曲では、各楽器が目立ってきたものの総じて大人しい。優等生かつ技術的には完璧で感心するが、手に汗握るという興奮が訪れない。あるときのN響を聴いているような感じに似ている。「エロイカ」ほどの有名曲ともなれば、音盤でも実演でも素敵な出会いが幾つかあった。それに比べれば残念ながらインパクトにいささか欠ける。

 首都圏のオケは苛烈な競争のなかで大きく進化している。京都のオケは古都そのもののように地味で古風な趣が残っていた。

2021/8/6 バッティストーニ×東フィル ローマの松2021年08月07日 09:26



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2021
 東京フィルハーモニー交響楽団 

日時:2021年8月6日(金)19:00
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:アンドレア・バッティストーニ
共演:ハープ/吉野直子
演目:ヴェルディ/歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲
   レスピーギ/組曲「シバの女王ベルキス」
   ニーノ・ロータ/ハープ協奏曲
   レスピーギ/交響詩「ローマの松」

 久しぶりのバッティストーニ。一時に比べるとだいぶ身体が絞られ、より精悍になった。プレトークで作品解説をしてくれたが、ゴツイ顔に似合わない軽やかないい声。テナーとしても通用するのではないか。

 結構な客の入りで、女性比率が高い。バッティの風貌はイカツイけど、確かに指揮姿はエネルギッシュで恰好いい。ご婦人方に人気があるのかな。

 プログラムは、レスピーギの2作品を休憩を挟んで前後に分け、ヴェルディの序曲とニーノ・ロータの協奏曲をそれぞれの前に置いた。

 ヴェルディの序曲は名刺がわり、相変わらず東フィルはよく鳴る。
 「シバの女王ベルキス」は5、6年前、タケミツホールにて同じコンビで聴いている。もとは異国情緒あふれたバレー音楽。バンダ、合唱が入る大規模な編成で全曲版はほとんど演奏されない。組曲でさえそんなにプログラムに載る曲ではない。タケミツホールに比べミューザは爆演しても音は飽和しないし抜けがいいので、逆に作品や演奏のアラに気づくことがある。「シバの女王ベルキス」は、音楽的な感興よりも鳴り物が総動員された際物に近い作品、と感じた次第。
 映画音楽で有名なニーノ・ロータの「ハープ協奏曲」は佳品。吉野さんのカデンツァには何時も感心する。アンコール曲はM.トゥルニエの演奏会用練習曲「朝に」とのこと、この小品もハープの魅力が一杯。
 最後の「ローマの松」はバッティにとっては自家薬籠中の曲、もちろん暗譜。音楽的にも「シバの女王ベルキス」より数段中身が濃い。バッティの咆哮を堪能したことは間違いない。

 実はこの公演、今年のフェスタサマーミューザのなかで、京都市交響楽団と並んで楽しみにしていた演奏会。期待が大きいとどうしても評価水準が上がってしまうので、結果は厳しいものになりがち。
 両公演とも、やはり期待値との落差が生じてしまった。無心で聴かなくてはいけない、と反省しきり。

「世界に誇る大北斎展」――斎藤文夫コレクション2021年08月08日 07:39



 おととい、「フェスタサマーミューザ」のついでに、川崎駅直結のタワー・リパーク3階「川崎浮世絵ギャラリー」にて開催中の「北斎展」を覗いてきた。
 
 北斎の“波”が、富岳三十六景の「神奈川沖浪裏」や晩年の「海上の不二」から迫ってくる。富岳三十六景の「凱風快晴(赤富士)」は、初摺りに近いピンクの階調のものと、よく知られる後摺りの濃赤色の両方が並べてある。黒富士と呼ばれる「山下白雨」のデフォルメされた雲、稲妻も目に飛び込んでくる。
 画狂老人卍筆とある肉筆画の「芋と桔梗」は西洋画といってもおかしくない。「新板浮絵忠臣蔵第弐段目」は透視図法を用いている。北斎が西洋画に与えた影響は絶大だが、北斎も西洋画から多くを学んでいる。
 「東海道五十三次」は広重、と思いきや北斎も描いている、広重より30年も先行して。風景というよりは人物に焦点が当たっていて、風俗画のようでもある。「東海道五十三次」には“めんこ”版もある。「鎌倉江ノ嶋大山」という“往来双六”もあった。江戸の子供たちは北斎の絵で遊んでいた。贅沢な!
 「東海道名所一覧」「木曽路名所一覧」という鳥瞰図法で描かれた細密画も興味深い。地図作者としての北斎である。

 この「北斎展」、展示日程が前後期に分かれ、前期は明日9日までと残り少ないが、後期は8月14日から9月12日まで開催される。

2021/8/9 原田慶太楼×東響 フィナーレコンサート2021年08月09日 21:04



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2021
 東京交響楽団 

日時:2021年8月9日(月)15:00
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:原田慶太楼
共演:カルテット・アマービレ
演目:ヴェルディ/歌劇「アイーダ」
     凱旋行進曲とバレエ音楽
   かわさき=ドレイク・ミュージック アンサンブル/ 
     かわさき組曲~アイーダによる(世界初演)
   ジョン・アダムズ/アブソルート・ジェスト
   吉松 隆/交響曲 第2番「地球(テラ)にて」

 8月7日は立秋。暦の上では秋、実際は一年で最も暑い時期。しかし、もうひと山越えれば、すぐに秋の気配を感じることができるようになるだろう。
 そして、きのう8日、ウーハンコロナによる戦時下、東京オリンピックが無事閉幕した。颱風も期間中3つ4つ、危うかったが直撃は避けられた。
 選手たちの頑張りと獲得したメダルは賞賛に値する。元気を与えてもらった。それ以上に、大事なく平穏に終えることができたことに感謝しよう。あとは、24日からのパラリンピックを安全に、と祈りたい。

 コンサートもウーハンコロナのせいで、来日できない演奏家が頻発し混乱している。代役の指揮者が大活躍しているのは周知のことだけど、その中で最も目立っているのは、日本人では原田慶太楼、海外組ではカーチュン・ウォンではなかろうか。二人ともそれまでは余り知られていなかったから尚更そう感じる。
 二人はほぼ同い年で30代半ば。首都圏のほとんどのオーケストを席巻し、演奏会後の評判もとても良かった。原田慶太楼は、17歳で渡米したあと凱旋してこの獅子奮迅ぶり。東響の事務局は目利き(耳利き?)がいる、手早く正指揮者に据えた。カーチュン・ウォンは、奥様が日本の方で居住の不自由もないので、往来も可能であったようだ。
 両者のtwitterが失礼ながら暇つぶしに丁度いい。原田慶太楼のtweetは豊富な情報、カーチュン・ウォンはほとんどが食べ物に関する呟きで微笑ましい。

 https://twitter.com/KHConductor
 https://twitter.com/kahchun_music

 さて、「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2021」もオリンピックの閉幕を追いかけるように、今日9日が最終日。原田慶太楼×東響のフィナーレコンサートである。
 原田慶太楼は初めて聴く(カーチュン・ウォンとは2度出会ったが相性が悪い、しばらく時間を置いてから聴き直そうかと)。

 プログラムの最初は、ヴェルディの歌劇「アイーダ」から凱旋行進曲とバレエ音楽。
 さすがホームグラウンドのオケ、ホールの響きを知悉している。各楽器が明瞭に分離しながら、バランスよく響き合う。原田の指揮もスマート、観ているだけで気持ちよい。

 次いで“凱旋行進曲”にインスパイアされて作曲された「かわさき組曲」。
 英国のアート団体ドレイク・ミュージックと日本の音楽家が連携しながら、川崎市内の特別支援学校の障害を持つ生徒たちとワークショップを重ね、オリジナルの音楽を創造するというプロジェクトから生れた曲という。制作過程が映像で紹介された。東響のメンバーも参加している。優しく色彩一杯な音楽で、愛情のこもった演奏だった。

 休憩後、ジョン・アダムズの「アブソルート・ジェスト」。
 “絶対的冗談”…“まったくのシャレ”と題されたベートーヴェン音楽をネタにした作品。交響曲や弦楽四重奏曲の断片が絡み合うミニマム・ミュージック。ベートーヴェンの魅力のひとつであるリズムを抜き出し強調し興奮を高めていく。聴いたことのあるフレーズが通り過ぎ、打楽器やピアノが現代音楽らしく叩き続ける。小集団と集団との音響の対比が恰好いい。カルテット協奏曲と呼ぶべきか、こういう組合せは珍しい。カルテット・アマービレは今後注目すべき四重奏団だ。

 フィナーレは吉松作品「地球(テラ)にて」。
 交響曲2番にあたるから、30年ほど前の作品。初演当初は演奏時間の関係で東・西・南の3楽章構成だったが、その後、21世紀に入ってカットされていた北を復活させ、東・北・西・南の4楽章からなるレクイエムが完成した。これはアジア、北の大陸、ヨーロッパ、アフリカ、それぞれの地における鎮魂歌だという。このうち南が東京オリンピック開会式、聖火の点火シーンで使われた。
 第1楽章のアジアに日本的節回しが現れるのは当然だが、第2楽章以降の北の大陸、ヨーロッパ、アフリカの各楽章にも和のテイストを感じて懐かしさを覚えるのは何故なのか。演奏は緊張をはらみ哀愁を帯びつつも痛快。チェロのソロと二重奏、弦の四重奏と八重奏、コントラバスの合いの手、絶え間なく鳴らされる打楽器など聴き処が満載。原田は吉松の全交響曲を演奏したいと言っている、今後が楽しみだ。

 「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2021」、とりわけ、このフィナーレ演奏会は、もちろん意図したものではなく偶然だとしても、結果的には「かわさき組曲」によってパラリンピックにエールをおくり、「地球(テラ)にて」によって東京オリンピックを顧みることになった。
 今年も夏祭りが終わった。

8月15日のカーネーション2021年08月15日 08:51



 ポットカーネーションは、直ぐに元気がなくなる。
 「母の日」に買った鉢植えも1週間ほどで生気が失せてしまった。その月のうちに庭に移してみた。
 花が終わったあと切り戻した。水枯れにだけは注意し様子をうかがっていたら、2カ月ほどで小ぶりだけど再び花が咲きだした。この8月、開花時期ではないのに真っ赤な花を幾つかつけている。

 カーネーションはナデシコ科の多年草だけど育てるのが結構難しいらしい。ましてポットカーネーションとなると耐暑性、耐寒性が低いから、地植えにしたからといっていつまで持つかわからない。
 もう一度切り戻して、秋の開花に挑戦しようか、と思案している。

 雨の8月15日、終戦の日、盆中日……黙祷