東フィルの来期プログラム ― 2023年10月06日 08:50
東フィルの2024シーズンのプログラムが発表になっている。東フィル定期のスタートは1月である。年間8プログラムを各3公演、オーチャード、オペラシティ、サントリーホールで開催する。
https://www.tpo.or.jp/concert/2024season-01.php
定期演奏会は、名誉音楽監督のチョン・ミョンフンが3プログラム9公演、首席指揮者のアンドレア・バッティストーニが2プログラム6公演、あとは1プログラム3公演ずつミハイル・プレトニョフ、ダン・エッティンガー、出口大地が受け持つ。いつもの指揮者陣である。
チョン・ミョンフンは「トゥランガリーラ交響曲」や演奏会形式の「マクベス」を、バッティストーニは「カルミナ・ブラーナ」やマーラーの「交響曲第7番」などの大曲を振る。
ここ数年、東フィルでは首席指揮者バッティストーニの話題が少なく、チョン・ミョンフンのほうがオケの看板になっているようだ。そういえば前任のダン・エッティンガーの任期後半も影が薄かった。
楽団における指揮者の肩書は、音楽監督、芸術監督、芸術顧問、首席指揮者、常任指揮者、正指揮者、首席客演指揮者、特別客演指揮者、客演指揮者、桂冠指揮者、桂冠名誉指揮者、終身名誉指揮者などなど、呼称が数限りなくあるのに加え、同じような名称であっても楽団によって役割が微妙に違うようだ。外部からみると複雑怪奇というか、どういった責任と権限を持っているのかよく分からない。
チョン・ミョンフンは名誉音楽監督と称されているが、働きぶりからすると一般にイメージするような名誉職ではなさそうだ。首席指揮者以上の位置づけで、屋上屋を重ねているような気もする。まぁ、聴き手にとっては、贔屓の指揮者さえ登場してくれれば、肩書など頓着しないのかも知れないけど。
東フィルの演奏会はしばらくご無沙汰している。たまには東フィルの演奏会へ行きたいが、定期公演はサントリーホールにおけるチケットが取り辛いこともある。「午後のコンサート」から選ぶか、「フェスタサマーミューザ」などの機会をとらえて聴いてみようと思っている。
東京フィルの来期プログラム ― 2022年10月17日 08:03
先週末、東京フィルハーモニー交響楽団の来期(2023/1~2024/12)ラインナップが発表になった。
会場は、例年通りBunkamura オーチャードホール、東京オペラシティ コンサートホール、サントリーホールの3カ所、同一プログラムで各8回ずつ公演する。
https://www.tpo.or.jp/concert/2023season-01.php
名誉音楽監督のチョン・ミョンフは、1月にブルックナーの「7番」、7月に演奏会形式の「オテロ」を指揮する。首席指揮者のアンドレア・バッティストーニは、3月のサン=サーンス「オルガン付き」と11月のチャイコフスキー特集に登場。
特別客演指揮者のミハイル・プレトニョフは、2月に「マンフレッド交響曲」、5月にラフマニノフの管弦楽作品を演奏する。プレトニョフは、自ら創設したロシア・ナショナル管弦楽団を追われ、活動の機会を奪われている。昨年スイスへ出国し、この9月、スロヴァキアの首都ブラティスラヴァを拠点にした「ラフマニノフ国際オーケストラ」という新たなオケの創設を明らかにしている。
ラフマニノフの作品は6月にも尾高忠明が取り上げる。そのほか若手女性指揮者のクロエ・デュフレーヌが10月に「幻想交響曲」を披露する。ブザンソン国際指揮者コンクールの覇者である。
2022/10/16 ノット×東響 ショスタコーヴィチの「交響曲第4番」 ― 2022年10月16日 21:36
東京交響楽団 名曲全集 第180回
日時:2022年10月16日(日) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ソプラノ/安川 みく
演目:ラヴェル/「鏡」から「道化師の朝の歌」
ラヴェル/歌曲集「シェエラザード」
ショスタコーヴィチ/交響曲第4番 ハ短調 op.43
作曲されてから25年ものあいだ封印されていた、いわくつきのショスタコーヴィチ「交響曲第4番」。今まで生演奏では、バルシャイ、ラザレフ、ゲルギエフ、リットンなどの指揮で聴いてきた。果たしてノットは「第4番」をどう料理するのか。
ノットは、珍しくスコアを順番にめくりながら指揮をした。スコアに書かれている全てを音にしようとする執念が感じられるものだった。しかし、交響曲演奏の、そもそも論として、それほど微に入り細を穿つように音化する必要があるのだろうか。
ショスタコは、交響曲にさまざまなモチーフを放り込み、いろいろなエピソードを次々と出現させる。ノットのように各ページの音符を等価に解き放つと、部分部分は極めてスリリングで面白いが、全体がひとつの音楽として立ち上がってこない。細切れの断片の寄せ集めみたいで、一連の音楽の筋書きが見えてこない。もちろん、ショスタコの多義性がそういう類のものだという議論はできる。しかし、ノットはあまりにも細部にこだわりすぎている。そして、その細部が全体に寄与していないと。
演奏は壮絶を極め、東響の各奏者は、音符をほぼ完璧に再現したと思うが、聴き手は、ショスタコの世界入り込めないままだった。バルシャイやラザレフのような背筋がひんやりと凍りつくような時間はついに訪れなかった。数年まえ同じ東響を指揮したウルバンスキの「第4番」に納得できなかったけど、ノットの「第4番」も別の意味で感銘を受けなかった。
ノットのショスタコは過去にも「5番」「10番」「15番」を聴いている。でも、ほとんど記憶に残っていない。ショスタコの音楽の中に、ノットの演奏技法を拒絶する何かがあるのだろうか。
前半はラヴェルの2曲。スペイン風のリズミカルな「道化師の朝の歌」と、歌付の「シェエラザード」。「道化師の朝の歌」は中間部のちょっと憂鬱な素振りのファゴットが印象的。「シェエラザード」は、けだるく頽廃的な雰囲気を漂わせる。安川みくは若くて清々しい。この曲はもっと年輪を重ねた女性、たとえて言えば、スザンナではなくて、伯爵夫人の声のほうが相応しいように思う。
コンマスは小林壱成、隣のアシストは水谷晃、ツートップで万全の体制。「道化師の朝の歌」とショスタコの「第4番」は16型、「シェエラザード」は12型。
舞台にはマイクが何本も立っていた。いずれCDが販売されるのだろう。楽譜が読める人であれば、ショスタコの楽譜片手に高品質録音を聴くことができるかも知れない。
2022/9/9 東京二期会 蝶々夫人 ― 2022年09月09日 21:25
二期会創立70周年記念公演
東京二期会オペラ劇場 「蝶々夫人」
日時:2022年9月9日(金) 14:00 開演
会場:新国立劇場 オペラパレス
指揮:アンドレア・バッティストーニ
演出:栗山 昌良
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
出演:蝶々夫人/木下 美穂子
スズキ/藤井 麻美
ケート/角南 有紀
ピンカートン/城 宏憲
シャープレス/成田 博之
ゴロー/大川 信之
ヤマドリ/杉浦 隆大
ボンゾ/三戸 大久
神官/的場 正剛
合唱/二期会合唱団、新国立劇場合唱団、
藤原歌劇団合唱部
演目:ジャコモ・プッチーニ/蝶々夫人 全3幕
バッティストーニのオペラは、数年前に「リゴレット」と「トゥーランドット」を観て以来、今日で3度目。この「蝶々夫人」は、二期会創立70周年の記念公演のひとつ。演出が栗山昌良というのも魅力。
「蝶々夫人」は、もちろん歌劇だからずっと音楽が鳴り響き、「ある晴れた日に」などの有名なアリアも含むのだが、筋書きが荒唐無稽でなく、現実味があって、どうしても舞台や演技のほうに目が向く。
そういう面で栗山演出は見ごたえがあった。障子と屏風で大きく空間を切り取り、枝垂桜の樹が何本か配置してある。そして障子にあたる光が時間の経過をあらわして行く。美術、衣装、照明が一体となって、日本的なリアリティある美しい舞台をつくっていた。登場人物の所作も熟考されている。二期会の定番プロダクションと言っていいのだろう。
歌手陣は演技ともども全員安定しており、役による好不調がなく、安心して観ることができたし、聴くことができた(ゴローは升島唯博が体調不良で大川信之に変更)。バッティストーニも劇的な要素を強調し、緩急・強弱を使いこなした歯切れのいい音楽で支えた。
それにしても、ピンカートンは、劇中の人物とはいえ下衆野郎で腹立たしい。
蝶々さんとピンカートンの物語は、いまだに日本と米国との関係を象徴しているようで、苦笑いを押し隠すほかない。
2022/8/7 エッティンガー×東フィル シェヘラザード ― 2022年08月07日 19:46
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
東京フィルハーモニー交響楽団
日時:2022年8月7日(日) 15:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ダン・エッティンガー
共演:ヴァイオリン/服部 百音
演目:ロッシーニ/歌劇「セビリアの理髪師」序曲
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
リムスキー=コルサコフ/「シェヘラザード」
日曜日の午後、ポピュラーなプログラムということもあって、ミューザはほぼ満席。
「セビリアの理髪師」序曲からスタート。オープニングとして、こんなにふさわしい曲はないと思うが、軽快なワクワク感がない、どちらかというと重々しい。なのに、ロッシーニクレッシェンドはびっくりするほど急加速。あざといな、エッティンガーらしい。
メンデルスゾーンから1曲選ぶとするなら、この「ヴァイオリン協奏曲」だろう。もちろん「イタリア」や「スコットランド」あるいは「エリヤ」を挙げるひねくれ者もいるかも。いわゆるメン・コン、最初の旋律だけでもメンデルスゾーンの名は後世まで残るに違いない。
服部百音は、ソリストにしては線が細い。音程もいささか不安定。バックのオケは時として音量過多でソロとのバランスが悪い。アンサンブルもすこし粗い。エッティンガーは、プレトークでメン・コンを初めて振ると話していた。そのせいではないだろうけど、どうもしっくりこなかった。
前半、感心しなかったので、後半を心配したが、「シェヘラザード」はオケの精度も数段上がって見違えるよう。変態エッティンガーの面目躍如、こってりと濃厚。ときどきゲネラルパウゼを大きくとって、緩急自在。14型の弦でも音圧は申し分ない。コンマス三浦章宏の百戦錬磨のソロはもちろん、各奏者とも名人芸を披露してくれた。
この前の木曜日に、同じリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」を聴いたばかり。「シェヘラザード」もほぼ同時期に書かれた作品。御存じアラビアンナイト、説話集「千夜一夜物語」の語り手シェヘラザードがそのまま曲の題名となっている。「海とシンドバッドの船」「カランダール王子の物語」「若い王子と王女」「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破、終曲」の交響組曲、演奏時間約45分。
今日、エッティンガーの指揮で、“これは大曲だ”と知った。