2023/10/21 ノット×東響 ブルックナー「交響曲第1番」2023年10月21日 20:39



東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第135回

日時:2023年10月21日(土) 14:00開演
場所:東京オペラシティコンサートホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ヴィオラ/ディミトリ・ムラト
   オルガン/大木 麻理
演目:リゲティ/ハンガリアン・ロック
   ベリオ/声(フォーク・ソングⅡ)
     ~ヴィオラと2つの楽器グループのための
   ブルックナー/交響曲第1番 ハ短調


 舞台と2階バルコニー上に管弦楽が入り、指揮者とヴィオラ、オルガンのソリスト2人が登場して照明が落とされ、オルガンにスポットライトが当たる。
 管弦楽は沈黙し、オルガン独奏の「ハンガリアン・ロック」が始まる。もとはチェンバロのために書かれた曲らしい。曲のモデルはバロック時代の変奏曲と解説にある。なるほど左手の通奏低音の上を右手が即興的に動き回る。ロックというよりはバロック音楽にジャズ風味を加えたような作品だ。先週、「グラゴル・ミサ」のオルガンソロで吃驚させてくれた大木麻理が今日も名人芸を披露、曲も演奏もとてもカッコいい。

 大木さんが退場し、ベリオの「声(フォーク・ソングⅡ)」。声というタイトルだが歌手が登場するわけではない。ヴィオラが声の代わりということなのだろう。ヴィオラを中心にして舞台とバルコニー上に2群の楽器が並ぶ。
 オケの配置や使用楽器、奏法などは全くもって現代音楽そのものながら、旋律の素材はシチリア民謡らしい。その旋律は壊されていて完全に辿ることはできないけど、ときどき哀愁のある懐かしいメロディが聴こえてきて胸を衝く。それにしてもヴィオラがこれほど多彩な音色を持っているとは迂闊だった。ディミトリ・ムラトの見事な演奏に拍手喝采。

 休憩後、ブルックナーの「交響曲第1番」。いま、オーケストラのレパートリーにブルックナーの交響曲は欠かせない。来年は生誕200年のアニバーサリーだからよけい賑やかになるに違いない。それでも演奏されるのは「第3番」以降が圧倒的に多いはず。ブルックナーの交響曲は「第3番」から始まる、と言ったのはヴァントだったと思うが、記憶違いかもしれない。どちらにせよ初期の「00番」「1番」「0番」「2番」はほとんど演奏されない。
 4曲のなかでは断然「1番」が面白い。弦のトレモロにのって金管が主題を提示したり、楽章の終盤で壮大な金管を吹奏するというブルックナーの定番スタイルも備えている。第1楽章のコーダにおいて弦の崩れ落ちる下降音型のあと奮い立つような金管の高揚感などは「9番」を想起させるし、第4楽章のファンファーレなどは「8番」の最終楽章を思い出させる。第2楽章のアダージョは深みを問わなければ「7番」以降の萌芽がたしかにある。第3楽章の躍動とトリオの牧歌的な味わいはすでにブルックナーのスケルツォだ。
 それもこれもいい演奏に出会えばこそ感じ取れるもの。ノットのブルックナーは明晰、節度を保ちながら猛々しくスケールが大きい。東響も熱演でありつつ美音が崩れない。充実の演奏だった。
 ブルックナー演奏のオケは14型、コンマスはニキティン(ベリオのときはバルコニーで弾いていた)。ホルンの3番は神奈川フィルの坂東裕香が入っていた(ベリオのときは舞台上で。トップの上間さんはバルコニーで吹いていた)。
 坂東さんは同じノットのマーラー「交響曲第6番」のときも客演していたが、先日は都響のチャイコフスキー「交響曲第5番」でトップを任されていたという。引く手あまたである。このまま、東響に居座ってもらっても構わないが、隣同士のオケではそうも行くまい。両オケ掛け持ちで、いや、贅沢は言わない、たまに東響にゲスト出演してもらえれば有難い。

 マイクが林立していた。今日の演奏会、いずれ音盤として発売されるのだろう。