2023/11/1 汐澤安彦×PPT チャイコフスキ−「交響曲第4番」 ― 2023年11月02日 09:36
パシフィックフィルハーモニア東京
第2回名曲シリーズ
日時:2023年11月1日(水) 19:00開演
会場:東京芸術劇場コンサートホール
指揮:汐澤 安彦
演目:グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて」
ボロディン/歌劇「イーゴリ公」より
「ポロヴェツ人の踊り」
チャイコフスキー/交響曲第4番 ヘ短調 作品36
汐澤安彦は80歳半ば。先日、外山雄三が亡くなったから、現役の指揮者では最長老のひとりだろう。以前はプロオケを振っていたが、特定のポジションに就くことはなかったと思う。もっぱら東京音大で後進を育て、アマオケや大学オケ、吹奏楽団を指導してきた。首都圏のプロオケに登場するのは珍しい。
何年ぶりかで汐澤翁をみた。だいぶ身体が小さくなって背も丸くなった。足腰はしっかりしている。舞台への出入りも危なげない。前半は立ったまま指揮、指揮台での下半身の動きは少なくなった。後半は椅子が用意されていたものの座ったのは半分ほど。首を傾げ挨拶する癖や、前のめりで指揮するところは変わっていない。驚いたのは全曲暗譜、いくら自家薬籠中の曲だからといっても歳を考えたら信じられない。
あいかわらずリズム感が抜群、疾走感も半端じゃない。オケをよく鳴らしながら、ひとつひとつの楽器が埋もれないように聴かせる。たえず主旋律をはっきり浮かび上がらせるから筋書きが分かりやすい。といって内声部を疎かにしているわけではない。語り口が上手いのだろう。物語がサクサク進むように演奏時間が極めて短く感じる。
オールロシアプログラム、前半では「ダッタン人の踊り」―――最近では「ポロヴェツ人の踊り」というらしい―――が、そのキレとスピードとクライマックスの凄まじさに仰天した。後半のチャイコフスキー「交響曲第4番」は、苦手なチャイコフスキーにもかかわらず飽きることがなかった。どんどん引き込まれ、ある種の快感を味わった。むかし同じ汐澤翁で聴いた「悲愴」を思い出していた。
PPTのコンマスは塩貝みつる、トランペットのトップは東響の澤田真人がゲスト。
さて、一時、怪我で休養していた汐澤翁だが、先月はSIOフィル、今月はこのPPT、来週は明治学院大オケ、年末は上智大オケを振る。老いて益々盛ん、元気で何よりである。機会があればまた聴いてみたい。
2023/11/4 本名徹次×ベトナム国立響 オペラ「アニオー姫」 ― 2023年11月05日 11:04
日越外交関係樹立50周年記念
オペラ「アニオー姫」(チャン・マィン・フン作曲)
ベトナム国立交響楽団、ベトナム国立オペラバレエ団
日時:2023年11月4日(土) 14:00開演
会場:昭和女子大学 人見記念講堂
指揮:本名 徹次
出演:アニオー姫/ダオ・トー・ロアン
荒木宗太郎/小堀勇介
占い師/ファム・カイン・ゴック
グエン王/ダオ・マック
お后/グエン・トゥ・クイン
大臣/グエン・フイ・ドゥック
長崎奉行/斉木健詞
家須/川越未晴
主な制作スタップは以下の通り。
代表:本名 徹次
(ベトナム国立響 音楽監督兼首席指揮者)
作曲:チャン・マィン・フン
演出:大山 大輔
作詞:大山 大輔(日本語)
ハー・クアン・ミン(ベトナム語)
漆画キービジュアル:安藤 彩英子
共同制作:ベトナム国立交響楽団
ベトナム国立オペラバレエ団
本名徹次が日越外交関係樹立50周年に向けて新作オペラ「アニオー姫」プロジェクトを立ち上げ、400年前に実際にあった史実をモチーフとして、オリジナルオペラを制作した。このオペラは9月のベトナム公演を経て、昨日、日本でプレミアム公演が催された。
新作オペラ「アニオー姫」は全4幕、各幕とも30分程度、前半1・2幕の舞台はホイアン、後半3・4幕の舞台は長崎で、計2時間ほどの物語である。
第1幕
朱印船貿易商・荒木宗太郎は広南(ベトナム中部)を目指し南シナ海を航海中、大嵐に巻き込まれる。嵐の後、漂流している舟を発見する。舟に乗っていたのは子供たち4人。いたずらで舟を出し流されてしまった。宗太郎は彼らに粥を与え優しく語りかける。子供たちの一人、玉華姫は宗太郎から「ARIGATO」という日本語を教えてもらう。
第2幕
十年後、ベトナム中部の都市ホイアン。宗太郎は仕事や武術の指導で大忙し。その時、暴れ象が飛び出し大騒ぎに。宗太郎は助けに入るが象に踏みつけられそうになる。その瞬間、玉華姫の笛の音が響き渡り、象は落ち着きを取り戻す。宗太郎はお礼の言葉を述べ、二人は「ARIGATO」という言葉で洋上での出会いを思い出す。国王は二人の固い決意を受け結婚を許す。盛大な婚礼の儀を終え二人は長崎へ向かう。
第3幕
宗太郎と玉華姫は娘・家須を授かり、長崎の人々から「アニオーさん」と親しまれ幸せな日々を送っていた。そんなある日、長崎奉行から鎖国が通達される。宗太郎はアニオー姫や娘を国王夫妻に会わせることも、外洋に出ることも許されず悲嘆に暮れる。
第4幕
宗太郎は鎖国が解けぬまま帰らぬ人に。失意のアニオー姫を夢枕に立った宗太郎が優しく励ます。アニオー姫は悲しみに暮れるよりも家須とともに長崎で生きることを誓う。やがてアニオー姫も最期の時を迎える。家須は「二人が愛し合った物語をお祭りにしてこの地に残しましょう。互いの故郷に再び行き来できるその日を夢見て」と語る。長崎奉行も賛同し、人々の想いを乗せて大合唱となり大団円を迎える。
演出と日本語作詞は大山大輔、キービジュアルは安藤彩英子。悪人が一人もいない気持ちのよいお話。チャン・マィン・フンの音楽はベトナムと日本の民謡などを取り込み親しみやすい。第3幕では両国の子守歌がまるまる歌われる。
第1幕の暴風雨の場面、舞台奥のスクリーンに荒れ狂う海が映し出され、さらに、オペラバレエ団が波頭を演じて臨場感たっぷり。第2幕の暴れ象もスクリーンで描かれる。占い師のアリアはコロラトゥーラが用いられる。ソプラノのファム・カイン・ゴックの経歴をみると「夜の女王」をレパートーリーにしている、なるほどと納得。終盤、宗太郎と玉華姫の二重奏は、テノールの小堀勇介、ソプラノのダオ・トー・ロアンとも軽い音質で若々しい。第3幕にも宗太郎と玉華姫のそれぞれの美しいアリアがおかれている。第4幕では遺子である家須のアリアがあり、ソプラノ川越未晴の歌唱も見事だった。フィナーレの「長崎踊り」は打楽器が盛んに打ち鳴らされまさに大団円。オペラにしては言葉が多いから字幕を追うのに大変だったけど。
本名徹次は、大昔、名フィルや新星日響で聴いている。ベトナム国立交響楽団のポジションに就いて、そのあとの苦労話も何かで読んだことがある。これだけのプロジェクトを立ち上げ、もう一度鑑賞したくなるような作品でもって成功裡に導いた。賞賛以外の言葉を知らない。
プレミアム公演の会場を人見記念講堂にしたのは、昭和女子大学がホイアンの遺跡発掘調査などで関係が深いせいなのかも知れない。人見記念講堂はサントリーホールが出来る前、よく海外オケの来日演奏会で使われていた。三軒茶屋から徒歩圏内にあり交通の便もまずまず。古いからバリアフリーなど行き届かない面があるが、建物はよく整備され音響も申し分ない。
「アニオー姫」はこの後、明日6日、特別音楽朗読劇として長崎初演が予定されている(長崎ブリックホール国際会議場)。
日本フィルの来期プログラム ― 2023年11月06日 09:16
日本フィルハーモニー交響楽団のシーズン開始は9月から。その来期(2024/9-2025/8)の定期演奏会プログラムが速報された。
サントリーホールで開催される東京定期演奏会(金曜19時・土曜14時の2日間)と横浜みなとみらいホールで開催される横浜定期演奏会(土曜17時)で、それぞれ10回のコンサートが予定されている。横浜定期は指揮者、曲目とも調整中が目立つ。
https://japanphil.or.jp/sites/default/files/2023-11/2024%EF%BC%8F2025%E5%AE%9A%E6%9C%9F%E9%80%9F%E5%A0%B11102.pdf
首席指揮者のカーチュン・ウォンは、東京定期において生誕200年を迎えるブルックナーの「交響曲第9番」と、得意とするマーラーの交響曲第2番「復活」などを取り上げる。桂冠名誉指揮者の小林研一郎はブラームスの「交響曲第1番」を、フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)の広上淳一はホルストの「惑星」を振る。海外からはフランソワ・ルルーとアレクサンダー・リープライヒ、ガボール・タカーチ=ナジが来日し指揮する。
ザ・クリエイター 創造者 ― 2023年11月08日 16:26
『ザ・クリエイター 創造者』
原題:The Creator
製作:2023年 アメリカ
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:ギャレス・エドワーズ
キリ・ハート他
音楽:ハンス・ジマー
出演:ジョン・デビッド・ワシントン、
ジェンマ・チャン、渡辺 謙、
マデリン・ユナ・ボイルズ、アリソン・ジャネイ
小説やコミック原作が由来ではない完全オリジナルのSF超大作。過去のSF映画のてんこ盛りともいえる。でも、古の作品の何もかもが分からないほど混ぜ合わせたものではない。過去のそれぞれの映画がフラッシュバックのように甦る。
脚本・監督のギャレス・エドワーズは、『モンスターズ/地球外生命体』『GODZILLA ゴジラ』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と実績を重ねてきた。インディペンデント系の『モンスターズ』は、低予算にめげず完成させたオリジナル作品で、ドキュメンタリータッチの斬新な映像だった。ハリウッドの『ゴジラ』と『ローグ・ワン』は、お金のかかった大作ではあるけれどシリーズ作品としての制約や重圧があったはず。ようやく、この『ザ・クリエイター』に至り、それなりの資金を投入して、彼が真に作りたい映画を作ったということだろう。
近未来、人間を守るために開発されたAIが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こしたとされ、米国を中心とした軍事力でもってAIの撲滅を図る。AIとの戦争が激化する世界で、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は、人類を滅亡させる兵器を創り出した“創造者”の暗殺に向かう。しかし、潜入したニューアジアで発見したのは、超進化型AIである少女アルフィー(マデリン・ユナ・ボイルズ)だった…
ギャレス・エドワーズは、自身が英国人でありながら、アングロサクソンの侵略性や破壊願望を赤裸々に描く。コッポラの『地獄の黙示録』や、キャメロンの『アバター』に通じるようなところがある。米軍大佐を演じた白人女性(アリソン・ジャネイ)が、過激に突き進む一方で、AIの少女アルフィーを命をかけて護り抜く主人公のジョシュアが黒人であるのは象徴的である。ジョシュアが政治や思想、組織のためではなく、愛するマヤ(ジェンマ・チャン)やアルフィーのために行動する姿は感動的だ。
ちなみにジョシュア役のジョン・デビッド・ワシントンはデンゼル・ワシントンの息子。アルフィーを演じたマデリン・ユナ・ボイルズは撮影当時6歳だか7歳だか、映画初出演にもかかわらず稀有な才能を発揮し、AIである少女に生命を吹き込んだ。
人間と機械、闘争と共存、AIを拒絶する西洋と受容する東洋など、さまざまな対立をはらみ、前半は記録映画のごとく少々地味で暗さをただよわせた画像で緊迫感を高め、後半は一転して『ブレードランナー』『地獄の黙示録』『エイリアン』『アバター』『スター・ウォーズ』『ターミネーター』などが、次々とフラッシュバックする怒涛の映像を繰り出し、手に汗握る。
音楽はハンス・ジマー。オリジナル楽曲だけでなくロック、ジャズ、ポップスのナンバーなど様々な楽曲を織り交ぜ、ドラマを盛り上げていく手腕は、いつもながら絶大な効果を生む。
観終わったあと思った。映画は時代を先取りすることがある。少女アルフィーは健気で愛らしい。模造人間のリーダー渡辺謙は『ラストサムライ』を彷彿とさせる。近年のAI論議からして、こういった映画は世間のAIアレルギーを緩和する役割があるかも知れないな、と。いや、そんなことよりも現在進行形としてのAIに投影された異質な存在に対する抑圧・排除・殲滅へのレジスタンスをみるべきだろう。家族への愛と絆とともに、自らとは異なる者、異なる文化への理解と共存の物語こそが、ギャレス・エドワーズが描きたかったことなのではないか、と思い直す。
この映画は大画面で観賞するに越したことないが、テーマや世界観を再確認するためには、リプレイできる動画配信でゆっくり見直したい。Net配信を楽しみにしつつ暫くの間待つことにしよう。
読響の来期プログラム ― 2023年11月09日 09:42
読響の2024年4月~2025年3月のシーズンプログラムが発表になった。
サントリーホールの定期演奏会と名曲シリーズ、東京芸術劇場での土日マチネシリーズ、みなとみらいホールにおける横浜公演である。なお、東京芸術劇場は24年9月以降、設備更新工事による休館となるため、土日マチネシリーズは24年度下期から東京オペラシティに会場を移す。
https://yomikyo.or.jp/2023/11/2024yomikyo.pdf
常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレは6シーズン目となる。シェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」、R.シュトラウスの「ばらの騎士」組曲、ベルクの歌劇「ヴォツェック」(演奏会形式)などを取り上げる。
首席客演指揮者の山田和樹は24年3月に同ポストを退任。4月からはスロヴァキア出身のユライ・ヴァルチュハが首席客演指揮者に就任する。ヴァルチュハはマーラー「交響曲第3番」やチャイコフスキー「悲愴」などを指揮する。
そのほか、クリエイティヴ・パートナーの鈴木優人をはじめ、カンブルラン、小林研一郎、尾高忠明らの常連に加え、チルドレス、ヴィンツォー、エメリャニチェフらフレッシュな指揮者が初登場し、ドヴォルザーク、ブラームス、シューベルトなどの名曲を披露する。
個人的に最大の注目は、ローター・ツァグロゼクのブルックナー「交響曲第5番」への再挑戦。2025年2月に無事来日できるのか、チケットの入手は可能なのか、今からヤキモキしている。