ニューヨーク冬物語2021年09月01日 07:35



『ニューヨーク冬物語』
原題:Winter's Tale
製作:2014年 アメリカ
監督:アキヴァ・ゴールズマン
脚本:アキヴァ・ゴールズマン
出演:コリン・ファレル、
   ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、
   ウイリアム・ハート、エヴァ・マリー・セイント、
   ラッセル・クロウ、ウイル・スミス、
   ジェニファー・コネリー

 9月になった。秋のとば口とはいえ残暑厳しいなか“冬物語(Winter's Tale)”とは如何なものかと思うけど、大人のおとぎ話でひとときを過ごすのも一興かと。
 しばらく映画館とはご無沙汰で、最近足を運んだのはイタリアの『ワンス・モア・ライフ』と『ゴジラvsコング』。両作品とも全くつまらなかった。で、Amazon PrimeVideoから『ニューヨーク冬物語』を紹介。netflixでも鑑賞できる。

 原作はマーク・ヘルプリンの1983年の長編小説『ウィンターズ・テイル』。もちろん自慢できない、原作は未読。
 監督は『ビューティフル・マインド』でアカデミー脚色賞を受賞した脚本家のアキヴァ・ゴールズマン。初の監督作品ながら、そこは著名な脚本家兼映画プロデューサー、集まった俳優たちが豪華。ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、ウィリアム・ハートなどオスカー俳優らが共演している。
  
 人知を超える力によって、そのままの姿形で100年以上も生き続ける男ピーター・レイク(コリン・ファレル)が、運命的な恋をする。相手は結核で死期の近い令嬢ベバリー・ペン(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)。その恋は成就すると同時に終焉を迎えてしまう。
 100年後、男は記憶を失っている。しかし、少しずつ記憶を取り戻し、自分に課せられた使命に目覚める。悪魔と魔王(演じるのはラッセル・クロウとウイル・スミス)に邪魔され戦いながら、その持てる力を発揮し奇跡を起こす。
 ベバリーの妹ウィラ(子役=マッケイラ・トウィッグスがものすごく可愛い)のその後を、『波止場』『北北西に進路を取れ』のエヴァ・マリー・セイントが演じるが、その100歳を越える老婆(このときのエヴァ・マリー・セイントの実年齢も90歳)が登場する瞬間から涙を抑えきれない。
 素敵な狂言回しは天の使いペガサス、危機に直面すると白馬に翼が生じて飛ぶ、何て都合よく!でも、とても愛らしい。

 音楽を担当したのは、ハンス・ジマーとルパート・グレッグソン=ウィリアムズ。ハンス・ジマーは『ライオン・キング』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』『ラストサムライ』などで有名な一級の作曲家。それ以上に挿入曲が印象に残る。
 ヒロインのベバリーはピアノを弾いている。その曲がブラームス、それもヴァイオリン協奏曲の第3楽章。もとがヴァイオリンの曲をピアノに編曲しているから、すぐには何の曲だかピンとこない。ベバリーの父親(ウイリアム・ハート)が「ブラームスだよ」と言う、なるほど。主人公のピーターがベバリーに初めて出会うときも、彼女はピアノの前にいて同じ曲を弾く。激しい曲想と演奏に「床がキシムね」と彼が言うのは、きっと物語の先行きを予告しているのだろう。ピーターとベバリーは舞踏会に行く。会場ではハチャトリアンの「仮面舞踏会」が流れている、二人で踊り始める曲がベルリオーズ「幻想交響曲」の第2楽章(舞踏会)のワルツ、こんなピッタシな選曲に嬉しくなる。

 この映画、世評・評論家の反応は軒並み酷評。やれ荒唐無稽、映像に説得力がない、ふざけすぎ、意味分からん、ストーリーが破綻している、キャストの無駄使い、等々……散々。興行収入は製作費の半分しか回収できなかったという噂さえある。
 世の中、夢を持てない連中がどうしてこうも多いのか。ありえない話をそれらしく見せるのも映画の魅力のひとつなのだから、野暮なツッコミを入れるなと言いたい。

 原作の『ウインターズ・テイル』は、映画よりもっともっと壮大だという。ハヤカワ文庫上下巻で約1000頁、今のところ読み通す自信がない。この先、魔がさす?ようなことがあれば挑戦してみよう。

オーケストラの新体制2021年09月06日 07:39



 首都圏オーケストラの指揮者に関して、最近いくつかの就任発表があった。旧聞に属するニュースも含めて、記録として残しておきたい。

○日本フィルハーモニー交響楽団
 シンガポール出身の指揮者カーチュン・ウォンが、2021年9月1日より首席客演指揮者に就任する、と8月25日に発表があった。任期は2年。

 https://japanphil.or.jp/orchestra/news/24788

 さらに、8月31日、広上淳一を2021年9月1日より「フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)」に迎えることを決定した。任期については触れられていない。

 https://japanphil.or.jp/orchestra/news/24799

 すでに、現在の首席指揮者ピエタリ・インキネンとの契約は、2021年9月より2年間の延長が決まっている。2年後の日フィルにおけるカーチュン・ウォンの去就が注目される。

○新日本フィルハーモニー交響楽団
 佐渡裕を第5代音楽監督として迎える、と8月27日に発表。任期は2023年4月より2027年3月までの4年間。

 https://www.njp.or.jp/news/24892

 佐渡は京都府出身。兵庫県立芸術文化センターの芸術監督。海外では2015年よりオーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督を務めている。首都圏のメジャーオーケストラのポストは初めてではないか。期待しよう。


 以下は、少し前にアナウンスされた2021年以降のオケの新体制。

○東京交響楽団
 2021年4月から原田慶太楼が正指揮者となった。任期は3年間。音楽監督:ジョナサン・ノット、正指揮者:原田慶太楼、桂冠指揮者:秋山和慶とユベール・スダーンの陣容。

 https://tokyosymphony.jp/pc/news/news_4317.html

○東京ニューシティ管弦楽団
 飯森範親が2021年4月よりミュージック・アドヴァイザー(次期音楽監督)に就任。内藤彰はエグゼクティブ・コンダクターに。

 https://www.japanarts.co.jp/news/p5929/

○神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 2022年4月より沼尻竜典を音楽監督に迎える。任期は2025年3月末まで。常任指揮者の川瀬賢太郎は今年度一杯で退任。

 https://www.kanaphil.or.jp/news/1655/

○NHK交響楽団
 パーヴォ・ヤルヴィの後任としてファビオ・ルイージが2022年9月より首席指揮者に就任する。契約は3年間。

 https://www.nhkso.or.jp/news/20210409.html


 閑話休題、パラリンピックが終わった。ウーハンコロナや政局、アフガン情勢など騒々しいニュースの陰に隠れてしまったような。でも、無事終わって良かった、何より。健常者であれ障碍者であれスポーツで頑張る姿が勇気を与えてくれた。
 パラリンピックの閉会式までの数日は、すっかり秋の気配。すすき梅雨というのか雨模様が鬱陶しいけど、今日現在の気温も20度くらい、このまま本格的な秋に突入しそうな勢いだ。

オーケストラの新体制(2)2021年09月08日 20:54



 きょう16時から、高市早苗さんの自民党総裁選への正式な出馬表明・会見があった。その前の14時には、天下国家という大きな話ではないが、東京ニューシティ管弦楽団の記者会見があり、新楽団名と音楽監督の発表がなされた。

 東京ニューシティ管弦楽団は、来年2022年4月より楽団の名称を「パシフィック フィルハーモニア 東京」とし、音楽監督は飯森範親、指揮者は園田隆一郎の体制とする。さらに、2023年からは首席客演指揮者をおきたいとしている。
 現在のエグゼクティブ・コンダクターの内藤彰、正指揮者の曽我大介は、新指揮者陣には加わらないようだ。
 
 併せて、2022年度の定期演奏会のプログラムも発表された。4月から3月まで10公演(東京芸術劇場7、サントリーホール2、練馬文化センター1)で、一部調整中の演目はあるものの、なかなか意欲的な内容。
 やはり新時代を目指しチャレンジして行くのだろう。健闘を祈りたい。

 http://www.tnco.or.jp/

ガーンジー島の読書会の秘密2021年09月11日 08:03



『ガーンジー島の読書会の秘密』
原題:The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society
製作:2018年 フランス・イギリス合作
監督:マイク・ニューウェル
脚本:ケヴィン・フッド、ドン・ルース、
   トーマス・ベズーチャ
出演:リリー・ジェームス、ミキール・ハースマン、
   ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、
   グレン・パウエル

 まどろっこしい邦題、『ガーンジー島の読書会』とでもすればいいものを“――の秘密”と加えてある。秘密というほどではない。ミステリーとかサスペンスというより、どちらかというとヒューマンドラマ、ラブロマンスと言っていい。もっとも原題からして何のことか、ガーンジー文学とポテト皮のパイの会? よく分からない。邦題を考えた人は悩んだと思う。
 netflixやAmazon PrimeVideoで視聴可能。『Yesterday』のリリー・ジェームスが主演しているので何となく見てしまった。これがすごく面白かった。戦争直後の時代、戦中の話を折り込みながら物語は進む。

 だいたいガーンジー島ってどこ? 地図で調べてみると、海を挟んだ目の前はフランスのノルマンディー地域、イギリス王室属領だがフランスの方がずっと近い。よく知られた都市でいえばシェルブールが対岸にある。
 そう、戦時中、フランスがドイツに占領されたとき、この島もナチの治世下になってしまった。イギリスもドイツに支配された場所があったのだ。

 戦争が終わってすぐの頃、作家のジュリエット(リリー・ジェームス)は、ガーンジー島で戦時中から続く読書会の一員ドーシー(ミキール・ハースマン)と手紙で知り合い、島に渡る。
 秘密というなら“The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society”という名の読書会(原題は苦し紛れに発した読書会の名称だった)を創設したエリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ=『ニューヨーク冬物語』のヒロインを演じた)と、敵であるドイツ兵との恋愛およびその結末なのだけど、本筋はジュリエットの自分探し、読書会の仲間との交流そして絆を描く。
 ジュリエットの島での行動力とひたむきな姿が目に眩しい。リリー・ジェイムスはキリリと結んだ唇に勝気さが伺われ、その唇に知性が表れていると言ってみたくなる。美人女優にありがちな細い腰、細い脚とは違い、当たり前の体つきが身近にいる女性のように思える。今、一番のお勧め女優である。
 もとい、ジュリエットには、アメリカ軍人のマーク(グレン・パウエル)という婚約者がいる。この男、善人には違いないが、どこかエリートくさい。結局、ジュリエットは婚約を破棄し、読書会のドーシーと一緒になる。
 ドーシーは素朴で誠実、振られ役のマークはアメリカ人らしい好人物。もう一人、介添え役であるジュリエットの編集者(マシュー・グード)がまた有能で、これ以上ない心遣いの持ち主、異性に興味ないのが難点とはいえ、とびっきりの良い男。これらジュリエットを取り巻く男たちの立ち居振る舞いにもニンマリする。
 
 監督のマーク・ニューエルは、日本ではあまり知られていないが『フェイク』や『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』などを演出しているベテラン、もう70歳を越えている。手堅くカメラを寄せて引いて、人物と風景をうまく切り取りながら、心情の変化に濃淡をつける。
 音楽はアレクサンドラ・ハーウッド。アコースティック楽器だけでなく電子楽器も使い、女性らしい繊細で優しいメロディーが印象的。風が吹き渡り、草がなびき、陽が射してくるような柔らかな音楽を奏で映像を支える。

 この時代の英国を扱った映画には、他にも『英国王のスピーチ』『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』と良作が目白押し。背景となるイギリスの都市、田舎がそのまま画になっている。時代を現代にとっても『アバウト・タイム』『Yesterday』、児童書を実写化した『パディントン』『ピーターラビット』などなど、イギリスの風景は、自然に物語を紡ぎだして行くようだ。

金木犀(キンモクセイ)2021年09月16日 09:25



 街を歩いていると、金木犀が匂ってくる。例年より少し早い。秋到来である。
 しかし、うちの金木犀は、今年も花をつけそうにない。花どころか生命さえ覚束ない。葉を数えるとわずか10枚ほど、色も深緑のはずが黄緑に変色している。

 数年前に庭らしきものを造り始めたとき、三大香木といわれるクチナシ、沈丁花、金木犀をいっぺんに植えた。
 クチナシが一番威勢が良く、毎年たくさんの花をつけ株も大きくなった。
 沈丁花は、花を咲かせるものの成長が緩慢で、ひところは葉も萎れ危なかった。最近は新芽を吹いて持ち直してきている。
 金木犀だけはだんだん元気がなくなって行く。もともとが1m足らずの幼木だったから、花を見るには数年我慢しなければならないと知ってはいるが、2年3年経っても背丈は伸びず落葉するばかり。新しい葉も生えてこない。

 金木犀は、樹皮がサイ(犀)の皮膚に似ているため木犀と名付けられ、仲間に銀木犀や柊がある。江戸時代に中国から渡来したというのが通説、日本で生み出されたという異説もある。育成がとりたてて難しい樹木ではないが、うまくいかない事例もあるのだろう。
 近所の金木犀の香を羨ましく思いながら、何とか快復を、と祈るばかりである。