2022/9/29 トリオAXIS ゴルトベルク変奏曲2022年09月29日 15:56



ランチタイムコンサート「音楽史の旅」
  ③バッハの変奏曲

日時:2022年9月29日(木) 11:00 開演
会場:かなっくホール
出演:トリオ AXIS(アクシス)
    ヴァイオリン/佐久間 聡一
    ヴィオラ/生野 正樹
    チェロ/奥泉 貴圭
演目:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV.1007より
     プレリュード(ソロ:奥泉)
   ゴルトベルク変奏曲 ト長調 BWV.988
     (編曲:ドミトリー・シトコヴェツキー)


 舞台上のチェロにスポットライトをあて、プレリュードから開始。
 そのあと3人が揃って登場し、少しお喋り。ここではヴィオラの生野さんが軽妙にリードして、会場の笑いを誘っていた。トリオ AXISとしては、難曲「ゴルトベルク変奏曲」の弦楽三重奏版に初めて挑戦するらしい。

 「ゴルトベルク変奏曲」の弦楽三重奏版は、1980年代、ヴァイオリニストのシトコヴェツキーが編曲し、グレン・グールドに捧げたものだという。原曲は2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのための作品で、弦楽三重奏版はこのシトコヴェツキーのほか、イタリアのブルーノ・ジュランナやトリオ・ツィンマーマンの編曲もある。なお、シトコヴェツキーはのちに弦楽合奏用にも編曲をしている。

 一人で演奏する鍵盤曲を、3人で分担するのだから、余裕かと思っていたら、とんでもない。それぞれの楽器の技巧と音楽性が露わとなり、それはそれはスリリングなものだった。佐久間さんの端正な音、生野さんの躍動感、奥泉さんの豊かな響きが耳に残る。
 最小限の弦のアンサンブルは、対位法やカノンなどの線が明確に浮かび上がり、音色の対比も鮮やか、もちろん合奏としての緊張感も加わる。変奏曲の編曲の中には、VnとVa、VnとVc、VaとVcなどの二重奏も含まれ、多様な表情をみせる。

 穏やかで美しい旋律のアリアが生まれ、喜びや悲しみを乗り越え、安穏や激動を経て行く、とくに、後半第16変奏以降、各変奏のコントラストは拡大され、ますます劇的になる。第25変奏は極めて悲痛なアダージョ、半音階の下降旋律は死を想起させ、終結に向けての歩みを進める。最後、第30変奏の回顧的な響きのあと、再び冒頭のアリアが戻ってくる。ここは涙なしに聴くことができない。
 長い旅を終えて帰着したような、いやいやそれ以上。生れ落ち、苦楽を経験し、酸いも甘いも噛み分け、それでも悟りきれないまま死の床につく、人生そのもの、というべき音楽。ソナタ形式だけが葛藤や二律背反や正反合といったドラマを生み出すのではない、変奏曲においてさえ、バッハはそれを描いた。

 生野さんもお喋りのなかで触れていた。ランチタイムコンサートといえば、普通、小曲の組み合わせだろう。けれど、かなっくホールのプログラムは、平気で大曲をぶち込んでくる。
 一応、1時間コンサートだから、「ゴルドベルク変奏曲」1曲だけでも時間は不足気味。なのにプレリュードを置き、お喋りの時間も挟んだ。「ゴルドベルク変奏曲」の演奏時間は50分くらいだった。ランチタイムコンサートにおけるこうした意欲的な企画は続けてほしいものだ。

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