2022/9/10 シュテンツ×新日フィル エロイカ2022年09月10日 21:46



新日本フィルハーモニー交響楽団 
 #643 トリフォニーホール・シリーズ

日時:2022年9月10日(土) 14:00開演
場所:すみだトリフォニーホール 大ホール
指揮:マルクス・シュテンツ
演目:ベルリオーズ/序曲「ローマの謝肉祭」 op.9
   ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」
   ベートーヴェン/交響曲第3番 変ホ長調
          「英雄」 op.55


 マルクス・シュテンツは、数年前に読響との「第九」、新日フィルとの「エロイカ」を聴いて感心した。もう一度「エロイカ」を、とチケットを確保した。
 あとから知ったのだが、この演奏会は50年前の新日フィル創立記念プログラムの再現らしい。1972年の楽団結成時、小澤征爾指揮による特別演奏会と同一のプログラムを、今回シュテンツが振る。シュテンツはタングルウッドで小澤に師事している。

 演奏会用序曲でスタート。歌劇の序曲ではないけど、失敗に終わったオペラ「ベンヴェヌート・チェッリーニ」からアリアの主題を引用している。コールアングレの、くぐもった音が感傷的に歌う。謝肉祭の熱狂を表すようにイタリア風の舞曲が続き、そのまま終幕へ。シュテンツはクライマックスへ持っていくときの呼吸が絶妙。華々しく演奏会が開始された。
 シュテンツは、骨太のがっしりした曲が得意かと思いきや、なんのなんの「マ・メール・ロワ」のようなしゃれた曲も繊細に表現する。
 「眠りの森の美女のパヴァーヌ」はフルートが奏でる美しい小曲、「おやゆび小僧」では次々と変化する拍子、「パゴダの女王レドロネット」は東洋風のにぎやかな旋律にのって打楽器が活躍する、「美女と野獣の対話」でクラリネットとファゴットが協奏し、「妖精の園」はソロヴァイオリンとヴィオラの美しい旋律のあと、華麗な終曲で盛り上がる。
 絵本のような童話の世界が色彩豊かに塗分けられる。「マ・メール・ロワ」をこんなに面白く聴いたのは、遠い昔のジュリーニ以来、やはりシュテンツは只者ではない。

 シュテンツのベートーヴェンは濃い。独特の歌いまわしがあって、違和感を感じつつも、あとあとまで刻印される演奏に魅せられる。
 今回の「エロイカ」は歳のせいか、だいぶまろやかにはなってきた。それでも中身はぎっしり詰まっている。精緻な弱音を大事にして徹底したピアニシモを要求するが、開放的な強音であっても躊躇しない。楽想に従って浮き立たせる楽器の音質にこだわる。音がうねる。加速や減速に吃驚するけど、慣れるに時間はかからない。エキセントリックと言いたくなるときもある。その面では、葬送行進曲と終楽章がもっともシュテンツの本領が発揮されていただろう。たまにはこういったベートーヴェンを聴くのもいい。

 歳とはいってもシュテンツはまだ60歳くらいだろう。今まで、N響、読響、新日フィルと共演している。好き嫌いの分かれる指揮者かも知れないが、ラヴェルの期待以上の出来栄えからしても、定期的に聴いてみたい指揮者の一人だ。