2026/8/23 ブリューズ×東響 ベルリオーズ「幻想交響曲」2026年08月23日 21:43



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第106回

日時:2026年8月23日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ピエール・ブリューズ
共演:ピアノ/角野 隼斗
演目:角野 隼斗/ピアノとオーケストラのための「無我」
   カプースチン/ピアノ協奏曲第4番 op.56
   ベルリオーズ/「幻想交響曲」 op.14


 ピエール・ブリューズは東響とは2度目の共演らしいが初めて聴く。ピエール・ブーレーズと名前がちょっと似ていて紛らわしいが、そのブーレーズが設立したアンサンブル・アンタルコンタンポランの現音楽監督。
 ソリストの角野隼斗は人気のピアニスト兼作曲家、とうぜん完売公演となった。

 最初は角野自身の新作「無我」から。10分程度の小品で世界初演。
 特徴的なリズムが全曲を通し絶え間なく脈動する。川の流れや森のざわめきなどにも聴こえる。あいだにはいかにも日本的な抒情が紛れ込む。角野はブリューズの振る軽快なオケとともに躍動した。

 続いて、カプースチンの「ピアノ協奏曲第4番」。オケの編成が変則で、10-8-6-4-3の小ぶりの弦5部とフルート、オーボエ、クラリネットの木管が各1本、それにティンパニとドラムセット。
 楽曲はクラシック音楽というよりはジャズそのもの。オケはビッグバンドのようでピアノは即興演奏風。もちろん即興ではなくてカプースチンによって楽譜に書き込まれているのだろうけど、角野は洒脱にまるで音と戯れるごとく弾いた。終盤、カデンツァのあと長大なコーダに突入し、ピアノ、オケともテンションを高めていき興奮させてくれた。
 カプースチンはウクライナ出身、モスクワ音楽院で学び、ピアノ曲を中心に200曲近い作品を書き(ピアノ協奏曲は全6曲)、2020年に亡くなっている。ショスタコーヴィチも「ジャズ組曲」などを書いているが、この作品、とても旧ソ連を生きてきた作家のものとは思えない。
 演奏後、会場の1階、2階では何人かのおば様方がスタンディングオベーション、角野を熱烈に追っかけているご婦人たちがいたようだ。

 後半はベルリオーズの「幻想交響曲」。弦は16型に拡大し、第2楽章「舞踏会」で使われるハープ2台は舞台の最前列、指揮者の左右に位置した。
 ブリューズは顔の下半分がヒゲに覆われ、一見すると格闘技の選手のよう。前半の協奏曲は軽妙に自由度高くオケをコントロールしていたが、「幻想交響曲」では外見通り、ねっとりと濃い演奏を繰り広げた。
 たっぷり目のテンポで微に入り細を穿つように各声部にスポットをあて、ベルリーオーズの革新的な音響や音色をあぶりだした。テンポの揺らぎや強弱のアクセント、緩急を巧みに使いながらアイデアを一杯詰め込んだ演奏だった。やはりアンサンブル・アンタルコンタンポランの音楽監督は伊達じゃない。
 東響もブリューズの要求に応え、柔らかで分厚い弦と透明で美しい木管、豊かな音量の金管、瞬発力のある打楽器でもって解像度の高い立体的な音楽をつくりあげた。
 東響の「幻想交響曲」といえば過去にダン・エッティンガーやロベルト・アバド、川瀬賢太郎などの忘れられない演奏が幾つかあるが、このブリューズ×東響も「幻想交響曲」の名演録に記載されることになりそうだ。

新日フィルの来期プログラム2026年08月16日 14:05



 新日本フィルハーモニー交響楽団の来シーズン(2027年4月~2028年3月)のプログラム速報が発表になった。
 例年通りトリフォニーホールとサントリーホール(改修のため上期はオペラシティH)の同一プログラムによる「定期演奏会」が各7回、金曜と土曜両日にトリフォニーホールにて開催される「すみだクラシックの扉」が各8回である。

https://www.njp.or.jp/wp-content/uploads/2026/08/2027-2028%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%B3%E9%80%9F%E5%A0%B12027-28.pdf


 音楽監督就任5シーズン目を迎える佐渡裕は、「定期演奏会」において就任以来取り組んできた「ウィーン・ライン」を継続する。「すみだクラシックの扉」ではイタリアとフランス音楽を取り上げる。
 「定期演奏会」にはマリン・オルソップ、アンドレイ・ボレイコ、ジョナサン・ノットなどが客演するが演目としてはあまり興味がわかない。
 唯一、名曲を中心に“音楽で世界の旅へ”をテーマに開催される「すみだクラシックの扉」において、大友直人がブルックナーの「交響曲第4番」と、宮田大をソロに迎えてエルガーの「チェロ協奏曲」を披露する。大友のブルックナーは珍しいし、得意のエルガーを宮田と協演するのも注目である。

2026/8/9 FSM:コンツ×日フィル ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」「交響曲第1番」2026年08月09日 20:53



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
  日本フィルハーモニー交響楽団

日時:2026年8月9日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:クリストフ・コンツ
共演:ヴァイオリン/周防 亮介
演目:J.シュトラウス2世/喜歌劇「こうもり」序曲
   ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
   ブラームス/交響曲第1番 ハ短調

 
 指揮のクリストフ・コンツはウィーン・フィルの第2ヴァイオリン首席奏者から指揮者に転向した。来年からはリンツ・ブルックナー管および州立劇場の音楽監督になる。指揮者としてはまだ若手の40歳手前である。

 ウィンナ・オペレッタの代表作「こうもり」序曲でスタート。喜歌劇のなかからワルツやポルカ、アリアがふんだんに引用されている。劇音楽のエッセンスがぎゅっと詰まっており、流麗な旋律、生き生きしたリズムなどシュトラウスの愉悦が一杯。コンツはウィーン・フィルで数えきれないほどこの曲を弾いてきたのだろう。ワルツの盛り上げ方など大袈裟なくらいで微笑ましい。満員のお客さんの面前で上々の滑り出しである。

 周防亮介が登場しブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストにとっては管弦楽と一体となってシンフォニックな音楽を作り上げるとともに、管弦楽の厚い響きと渡り合うことになる。技巧的にも体力的にも大変な曲。一方で、ブラームスのハンガリー好きもあって、生真面目だけな演奏では面白くない。ジプシー音楽のような奔放さも必要で、ヴァイオリニストにはなかなかの難物である。
 周防はあいかわらずの確かな技巧と艶やかな音色で、難曲を完全にコントロールした。ブラームス特有の重厚なオーケストラに対しても力負けすることなく、エネルギッシュな推進力と緩急の効いた強靭な表現によってブラームスを楽しませてくれた。

 最後はブラームス「交響曲第1番」。休憩中にパート譜を覗いてみたら茶褐色に変色した年季の入ったもの。交響楽団にとっては最も重要なレパートリーの一つだから当然だろう。冒頭、ティンパニが雄渾に打ち込まれる。弦楽器の上行音型と管楽器の下行音型が歩みを進める。緩徐楽章は抒情的なメロディがオーボエ、クラリネットと受け継がれ、コンマス扇谷泰朋のヴァイオリンとホルンとが絡み合う。スケルツォ風の楽章は複雑なリズムとクラリネットの主題が印象的。フィナーレのアルペンホルンもどきの調べは、ブラームスがクララの誕生祝に書き送ったメロディである。最後は息の長い旋律からコラールを経てベートーヴェンのような堂々たる終結となった。
 コンツは丁寧にオーケストラを管理し、日フィルの柔らかな弦とまろやかな木管、輝かしい金管を調合しながらクライマックスに向けてしなやかな音楽を聴かせてくれた。ただ、このブラームスの最初の交響曲は大見得を切って終わる曲だけど、その箇所だけコンツの間合いがいささか自然さを損なってしまったのが残念だった。

 今年のフェスタ サマーミューザへの参加はこの日フィルで終了。日曜日のせいか厳しい暑さにもかかわらず完売公演だった。

2026/8/6 FSM:梅田俊明×昭和音大 ベートーヴェンと「春の祭典」2026年08月07日 15:46



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
  昭和音楽大学管弦楽団
  テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ

日時:2026年8月6日(水) 18:30開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:梅田 俊明
演目:ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番 ハ長調
   ベートーヴェン/交響曲第4番 変ロ長調
   ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」


 ミューザのお祭りには川崎市にある音楽大学、洗足学園と昭和音大が毎年参加する。
 昭和音大は卒業生に対するキャリア支援の一環として、自前劇場であるテアトロ・ジーリオ・ショウワ専属のオーケストラを組織している。東京音大のTCMオーケストラ・アカデミーや桐朋学園のオーケストラ・アカデミーと同様、プロのオーケストラ奏者の養成を兼ねているのだろう。そのオケが大学オケと合同で公演する。

 まずは「レオノーレ 第3番」。ベートーヴェンの唯一の歌劇「フィデリオ」には4つの序曲が残されている。「フィデリオ」は難産で成功を収めるまで何度も推敲したから序曲もその都度書き直された。「レオノーレ 第3番」は、その4つ序曲のなかの、いやベートーヴェンの全序曲のなかの最高傑作といってよい。
 アダージョで序奏が始まり、主部は構造物のように堅牢。展開部ではトランペットのファンファーレが舞台裏から聴こえる。再現部に入るとフルートの難所があり、弦楽器の快速のパッセージがコーダを導き、最後は熱狂的に盛り上がって終わる。
 梅田俊明×昭和音大は広いダイナミックレンジと納得の緩急でもって大きなベートーヴェンをつくった。序曲というよりは交響詩のよう。トランペットやフルートのソロも美しい。梅田は華奢で温厚な紳士だが、見かけとは大違い、逞しい音楽だった。

 「交響曲第4番」は先月、松井慶太で聴いたばかり。好きな曲だから毎週でも構わない。
 謎めいた序奏、予測不能な和音と転調。主部では木管が掛け合い、弦が縦横無尽に走り回る。昭和音大はさすが若人たちの集団らしく元気いっぱい。音階が上昇し音量が高まっていく。いっとき、夏の暑さを忘れる。これはベートヴェンという清涼剤だ。
 幸福感に包まれた緩徐楽章は「第4番」の核心。昭和音大の弦や木管は優雅、金管やティンパニは力強い。終盤のホルンの響きは万感こもごも到る。スケルツォは迫力満点、トリオは鄙びた感じでその対照が面白い。梅田はかなりスピードアップしてフィナーレに突入した。一瞬危ういと思ったけど、昭和音大は大きく乱れることなくご機嫌に飛ばす。難関のファゴットのソロもこの速度をものともせず見事に決め爽やかに終えた。

 後半は「春の祭典」、難曲である。梅田は派手さをきらい穏やかな演奏をするというイメージがあるが、強弱の幅は大きく、木管も金管も思い切って吹かせる。管楽器は破裂音を魅力的に響かせ、歌いまわしも丁寧。弦は分厚く表現はかなり濃厚だった。
 「春の祭典」はその時々で主役の楽器が変化し続けるのだけど、主役をしっかりと強調し、それでいて全体のバランスを崩さない。メリハリを効かせながら楽曲の流れはスムーズだ。音楽には広がりと奥行きがあり、激しさもずっしりとした重さもあり感心した。
 「春の祭典」は演奏者によって第1部の「大地礼賛」か、第2部の「生贄の踊り」のどちらかが印象に残るものだが、梅田×昭和音大は全曲にわたって隙がない。奇をてらった解釈をするわけではない。次々と変わる各楽器のソロを活かしながら、安定したアンサンブルをもって熱量の高い音楽を繰り広げ、激しい不協和音と変拍子のリズムで衝撃を与えてくれた。暑さを吹き飛ばす好演だった。

PPTのコンサートプログラム2026年08月02日 13:55



 昨日のパシフィックフィルハーモニア東京の定期演奏会で配られたコンサートプログラムについて一言。

 判型が大きく、ボリュームは全16頁とたいしたことないが、全面カラー印刷で写真も豊富、非常にセンスのよい冊子だった。

 この手のパンフレットはA5サイズが多いけど、PPTの冊子は200×200の正方形。エスタンシアやニューヨークの夜景、ラフマニノフの記念銘板などのカラー写真が配置され目に楽しい。

 プログラムノートはYouTubeにおいて「厳選クラシックちゃんねる」を提供するnacoさんが執筆している。nacoさんは今年度からPPT定期の楽曲解説を担当しているようだ。平易な文章で過不足なく説明されている。

 もちろん、N響の「Philharmony」や、都響の「月刊 都響」のような詳細で本格的な案内ではないが、コンサート直前の読み物としては分かりやすく親しみやすい。

 「厳選クラシックちゃんねる」の登録者は30万人を越えている。アーカイブをみると飯森範親や松井慶太のインタビューなどもあり、そこではPPT定期の広報を積極的に行っている。YouTubeでの情報発信は集客に影響を与えているかも知れない。

 苦境にあるPPTだが、こういった斬新なコラボを含め、新しい試みに注目したい。