2026/9/5 原田慶太楼×神奈川フィル コープランド「交響曲第3番」2026年09月05日 21:12



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第416回

日時:2026年9月5日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:原田 慶太楼
共演:テューバ/宮西 純
演目:ガーシュウィン/キューバ序曲
   J.ウィリアムズ/テューバ協奏曲
   コープランド/交響曲第3番


 原田慶太楼お得意のオール・アメリカン・プログラム。先ずは「キューバ序曲」から。
 「ラプソディ・イン・ブルー」「パリのアメリカ人」を書いたあとのガーシュウィンが、キューバで休暇を過ごしたさいボンゴ、マラカス、クラベス、ギロといった現地の楽器を持帰り、これらをフィーチャーして作曲した「キューバ序曲」。初演時は「ルンバ」というタイトルだったが後に改題されたという。因みにクラベスは拍子木のように木の棒を打ち合わせる。ギロは瓢箪の表面を叩いたりこすったりして音を出す。
 ラテンのリズムにのせて急-緩-急-コーダという形式のシンフォニックな音楽。エキゾチックな旋律、打楽器が活躍する多彩な表情とリズム、そして豊かなサウンド、ラテンとクラシックとの融合である。今日の打楽器奏者は総勢9名、ボンゴやクラベスなどは最初から最後まで身体を揺らしながら叩き続けた。原田はコーダに入るとオケ全員を立奏させ、自らは客席の方を向いて盛り上げる。如何にも原田らしいノリノリの演奏だった。

 次いでジョン・ウィリアムズの「テューバ協奏曲」、ソロは首席の宮西純。「テューバ協奏曲」というと同じウィリアムズでもレイフ・ヴォーン・ウィリアムズのそれが有名だけど、どちらにせよテューバをソロにした楽曲は珍しい。
 ジョン・ウィリアムズはもちろん映画音楽の巨匠。しかし、この音楽が映画音楽的かというとそうではない。ここではポップスの語法とクラシック形式との融合だが、分厚いオーケストレーションに頼るのではなく、オケの中からソロを際立たせる管弦楽法を上手く使う。低音楽器であるテューバの通り道をちゃんと確保しつつ、フルートやイングリッシュホルンなど木管と対話する奥行きのある音楽で、オーケストラに精通した作品となっている。
 ソロの宮西純は超絶技巧を駆使しながら音はまろやかで甘い。テューバとは思えないほど軽々と吹く。演奏後、客席からは大歓声、オケメンバーからは拍手喝采で、何度も舞台へ呼び戻されていた。アンコールは映画音楽のような情感のこもった曲で弦楽合奏とともに演奏した。途中、石田組長のソロと掛け合う。休憩時に掲示をみると映画『ミッション』からエンニオ・モリコーネの「ガブリエルのオーボエ」だという。宮西純の名人芸であった。

 後半はコープランドの最後の交響曲「第3番」。アメリカ音楽というと実演では先のガーシュウィンかバーンスタインが多く、次いでこのコープランドかバーバーあたりだろう。コープランドでいえば「ロデオ」や「アパラチアの春」、ついこの間は「静かな都会」を聴いたけど交響曲のライブは初体験。
 第1楽章はのどかで伸びやかな導入部から素朴な木管の主題が始まり金管のファンファーレによって頂点が築かれる。その後、弦楽合奏が優しいメロディーを紡ぎ、再び金管のファンファーレとなる。大地の雄大さを歌い上げるようにこれらが繰り返される。最後は冒頭の主題が戻って来て静かに結ばれる。原田はアタッカで第2楽章へ繋げた。
 第2楽章はホルンの咆哮で幕を開けトランペット、トロンボーンが叫ぶ。激しく駆け回り西部劇のバックで流れていても可笑しくない。中間部は木管と弦楽器の穏やかな旋律で、スケルツォ的楽章におけるトリオであろう。終盤は金管の雄たけびと打楽器との掛け合いで終わる。ここで原田は十分な休みを入れた。
 第3楽章は瞑想的なアンダンティーノ、不協和音が多用され「静かな都会」と重なる響き。中間部で舞曲的な曲調が挿み込まれたあと、冒頭が再現されそのまま切れ目なくフィナーレへと移っていく。結局、原田はこの楽曲を2部構成として提示した。
 第4楽章は木管楽器の控え目な蠢きから始まり、その静けさのなかからフルートが「市民のためのファンファーレ」を奏で、金管と打楽器が加わり今度は「市民のためのファンファーレ」がほぼそのまま再現される。「市民のためのファンファーレ」はアメリカが第二次世界大戦に本格参戦した時期に作曲され、亡くなった兵士たちや時代を生きる普通の人々への敬意が込められている。のちにELPがロック・アレンジでカバーしたから余計有名になった。ファンファーレの旋律は木管楽器、弦楽器にも引き継がれ、変奏されながら盛り上がっていく。コーダはピッコロに先導された金管のファンファーレのなかティンパニ、太鼓、シンバルはもちろんウッドブロック、タムタム、鐘、クラベス、金床などの打楽器が打ち鳴らされ(ここでも打楽器奏者は総勢9名)、勇壮で感動的な結末となった。
 原田にとってアメリカは第二の故郷だろう。その強味が発揮された。圧倒的なエネルギーのなかリズミカルな躍動と情感豊かなメロディを両立させ、爽快で生命力に満ちあふれた演奏で高揚感を与えてくれた。

 コープランドは20世紀の作家だけど、ゲンダイ音楽の真っ只中にあって調性を維持し、明快なリズム、民俗的な旋律も採り入れ、平易で明朗な分かりやすい音楽をつくった。「交響曲第3番」は親しみやすく明快で、古き良きアメリカを想像させる曲だ。カウボーイ・ソングや讃美歌のような旋律があり、ヒロイズムや肯定主義、愛国主義といったイメージさえ浮かぶ。
 与太話の類ながら、崩壊したソビエト社会主義共和国連邦が、ショスタコーヴィチに求めたのは、皮肉にもこういった楽曲だったのではないか。

2026/8/23 ブリューズ×東響 ベルリオーズ「幻想交響曲」2026年08月23日 21:43



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第106回

日時:2026年8月23日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ピエール・ブリューズ
共演:ピアノ/角野 隼斗
演目:角野 隼斗/ピアノとオーケストラのための「無我」
   カプースチン/ピアノ協奏曲第4番 op.56
   ベルリオーズ/「幻想交響曲」 op.14


 ピエール・ブリューズは東響とは2度目の共演らしいが初めて聴く。ピエール・ブーレーズと名前がちょっと似ていて紛らわしいが、そのブーレーズが設立したアンサンブル・アンタルコンタンポランの現音楽監督。
 ソリストの角野隼斗は人気のピアニスト兼作曲家、とうぜん完売公演となった。

 最初は角野自身の新作「無我」から。10分程度の小品で世界初演。
 特徴的なリズムが全曲を通し絶え間なく脈動する。川の流れや森のざわめきなどにも聴こえる。あいだにはいかにも日本的な抒情が紛れ込む。角野はブリューズの振る軽快なオケとともに躍動した。

 続いて、カプースチンの「ピアノ協奏曲第4番」。オケの編成が変則で、10-8-6-4-3の小ぶりの弦5部とフルート、オーボエ、クラリネットの木管が各1本、それにティンパニとドラムセット。
 楽曲はクラシック音楽というよりはジャズそのもの。オケはビッグバンドのようでピアノは即興演奏風。もちろん即興ではなくてカプースチンによって楽譜に書き込まれているのだろうけど、角野は洒脱にまるで音と戯れるごとく弾いた。終盤、カデンツァのあと長大なコーダに突入し、ピアノ、オケともテンションを高めていき興奮させてくれた。
 カプースチンはウクライナ出身、モスクワ音楽院で学び、ピアノ曲を中心に200曲近い作品を書き(ピアノ協奏曲は全6曲)、2020年に亡くなっている。ショスタコーヴィチも「ジャズ組曲」などを書いているが、この作品、とても旧ソ連を生きてきた作家のものとは思えない。
 演奏後、会場の1階、2階では何人かのおば様方がスタンディングオベーション、角野を熱烈に追っかけているご婦人たちがいたようだ。

 後半はベルリオーズの「幻想交響曲」。弦は16型に拡大し、第2楽章「舞踏会」で使われるハープ2台は舞台の最前列、指揮者の左右に位置した。
 ブリューズは顔の下半分がヒゲに覆われ、一見すると格闘技の選手のよう。前半の協奏曲は軽妙に自由度高くオケをコントロールしていたが、「幻想交響曲」では外見通り、ねっとりと濃い演奏を繰り広げた。
 たっぷり目のテンポで微に入り細を穿つように各声部にスポットをあて、ベルリーオーズの革新的な音響や音色をあぶりだした。テンポの揺らぎや強弱のアクセント、緩急を巧みに使いながらアイデアを一杯詰め込んだ演奏だった。やはりアンサンブル・アンタルコンタンポランの音楽監督は伊達じゃない。
 東響もブリューズの要求に応え、柔らかで分厚い弦と透明で美しい木管、豊かな音量の金管、瞬発力のある打楽器でもって解像度の高い立体的な音楽をつくりあげた。
 東響の「幻想交響曲」といえば過去にダン・エッティンガーやロベルト・アバド、川瀬賢太郎などの忘れられない演奏が幾つかあるが、このブリューズ×東響も「幻想交響曲」の名演録に記載されることになりそうだ。

新日フィルの来期プログラム2026年08月16日 14:05



 新日本フィルハーモニー交響楽団の来シーズン(2027年4月~2028年3月)のプログラム速報が発表になった。
 例年通りトリフォニーホールとサントリーホール(改修のため上期はオペラシティH)の同一プログラムによる「定期演奏会」が各7回、金曜と土曜両日にトリフォニーホールにて開催される「すみだクラシックの扉」が各8回である。

https://www.njp.or.jp/wp-content/uploads/2026/08/2027-2028%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%B3%E9%80%9F%E5%A0%B12027-28.pdf


 音楽監督就任5シーズン目を迎える佐渡裕は、「定期演奏会」において就任以来取り組んできた「ウィーン・ライン」を継続する。「すみだクラシックの扉」ではイタリアとフランス音楽を取り上げる。
 「定期演奏会」にはマリン・オルソップ、アンドレイ・ボレイコ、ジョナサン・ノットなどが客演するが演目としてはあまり興味がわかない。
 唯一、名曲を中心に“音楽で世界の旅へ”をテーマに開催される「すみだクラシックの扉」において、大友直人がブルックナーの「交響曲第4番」と、宮田大をソロに迎えてエルガーの「チェロ協奏曲」を披露する。大友のブルックナーは珍しいし、得意のエルガーを宮田と協演するのも注目である。

2026/8/9 FSM:コンツ×日フィル ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」「交響曲第1番」2026年08月09日 20:53



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
  日本フィルハーモニー交響楽団

日時:2026年8月9日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:クリストフ・コンツ
共演:ヴァイオリン/周防 亮介
演目:J.シュトラウス2世/喜歌劇「こうもり」序曲
   ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
   ブラームス/交響曲第1番 ハ短調

 
 指揮のクリストフ・コンツはウィーン・フィルの第2ヴァイオリン首席奏者から指揮者に転向した。来年からはリンツ・ブルックナー管および州立劇場の音楽監督になる。指揮者としてはまだ若手の40歳手前である。

 ウィンナ・オペレッタの代表作「こうもり」序曲でスタート。喜歌劇のなかからワルツやポルカ、アリアがふんだんに引用されている。劇音楽のエッセンスがぎゅっと詰まっており、流麗な旋律、生き生きしたリズムなどシュトラウスの愉悦が一杯。コンツはウィーン・フィルで数えきれないほどこの曲を弾いてきたのだろう。ワルツの盛り上げ方など大袈裟なくらいで微笑ましい。満員のお客さんの面前で上々の滑り出しである。

 周防亮介が登場しブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストにとっては管弦楽と一体となってシンフォニックな音楽を作り上げるとともに、管弦楽の厚い響きと渡り合うことになる。技巧的にも体力的にも大変な曲。一方で、ブラームスのハンガリー好きもあって、生真面目だけな演奏では面白くない。ジプシー音楽のような奔放さも必要で、ヴァイオリニストにはなかなかの難物である。
 周防はあいかわらずの確かな技巧と艶やかな音色で、難曲を完全にコントロールした。ブラームス特有の重厚なオーケストラに対しても力負けすることなく、エネルギッシュな推進力と緩急の効いた強靭な表現によってブラームスを楽しませてくれた。

 最後はブラームス「交響曲第1番」。休憩中にパート譜を覗いてみたら茶褐色に変色した年季の入ったもの。交響楽団にとっては最も重要なレパートリーの一つだから当然だろう。冒頭、ティンパニが雄渾に打ち込まれる。弦楽器の上行音型と管楽器の下行音型が歩みを進める。緩徐楽章は抒情的なメロディがオーボエ、クラリネットと受け継がれ、コンマス扇谷泰朋のヴァイオリンとホルンとが絡み合う。スケルツォ風の楽章は複雑なリズムとクラリネットの主題が印象的。フィナーレのアルペンホルンもどきの調べは、ブラームスがクララの誕生祝に書き送ったメロディである。最後は息の長い旋律からコラールを経てベートーヴェンのような堂々たる終結となった。
 コンツは丁寧にオーケストラを管理し、日フィルの柔らかな弦とまろやかな木管、輝かしい金管を調合しながらクライマックスに向けてしなやかな音楽を聴かせてくれた。ただ、このブラームスの最初の交響曲は大見得を切って終わる曲だけど、その箇所だけコンツの間合いがいささか自然さを損なってしまったのが残念だった。

 今年のフェスタ サマーミューザへの参加はこの日フィルで終了。日曜日のせいか厳しい暑さにもかかわらず完売公演だった。

2026/8/6 FSM:梅田俊明×昭和音大 ベートーヴェンと「春の祭典」2026年08月07日 15:46



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
  昭和音楽大学管弦楽団
  テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ

日時:2026年8月6日(水) 18:30開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:梅田 俊明
演目:ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番 ハ長調
   ベートーヴェン/交響曲第4番 変ロ長調
   ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」


 ミューザのお祭りには川崎市にある音楽大学、洗足学園と昭和音大が毎年参加する。
 昭和音大は卒業生に対するキャリア支援の一環として、自前劇場であるテアトロ・ジーリオ・ショウワ専属のオーケストラを組織している。東京音大のTCMオーケストラ・アカデミーや桐朋学園のオーケストラ・アカデミーと同様、プロのオーケストラ奏者の養成を兼ねているのだろう。そのオケが大学オケと合同で公演する。

 まずは「レオノーレ 第3番」。ベートーヴェンの唯一の歌劇「フィデリオ」には4つの序曲が残されている。「フィデリオ」は難産で成功を収めるまで何度も推敲したから序曲もその都度書き直された。「レオノーレ 第3番」は、その4つ序曲のなかの、いやベートーヴェンの全序曲のなかの最高傑作といってよい。
 アダージョで序奏が始まり、主部は構造物のように堅牢。展開部ではトランペットのファンファーレが舞台裏から聴こえる。再現部に入るとフルートの難所があり、弦楽器の快速のパッセージがコーダを導き、最後は熱狂的に盛り上がって終わる。
 梅田俊明×昭和音大は広いダイナミックレンジと納得の緩急でもって大きなベートーヴェンをつくった。序曲というよりは交響詩のよう。トランペットやフルートのソロも美しい。梅田は華奢で温厚な紳士だが、見かけとは大違い、逞しい音楽だった。

 「交響曲第4番」は先月、松井慶太で聴いたばかり。好きな曲だから毎週でも構わない。
 謎めいた序奏、予測不能な和音と転調。主部では木管が掛け合い、弦が縦横無尽に走り回る。昭和音大はさすが若人たちの集団らしく元気いっぱい。音階が上昇し音量が高まっていく。いっとき、夏の暑さを忘れる。これはベートヴェンという清涼剤だ。
 幸福感に包まれた緩徐楽章は「第4番」の核心。昭和音大の弦や木管は優雅、金管やティンパニは力強い。終盤のホルンの響きは万感こもごも到る。スケルツォは迫力満点、トリオは鄙びた感じでその対照が面白い。梅田はかなりスピードアップしてフィナーレに突入した。一瞬危ういと思ったけど、昭和音大は大きく乱れることなくご機嫌に飛ばす。難関のファゴットのソロもこの速度をものともせず見事に決め爽やかに終えた。

 後半は「春の祭典」、難曲である。梅田は派手さをきらい穏やかな演奏をするというイメージがあるが、強弱の幅は大きく、木管も金管も思い切って吹かせる。管楽器は破裂音を魅力的に響かせ、歌いまわしも丁寧。弦は分厚く表現はかなり濃厚だった。
 「春の祭典」はその時々で主役の楽器が変化し続けるのだけど、主役をしっかりと強調し、それでいて全体のバランスを崩さない。メリハリを効かせながら楽曲の流れはスムーズだ。音楽には広がりと奥行きがあり、激しさもずっしりとした重さもあり感心した。
 「春の祭典」は演奏者によって第1部の「大地礼賛」か、第2部の「生贄の踊り」のどちらかが印象に残るものだが、梅田×昭和音大は全曲にわたって隙がない。奇をてらった解釈をするわけではない。次々と変わる各楽器のソロを活かしながら、安定したアンサンブルをもって熱量の高い音楽を繰り広げ、激しい不協和音と変拍子のリズムで衝撃を与えてくれた。暑さを吹き飛ばす好演だった。