東響の音楽監督ロレンツォ・ヴィオッティが任期を延長2026年09月11日 09:32



 今年度から3年契約で東京交響楽団の音楽監督に就任したロレンツォ・ヴィオッティが、早くも任期を2034年3月まで延長し、少なくとも8年のあいだ東響の音楽監督を務めることになった。

 もともと東響の音楽監督は、歴代の秋山和義、ユベール・スダーン、ジョナサン・ノットのそれぞれが10年ないし10年以上の長期政権であり、これがいわば東響の伝統だから驚くにはあたらないけど、正直なところヴィオッティの音楽監督は短期で終わるのではないかと危惧していた。

 ヴィオッティは2028年8月よりチューリッヒ歌劇場の音楽総監督に就任することが決まっている。一級のオーケストラや歌劇場からも引く手あまた。一方で、前任のオランダ国立歌劇場は家庭を大切にしたいという理由で任期延長の要請を断っている。年齢的にいえば音楽家のキャリアを築くに重要な時期であって、極東の地で長く監督を引き受けるのは難しいのではないかと思っていた。

 しかし、東響の音楽監督については任期延長を果敢に決断してくれた。本人が言うように東響との相性には手応えを感じているのだろう。また、聴衆の熱狂も後押しをしたに違いない。この先、両者の音楽をどれほど聴けるか分からないが、監督延長の決定を率直に悦びたい。

https://tokyosymphony.jp/news/61878/

神奈川フィルの来期プログラム2026年09月10日 11:31



 神奈川フィルハーモニー管弦楽団から定期会員継続の案内が届いた。
 今期は「みなとみらい」と「ミューザ川崎」両シリーズの年会員となっているが、来期(2027/4~2028/3)のプログラムはあまり魅力を感じない。毎年、東響との日程調整にも苦労するので、来期は年会員を中止しセレクト会員(3公演以上の選択)に変更したいと考えている。

 定期演奏会は「みなとみらい」が9公演、「音楽堂」が4公演、「ミューザ川崎」が3公演であり、具体的なプログラムは以下の通りとなっている。

https://www.kanaphil.or.jp/news/783/

 「みなとみらい」シリーズは音楽監督の沼尻竜典、特別客演指揮者の小泉和裕以外では、広上淳一が「グレイト」を、大植英次が「交響的舞曲」を振る。この2公演は聴きたい。海外からはお馴染みのダニエル・ライスキンとゲオルク・フリッチュ、それに若手指揮者のオスカー・ヨッケルが登場する。
 「音楽堂」シリーズは<古典から現代へ>をテーマに意外な楽曲を組み合わせて構成される。指揮は鈴木優人、阪田知樹、ヤン・ヴィレム・デ・フリーントと沼尻竜典である。
 「ミューザ川崎」シリーズでは<Beethoven Ring>を一旦終え、ベートーヴェンの「その後」にスポットをあてる。来期の沼尻監督は今までのように「みなとみらい」においてマーラー、ブルックナー、ショスタコーヴィチを全く振らないが、「ミューザ川崎」ではブルックナーの「交響曲第6番」を取り上げる。プログラムの前半は清水和音の「皇帝」である。ソワレはできるだけ避けたいけどこれは聴くことになりそう。
 ほかに、セミステージ形式のオペラであるDramatic Seriesがあり、来期はプッチーニの「ラ・ボエーム」を上演する。これにも期待したい。

2026/9/5 原田慶太楼×神奈川フィル コープランド「交響曲第3番」2026年09月05日 21:12



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第416回

日時:2026年9月5日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:原田 慶太楼
共演:テューバ/宮西 純
演目:ガーシュウィン/キューバ序曲
   J.ウィリアムズ/テューバ協奏曲
   コープランド/交響曲第3番


 原田慶太楼お得意のオール・アメリカン・プログラム。先ずは「キューバ序曲」から。
 「ラプソディ・イン・ブルー」「パリのアメリカ人」を書いたあとのガーシュウィンが、キューバで休暇を過ごしたさいボンゴ、マラカス、クラベス、ギロといった現地の楽器を持帰り、これらをフィーチャーして作曲した「キューバ序曲」。初演時は「ルンバ」というタイトルだったが後に改題されたという。因みにクラベスは拍子木のように木の棒を打ち合わせる。ギロは瓢箪の表面を叩いたりこすったりして音を出す。
 ラテンのリズムにのせて急-緩-急-コーダという形式のシンフォニックな音楽。エキゾチックな旋律、打楽器が活躍する多彩な表情とリズム、そして豊かなサウンド、ラテンとクラシックとの融合である。今日の打楽器奏者は総勢9名、ボンゴやクラベスなどは最初から最後まで身体を揺らしながら叩き続けた。原田はコーダに入るとオケ全員を立奏させ、自らは客席の方を向いて盛り上げる。如何にも原田らしいノリノリの演奏だった。

 次いでジョン・ウィリアムズの「テューバ協奏曲」、ソロは首席の宮西純。「テューバ協奏曲」というと同じウィリアムズでもレイフ・ヴォーン・ウィリアムズのそれが有名だけど、どちらにせよテューバをソロにした楽曲は珍しい。
 ジョン・ウィリアムズはもちろん映画音楽の巨匠。しかし、この音楽が映画音楽的かというとそうではない。ここではポップスの語法とクラシック形式との融合だが、分厚いオーケストレーションに頼るのではなく、オケの中からソロを際立たせる管弦楽法を上手く使う。低音楽器であるテューバの通り道をちゃんと確保しつつ、フルートやイングリッシュホルンなど木管と対話する奥行きのある音楽で、オーケストラに精通した作品となっている。
 ソロの宮西純は超絶技巧を駆使しながら音はまろやかで甘い。テューバとは思えないほど軽々と吹く。演奏後、客席からは大歓声、オケメンバーからは拍手喝采で、何度も舞台へ呼び戻されていた。アンコールは映画音楽のような情感のこもった曲で弦楽合奏とともに演奏した。途中、石田組長のソロと掛け合う。休憩時に掲示をみると映画『ミッション』からエンニオ・モリコーネの「ガブリエルのオーボエ」だという。宮西純の名人芸であった。

 後半はコープランドの最後の交響曲「第3番」。アメリカ音楽というと実演では先のガーシュウィンかバーンスタインが多く、次いでこのコープランドかバーバーあたりだろう。コープランドでいえば「ロデオ」や「アパラチアの春」、ついこの間は「静かな都会」を聴いたけど交響曲のライブは初体験。
 第1楽章はのどかで伸びやかな導入部から素朴な木管の主題が始まり金管のファンファーレによって頂点が築かれる。その後、弦楽合奏が優しいメロディーを紡ぎ、再び金管のファンファーレとなる。大地の雄大さを歌い上げるようにこれらが繰り返される。最後は冒頭の主題が戻って来て静かに結ばれる。原田はアタッカで第2楽章へ繋げた。
 第2楽章はホルンの咆哮で幕を開けトランペット、トロンボーンが叫ぶ。激しく駆け回り西部劇のバックで流れていても可笑しくない。中間部は木管と弦楽器の穏やかな旋律で、スケルツォ的楽章におけるトリオであろう。終盤は金管の雄たけびと打楽器との掛け合いで終わる。ここで原田は十分な休みを入れた。
 第3楽章は瞑想的なアンダンティーノ、不協和音が多用され「静かな都会」と重なる響き。中間部で舞曲的な曲調が挿み込まれたあと、冒頭が再現されそのまま切れ目なくフィナーレへと移っていく。結局、原田はこの楽曲を2部構成として提示した。
 第4楽章は木管楽器の控え目な蠢きから始まり、その静けさのなかからフルートが「市民のためのファンファーレ」を奏で、金管と打楽器が加わり今度は「市民のためのファンファーレ」がほぼそのまま再現される。「市民のためのファンファーレ」はアメリカが第二次世界大戦に本格参戦した時期に作曲され、亡くなった兵士たちや時代を生きる普通の人々への敬意が込められている。のちにELPがロック・アレンジでカバーしたから余計有名になった。ファンファーレの旋律は木管楽器、弦楽器にも引き継がれ、変奏されながら盛り上がっていく。コーダはピッコロに先導された金管のファンファーレのなかティンパニ、太鼓、シンバルはもちろんウッドブロック、タムタム、鐘、クラベス、金床などの打楽器が打ち鳴らされ(ここでも打楽器奏者は総勢9名)、勇壮で感動的な結末となった。
 原田にとってアメリカは第二の故郷だろう。その強味が発揮された。圧倒的なエネルギーのなかリズミカルな躍動と情感豊かなメロディを両立させ、爽快で生命力に満ちあふれた演奏で高揚感を与えてくれた。

 コープランドは20世紀の作家だけど、ゲンダイ音楽の真っ只中にあって調性を維持し、明快なリズム、民俗的な旋律も採り入れ、平易で明朗な分かりやすい音楽をつくった。「交響曲第3番」は親しみやすく明快で、古き良きアメリカを想像させる曲だ。カウボーイ・ソングや讃美歌のような旋律があり、ヒロイズムや肯定主義、愛国主義といったイメージさえ浮かぶ。
 与太話の類ながら、崩壊したソビエト社会主義共和国連邦が、ショスタコーヴィチに求めたのは、皮肉にもこういった楽曲だったのではないか。

2026/8/23 ブリューズ×東響 ベルリオーズ「幻想交響曲」2026年08月23日 21:43



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第106回

日時:2026年8月23日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ピエール・ブリューズ
共演:ピアノ/角野 隼斗
演目:角野 隼斗/ピアノとオーケストラのための「無我」
   カプースチン/ピアノ協奏曲第4番 op.56
   ベルリオーズ/「幻想交響曲」 op.14


 ピエール・ブリューズは東響とは2度目の共演らしいが初めて聴く。ピエール・ブーレーズと名前がちょっと似ていて紛らわしいが、そのブーレーズが設立したアンサンブル・アンタルコンタンポランの現音楽監督。
 ソリストの角野隼斗は人気のピアニスト兼作曲家、とうぜん完売公演となった。

 最初は角野自身の新作「無我」から。10分程度の小品で世界初演。
 特徴的なリズムが全曲を通し絶え間なく脈動する。川の流れや森のざわめきなどにも聴こえる。あいだにはいかにも日本的な抒情が紛れ込む。角野はブリューズの振る軽快なオケとともに躍動した。

 続いて、カプースチンの「ピアノ協奏曲第4番」。オケの編成が変則で、10-8-6-4-3の小ぶりの弦5部とフルート、オーボエ、クラリネットの木管が各1本、それにティンパニとドラムセット。
 楽曲はクラシック音楽というよりはジャズそのもの。オケはビッグバンドのようでピアノは即興演奏風。もちろん即興ではなくてカプースチンによって楽譜に書き込まれているのだろうけど、角野は洒脱にまるで音と戯れるごとく弾いた。終盤、カデンツァのあと長大なコーダに突入し、ピアノ、オケともテンションを高めていき興奮させてくれた。
 カプースチンはウクライナ出身、モスクワ音楽院で学び、ピアノ曲を中心に200曲近い作品を書き(ピアノ協奏曲は全6曲)、2020年に亡くなっている。ショスタコーヴィチも「ジャズ組曲」などを書いているが、この作品、とても旧ソ連を生きてきた作家のものとは思えない。
 演奏後、会場の1階、2階では何人かのおば様方がスタンディングオベーション、角野を熱烈に追っかけているご婦人たちがいたようだ。

 後半はベルリオーズの「幻想交響曲」。弦は16型に拡大し、第2楽章「舞踏会」で使われるハープ2台は舞台の最前列、指揮者の左右に位置した。
 ブリューズは顔の下半分がヒゲに覆われ、一見すると格闘技の選手のよう。前半の協奏曲は軽妙に自由度高くオケをコントロールしていたが、「幻想交響曲」では外見通り、ねっとりと濃い演奏を繰り広げた。
 たっぷり目のテンポで微に入り細を穿つように各声部にスポットをあて、ベルリーオーズの革新的な音響や音色をあぶりだした。テンポの揺らぎや強弱のアクセント、緩急を巧みに使いながらアイデアを一杯詰め込んだ演奏だった。やはりアンサンブル・アンタルコンタンポランの音楽監督は伊達じゃない。
 東響もブリューズの要求に応え、柔らかで分厚い弦と透明で美しい木管、豊かな音量の金管、瞬発力のある打楽器でもって解像度の高い立体的な音楽をつくりあげた。
 東響の「幻想交響曲」といえば過去にダン・エッティンガーやロベルト・アバド、川瀬賢太郎などの忘れられない演奏が幾つかあるが、このブリューズ×東響も「幻想交響曲」の名演録に記載されることになりそうだ。

新日フィルの来期プログラム2026年08月16日 14:05



 新日本フィルハーモニー交響楽団の来シーズン(2027年4月~2028年3月)のプログラム速報が発表になった。
 例年通りトリフォニーホールとサントリーホール(改修のため上期はオペラシティH)の同一プログラムによる「定期演奏会」が各7回、金曜と土曜両日にトリフォニーホールにて開催される「すみだクラシックの扉」が各8回である。

https://www.njp.or.jp/wp-content/uploads/2026/08/2027-2028%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%B3%E9%80%9F%E5%A0%B12027-28.pdf


 音楽監督就任5シーズン目を迎える佐渡裕は、「定期演奏会」において就任以来取り組んできた「ウィーン・ライン」を継続する。「すみだクラシックの扉」ではイタリアとフランス音楽を取り上げる。
 「定期演奏会」にはマリン・オルソップ、アンドレイ・ボレイコ、ジョナサン・ノットなどが客演するが演目としてはあまり興味がわかない。
 唯一、名曲を中心に“音楽で世界の旅へ”をテーマに開催される「すみだクラシックの扉」において、大友直人がブルックナーの「交響曲第4番」と、宮田大をソロに迎えてエルガーの「チェロ協奏曲」を披露する。大友のブルックナーは珍しいし、得意のエルガーを宮田と協演するのも注目である。