2025/2/15 沼尻竜典×神奈川フィル ショスタコーヴィチ「交響曲第10番」2025年02月15日 22:03



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第402回

日時:2025年2月15日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:沼尻 竜典
共演:ヴァイオリン/服部 百音
   チェロ/佐藤 晴真
演目:ブラームス/ヴァイオリンとチェロのための
         二重協奏曲 イ短調Op.102
   ショスタコーヴィチ/交響曲第10番 ホ短調Op.93


 今年初の神奈川フィルだが、年度でいえば終盤、今日の沼尻監督のあと来月のライスキンにて閉幕となる。沼尻はショスタコーヴィチを毎シーズン取りあげており、前々期が「8番」、前期が「7番」で、今期が「10番」、来期開幕の4月には「12番」が予定されている。

 前半はブラームスのドッペルコンチェルト、ソリストは服部百音と佐藤晴真。
 以前、広上×京響のドッペルコンチェルトを佐藤晴真で聴いている。相方のヴァイオリンは黒川侑だった。服部百音は過去にはエッティンガー×東フィルとのメンコンを聴いた。
 ドッペルコンチェルトはブラームス最後の管弦楽曲、「交響曲第5番」になるはずが協奏曲になった楽曲と言われている。地味だけどブラームスらしく骨太でがっちりした構造、幾つかの主題も魅力的だ。
 アレグロは、力強いテーマと抒情的な曲調が反復しつつ、ブラームスらしい旋律が演奏される。チェロとヴァイオリンが交互にリードしながら進行する。佐藤と服部のハーモニー、沼尻の振る力漲るオケ、いずれも好調である。
 アンダンテは、ホルンでのびやかに開始され、管楽器がこだまのように鳴る。ホルンは新人と客演で固めていたが良い音を出していた。弦楽器の伴奏にのって独奏のヴァイオリンとチェロが寂しい雰囲気の主題を奏でる。チェロとヴァイオリンの対話が際立ち、静謐で甘美なメロディが会場を満たす。
 ヴィヴァーチェは、ジプシー音楽のような舞曲風の楽章。ユーモラスに聴こえる部分もあるけど難曲。テーマが繰り返され、さまざまな変奏が行われることで興奮が高まっていく。石田泰尚が率いるオケも二人のソロも表現の濃淡が鮮やかで情熱的なブラームスだった。
 アンコールはヴァイオリンとチェロの二重奏によるヘンデルの「パッサカリア」、ハルヴォルセンの編曲だという。これが絶品。セカンドヴァイオリン首席の直江さんが何度も頷きながら聴いていた。満員の客席が沸きに沸いた。

 後半がショスタコーヴィチの交響曲、今年になってからN響の「7番」、MM21響の「9番」、都響の「13番」と続き、今日が「10番」である。「10番」は「5番」と並んで聴く頻度が高い。
 第1楽章は冒頭の低弦から緊張感が徐々に高まり、恐怖が迫る暗澹たる楽章。神奈川フィルの弦や管、打楽器の妙技に魅せられているうちに終わった。体感的に長さを全く感じさせない。
 第2楽章は各楽器が入り乱れ、銃弾が飛び交うような狂気のアレグロだが、そのスピード感が爽快に思えるほど。「10番」はアマオケでもときどき取り上げるけど、プロとの差が歴然とするのはこの楽章。沼尻×神奈川フィルの速度とキレ、一糸乱れぬアンサンブルに大興奮。
 第3楽章はいびつな舞曲で、しつこいくらいイニシャルの音型が散りばめられている。この音名象徴で目立つのはホルンの豊田さん。以前のユージン・ツィガーンのときに比べると格段に安定していた。ホルンチームの新人たちとの連携も良好。
 最終楽章は第1楽章が戻ってきたように開始されるが、アレグロに突入すると乱痴気騒ぎとなる。神奈川フィルはこのところフルート、ファゴット、ホルン、トロンボーン、パーカッションなど各セクションに契約団員が何人も加入している。契約団員は本採用待ちの団員だと思うが、この混沌とした音楽を容易く捌いて行く。将来が楽しみである。

 沼尻のショスタコーヴィチは、神奈川フィルとの「8番」、東響との「11番」が名演だった。この「10番」も恐怖や暴力、皮肉や諧謔を感じさせるよりは、純粋な音楽として説得力があった。ショスタコーヴィチの二重言語的な振舞いや、暗号のような音名象徴にとらわれなくても、あるがままの絶対音楽としてどうか、と問うているようでもあった。
 沼尻は、この4月に神奈川フィルとの「12番」が控えているが、その前の3月末には音大合同オケを振って「4番」を披露する。これだけ素晴らしいショスタコーヴィチとなれば期待は高まるばかりである。

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