フェスタサマーミューザKAWASAKI 20242024年03月26日 19:16



 今年の「サマーミューザ」のプログラムが発表になった。期間は7月21日から8月12日までの19公演、会場はミューザ(17公演)とテアトロ・ジーリオ・ショウワ(2公演)において開催される。

https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/

 地方からは兵庫芸術文化センター管弦楽団と浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァルワールドドリーム・ウインドオーケストラが参加し、いつものように県内の2つの音大、洗足学園と昭和音大も出演する。

 興味を惹くのは、井上道義×新日フィルによるマーラー「夜の歌」、園田隆一郎×神奈川フィルの團伊玖磨とプッチーニ、原田慶太楼×東響の伊福部昭あたりだろうか。ざっとみて聴きたい公演が10ほどあるけど、ここから半分くらいまで絞り込んでいきたい。チケットの発売は4月の中旬から始まる。

2024/3/20 ファミリー・クラシック ピアノ四重奏版「エロイカ」2024年03月20日 20:38



ヴィアマーレ・ファミリー・クラシックVol.23
 ピアノ四重奏で聴くベートーヴェンの「英雄」

日時:2024年3月20日(水祝) 14:00開演
会場:はまぎんホール ヴィアマーレ
出演:ヴァイオリン/戸原 直、直江 智沙子
   ヴィオラ/大島 亮
   チェロ/上森 祥平
   ピアノ/嘉屋 翔太
演目:ピアノソナタ第23番ヘ短調Op.57
     「熱情」より第1楽章
   ヴァイオリンソナタ第5番ヘ長調Op.24
     「春」より第1楽章
   弦楽四重奏曲第13番変ロ長調Op.130
     「カヴァティーナ」より第5楽章
   交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」
     (リース編曲ピアノ四重奏版)

 久しぶりに演奏会をハシゴした。モーツァルト・マチネからファミリー・クラシックへ。両公演とも昼開催で、会場も比較的近い。JRの川崎から桜木町まで約20分、桜木町の駅前で昼食をして、余裕でヴィアマーレへ。ヴィアマーレは横浜銀行本店にある客席数約500人のホールで、以前利用したことがある。音響もなかなか優れている。

 演奏会の全体は二部構成で、第一部は神奈川フィルの企画担当である鎌形昌平さんのレクチャー付きコンサート。鎌形さんは若いけど達者なお喋り。ベートーヴェンの生涯と作品をさらりと語り、その間に演奏を挟み込む。
 最初は「熱情」の第1楽章から。ピアノソロはゲストの嘉屋翔太、弱冠23歳、フランツ・リスト国際ピアノコンクールで最高位を獲得している。重心の低い力強いピアノ。次いで、これもゲストの戸原直が登場し、嘉屋とともに「春」の第1楽章を。戸原は今年1月に読響のコンマスに就任した。しなやかで甘い響きが「春」にお似合い。最後に、神奈川フィルの首席たち(Vn.直江、Va.大島、Vc.上森)が戸原とともに弦楽四重奏を組んで「カヴァティーナ」(「第13番」の第5楽章)、臨時編成とは思えないほど息の合った演奏。ピアノソナタ、ヴァイオリンソナタ、弦楽四重奏曲の良いとこ取りの前半だった。

 第二部が神奈川フィルの3人と嘉屋翔太によるピアノ四重奏版の「エロイカ」。
 室内楽版に編曲したのはフェルディナント・リース。リースは、ベートーヴェンの弟子であり友人でもあったピアニスト。シンフォニーの演奏機会が少なかったコンサート・ビジネスの黎明期には、サロン・コンサート用に多くの管弦楽作品が編曲された。楽譜出版社の売上にも貢献したのだろう。室内楽版は作曲者自らが編曲する例もあるが、「エロイカ」の場合はベートーヴェンの弟子のリースとフンメルがそれぞれのヴァージョンで編曲しているという。
 室内楽版はやはりピアノが骨格をつくっていく。ゲストの若い嘉屋翔太が驚異的な働きをみせた。重厚な響き、余裕のあるダイナミクス、スムーズな緩急、的確なパウゼ、弦楽器奏者との呼吸や手際よさにとても感心した。
 各楽章ともそれぞれ興味深く聴いたが、圧巻は最終楽章、ベートーヴェンの途方もない着想と技法が詰まった変奏曲たちの場面は、奏者がたった4人であることを忘れるほどの迫力。とくにコーダに向けての第9変奏と第10変奏は、まさに肌が粟立つような演奏だった。

2024/3/20 鈴木秀美×東響 モーツァルト「交響曲第29番」2024年03月20日 17:30



東京交響楽団 モーツァルト・マチネ第56回

日時:2024年3月20日(水祝) 11:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:鈴木 秀美
共演:ヴァイオリン/グレブ・ニキティン
演目:交響曲第34番 ハ長調 K.338
   ヴァイオリンとオーケストラのためのアダージォ
                  ホ長調 K.261
   交響曲第29番 イ長調 K.201(186a)


 今年度最終のモーツァルト・マチネ。昼前の1時間、交響曲ふたつと小品の組み合わせ。指揮は古楽器奏者でもある鈴木秀美。

 「交響曲第34番」はモーツァルト24歳。モーツァルトの交響曲といえば「第35番」(ハフナー)以降の6曲が圧倒的に有名だけど、このザルツブルク時代最後のシンフォニーも魅力的。当然、ピリオド奏法でバロックティンパニとナチュラルトランペットを用いた。
 第1楽章は行進曲風で壮麗かつ輝かしい、ここはいつもピアノ協奏曲の「第22番」や「第25番」を連想してしまう。第2楽章のアンダンテは弦楽器群だけで演奏される。優美で優雅な歌。フィナーレはプレスト、清水さんのティンパニの活躍が目覚ましい。憂愁を含みつつ機智に富む楽章。疾風のように通り過ぎた。この交響曲は何故なのかメヌエットを欠くが、祝祭的で気分が高揚する。

 「アダージォ ホ長調」はモーツァルト20歳。「ヴァイオリン協奏曲第5番」の第2楽章の代替として書かれたというのが定説だけど、実際はよく分からない。ソロはニキティン、コンマスの席には田尻さん。弦5部にフルートとホルンが加わる。歌うように始まり、すぐに半音階的な旋律が耳に入って来る。お馴染みのモーツァルトの翳りである。「ヴァイオリン協奏曲第5番」の第2楽章のほうが悲哀の度合は強いが、この「アダージョ」も素敵な曲である。

 「交響曲第29番」はモーツァルト18歳。編成は弦5部とオーボエ、ホルンが各2本というつつましいものながら、現在でも「交響曲第25番」と並んでメジャー・オーケストラの重要なレパートリーであり続けている。
 第1楽章は、揺れ動く和音にのってひっそりとヴァイオリンが歌いだす。次第に各声部が絡んできて立体感を増していく。管楽器は持続音が中心だけど、管楽器が加わったあとはカノン風に緻密な展開をみせる。第2楽章では弱音器をつけたヴァイオリンによる密やかな主題ではじまる。符点リズムが特徴的なしっとりとした肌ざわり。ここは今回の演奏会の白眉、絶品の仕上がりだった。第3楽章も符点のリズムが全体を支配してリズミカル。メヌエットではあるけど舞曲というよりはスケルツォ的な表情をみせる。終楽章は快活で緊密、指揮の鈴木秀美はここを急がずじっくりと彫琢した。ホルンの響きもあり狩りの音楽の雰囲気だが、第1楽章と同様のオクターブ下降、駆け上がるスケールなどが、生命力を漲らせる。
 小ト短調「第25番」が情念の迸りとすれば、イ長調「第29番」の方は静謐の境地。印象は全く違うものの、両曲が揃うことでモーツァルトの表現力が十全に完成しているともいえる。名曲である。

2024/3/17 マリー・ジャコ×読響+メルニコフ 「皇帝」とブラームス「交響曲第4番」2024年03月17日 20:45



読売日本交響楽団
 第265回日曜マチネーシリーズ

日時:2024年3月17日(日) 14:00開演
会場:東京芸術劇場
指揮:マリー・ジャコ
共演:ピアノ/アレクサンドル・メルニコフ
演目:ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番
          変ホ長調 作品73「皇帝」
   ブラームス/交響曲第4番 ホ短調 作品98


 いま、飛ぶ鳥を落とす勢いのマリー・ジャコ、30歳半ばのフランスの女性指揮者である。もとトロンボーン奏者で、バイエルン国立歌劇場でペトレンコのアシスタントをした経験がある。独墺のオペラハウスで頭角を現し、重要ポストが次々と決まっている。2023/2024シーズンからウィーン交響楽団首席客演指揮者、2024/2025シーズンからデンマーク王立歌劇場の首席指揮者、2026/27シーズンからはWDR響(旧ケルン放送響)の首席指揮者に就任する。日本には2021年に来日予定だったがコロナ禍で中止、今回が初お目見えである。
 読響では定期とマチネを振り、定期ではプロコフィエフ、ラヴェル、プーランク、ヴァイルと多彩な曲を、マチネではドイツ音楽の名曲を指揮する。どちらを聴くか迷ったけど、ソリストのメルニコフの魅力、昼公演ということでマチネを選択することに。

 そのメルニコフの「皇帝」。ピアノの機能を活かしきった演奏、大きなダイナミクス、きめ細かなタッチで、表情豊かに語った。第1楽章では明暗を強調し、第2楽章では繊細かつ優美、第3楽章ではダイナミックに。様々なニュアンスが交錯する。
 メルニコフのテンポの揺らぎは独特な癖があり、伴奏のジャコ×読響は、軽快に寄り添ってはいたが、数か所ピアノとオケとが噛み合わなくて残念だった。たしかにひと昔前のベートーヴェンとは明らかに違う。どっしりとした重みよりは、どこか軽やかな趣で、それはそれで楽しめたけど。

 後半はブラームスの最後の交響曲。
 ジャコは細身、長い手足。テニスの全仏オープンに出場したという噂があって身体能力の高さを伺わせる。指揮姿が美しい。音楽教育も活動の主体も独墺における記事が目立っているが、フランス的な気質も当然兼ね備えているに違いない。
 第1楽章では、読響の分厚い低弦を活かしつつ、主旋律を明確に浮かび上がらせ感心する。第2楽章では、木管のしっとりとした音域と強力な金管を用いて、ロマンティシズムと激情とを表現する。第3楽章はスケルツォらしく重厚な低音域を土台に打楽器を激しく打ち込み、金管を咆哮させる。ホルンのトップは松坂さんだったが、4番には日高さんが客演、第2、第3の両楽章で見事なソロを聴かせてくれた。終楽章はバッハの主題による変奏曲、中間部のフルートで倉田さんが哀愁ある音色でもって、深い悲しみを描いていた。
 オケは14型、コンマスは林悠介。ジャコは楽員を伸びやかに演奏させ、スケールの大きなブラームスをつくりあげた。曲全体の構成力も特筆もの。これから先が楽しみな指揮者である。

2024/3/9 広上淳一×神奈川フィル 「わが祖国」2024年03月09日 18:59



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第393回

日時:2024年3月9日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:広上 淳一
演目:スメタナ/連作交響詩「わが祖国」


 今年はブルックナーとスメタナの生誕200年のアニバーサリー。ついでに調べてみると、シェーンベルクとホルストが生誕150年、プッチーニとフォーレが没後100年にあたるという。
 そのスメタナの交響詩「わが祖国」全曲。チェコの伝説、歴史、自然を描写した連作交響詩である。

 指揮は広上淳一、いつの間にか髭、鬚、髯を蓄え、まるで哲人のよう。譜面台の上には小型のスコアではなく、各曲ごとに綴じられた大型の総譜。曲が終わるたびにその譜面を取り換えていた。
 広上の音楽は腰が据わり骨太で劇的。語り口が上手く、面白く物語を聴かせてもらった。

「1.ヴィシェフラド(高い城)」、チェコの王たちの居城、ヴルタヴァ(モルダウ)河畔に立つ城砦、ハープが高い城の動機を奏でる。ヴィシェフラドの栄光と没落、戦闘のあとの廃墟。「2.ヴルタヴァ(モルダウ)」、南ボヘミアから流れ出る川。ヴルタヴァの水源、農民の祭りと踊り、月光と水の精の輪舞、聖ヨハネの急流を経て、プラハの街に達する。高い城の主題も聴こえる。「3.シャールカ」、チェコに伝わる少女シャールカの物語。恋人に裏切られたシャールカはすべての男たちへ復讐を決意する。女の手にかかって男は倒れ、坂東さんをトップとする8本のホルンが鳴り狂乱的なクライマックスを築く。「4.ボヘミアの森と草原から」、ボヘミアの自然から呼び起こされる田園的な音画。森や草原から歌が聴こえてくる。ポルカの動機は収穫の祭。ここでの広上のリズムは圧倒的。「5.ターボル」、フス戦争の戦士を讃える。ターボルは南ボヘミアの町で、フス教徒の拠点となった。勝利への戦い、不屈の魂が歌われるが、フス教徒は敗れ、曲は重苦しく閉じられる。「6.ブラニーク」、普通は前曲から続けて演奏されるが、別綴じの譜面の関係もあってか、広上は十分に休みをはさんだ。ブラニークは中部ボヘミアの山で、国が困難に直面したときに現れる救いの騎士たちが眠っているとの伝説がある。行進曲風の高らかな勝利の歌の終りに、高い城の動機が登場し力強く全曲をしめくくる。

 今日の神奈川フィルは素晴らしい鳴りっぷり。2年前に県民ホールで聴いたショスタコーヴィチ「交響曲第8番」以来かも知れない。弦14型、コンマスは石田泰尚。
 みなとみらいホールが改修され、ホームグラウンドに戻ってきてからの神奈川フィルの音はもうひとつ物足りなくて消化不良気味だった。広上の手腕だろう、ようやく本領発揮である。広上は今一番安定している。心置きなく音楽に浸ることが出来る。