025/9/7 阿部未来×都民響 シベリウス「交響曲第3番」とニールセン「不滅」 ― 2025年09月07日 20:33
都民交響楽団 第139回定期演奏会
日時:2025年9月7日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:阿部 未来
演目:ニールセン/序曲「ヘリオス」作品17
シベリウス/交響曲第3番ハ長調 作品52
ニールセン/交響曲第4番「不滅」作品29
アマチュアオーケストラ界の老舗である都民響の定期演奏会。HPによると戦後すぐの1948年(昭和23年)に創立されているから80年近くの歴史を誇る。いっとき東京文化会館の事業課が運営していたようだが、現在は東京都の支援を離れ団員が自主運営しているという。年2回の定期公演のほか離島での演奏会にも力を入れている。
ざっと見渡すと御歳を召した方がかなり目につく。団員は20代から70代までの幅広い年齢層で構成されていると書いてある。まさか創立以来のメンバーはいないにせよ、在籍50年、40年に及ぶ団員は当たり前に居そうである。年季の入った楽団である。
その139回定期は北欧プログラムで、ニールセンの2曲とシベリウス。ニールセンもそうだがシベリウスの「交響曲第3番」はなかなか生演奏で取り上げない。シベリウスの交響曲は「第2番」の演奏頻度が圧倒的で、次いで「第1番」「第5番」といったところだろう。「第4番」「第7番」はたまに演奏されるが「第3番」「第6番」となるとぐっと少なくなる。今日はその「第3番」をミューザ川崎まで出向いて演奏してくれた。
開始はニールセンの「ヘリオス」。日の出から真昼、日没までを描く標題音楽的な演奏会用の序曲。つい最近もヴァンスカ×東響で聴いた。この曲、アマオケが演奏するにはホルンの難易度が高すぎる。指揮の阿部未来はテンポ設定が巧みで、真昼に至る手前の音量を増加しつつ加速する手腕はなかなか見事、最後は物語を閉じるかのように緩やかに曲を終えた。
管・打楽器を中心にメンバーが入れ替わりシベリウスの「交響曲第3番」。シベリウスはニールセンと生まれ年が同じ。ニールセンよりずっと長生きしたけど、早くに筆を折ってしまったから作曲活動の時期はほとんど重なる。
「第3番」は、「第1番」や「第2番」に比べると地味で抑制された作品である。とはいっても後期交響曲のように深遠で凝縮されたというよりは、ロマン派的な部分も引き摺りつつ、表面的な華やかさよりも奥底の感情を追求しようとした過渡的な作品と言えるかもしれない。彼の交響曲の新たな方向性を示した楽曲といえる。好きな曲のひとつ。
全3楽章で構成され、第1楽章は自然のさまざまなざわめきを聴いているよう、弦楽器と木管楽器が美しく調和する。シベリウスらしい管弦楽の掛け合いが印象的だ。中間楽章は切なくも親しみやすい旋律が変奏されていく。民俗舞踊につけられた音楽のようにも聴こえる。シベリウスが書いた緩徐楽章の最高傑作だと思う。終楽章の前半はスケルツォ風、後半はコラール主題がフィナーレの中心となる。リズムとメロディの両方が徐々にエネルギーを蓄え規模を拡大しながら高揚し壮大な頂点を築く。阿部は各楽章の音色、テンポにメルハリをつけ全体としては躍動的な演奏、「第3番」の美しさをよく引き出していた。
「不滅」はニールセンの管弦楽曲のなかでは人気がある。第一次世界大戦のさなかに作曲され、内部が4部に分かれた単一楽章の交響曲。2組のティンパニが大活躍し、ティンパニ交響曲と名付けたっていいくらいだ。
第1部は様々な音響が衝突する戦闘的な音楽、ティンパニは他の楽器とあまり関連なく傍若無人に動く。第2部は木管楽器が主体となった牧歌的な音楽。ティンパニはお休み。第3部はティンパニと弦楽器だけで始まる厳粛な音楽で緊張感が徐々に高まっていく。第4部は2組のティンパニが対決する。ティンパニは舞台の両端に置かれていた。短いリズムの繰り返しによる動機が支配する。後半は金管楽器のコラールから第1部の主題が再現され力強い響きをもって終結する。
音の重なりが独特で混濁しがちなこの曲を阿部は見通し良くすっきりと演奏した。ティンパニ奏者はマレットを持ち替え、音程調整や音止めなど目が回るほど忙しい。これは音盤では分からない、生での醍醐味だった。
阿部未来は、プロオケにおいてしっかりしたポストが得られない。大きなコンクールの受賞歴はないものの留学してコレペティトゥアとしても経験を積んでいる。実力も才能もあると思う。
もっとも、日本のプロオケのポストは少ない。オーケストラ連盟の正会員が27、準会員が13だから合わせて40である。それに必ずしも邦人指揮者が監督や常任になるわけではなく、海外の指揮者が選ばれることも間々ある。
我が国に指揮者と呼ばれる人がどれほどいるか知らないが、ブザンソンなど有名コンクールの優勝者でもポストに就いていない人もいる。オーケストラの奏者になるのも狭き門だが、指揮者の競争は熾烈で厳しい世界ではある。
相変わらずの痩身ながら3年前に比べる身体の安定度は増したように思う。一度、プロオケを振る阿部未来を聴いてみたい。