2023/11/4 本名徹次×ベトナム国立響 オペラ「アニオー姫」2023年11月05日 11:04



日越外交関係樹立50周年記念
オペラ「アニオー姫」(チャン・マィン・フン作曲)
 ベトナム国立交響楽団、ベトナム国立オペラバレエ団  

日時:2023年11月4日(土) 14:00開演
場所:昭和女子大学 人見記念講堂
指揮:本名 徹次
出演:アニオー姫/ダオ・トー・ロアン
   荒木宗太郎/小堀勇介
   占い師/ファム・カイン・ゴック
   グエン王/ダオ・マック
   お后/グエン・トゥ・クイン
   大臣/グエン・フイ・ドゥック
   長崎奉行/斉木健詞
   家須/川越未晴

主な制作スタップは以下の通り。
 代表:本名 徹次
   (ベトナム国立響 音楽監督兼首席指揮者)
 作曲:チャン・マィン・フン
 演出:大山 大輔
 作詞:大山 大輔(日本語)
    ハー・クアン・ミン(ベトナム語)
 漆画キービジュアル:安藤 彩英子
 共同制作:ベトナム国立交響楽団
      ベトナム国立オペラバレエ団

 本名徹次が日越外交関係樹立50周年に向けて新作オペラ「アニオー姫」プロジェクトを立ち上げ、400年前に実際にあった史実をモチーフとして、オリジナルオペラを制作した。このオペラは9月のベトナム公演を経て、昨日、日本でプレミアム公演が催された。

 新作オペラ「アニオー姫」は全4幕、各幕とも30分程度、前半1・2幕の舞台はホイアン、後半3・4幕の舞台は長崎で、計2時間ほどの物語である。

第1幕
 朱印船貿易商・荒木宗太郎は広南(ベトナム中部)を目指し南シナ海を航海中、大嵐に巻き込まれる。嵐の後、漂流している舟を発見する。舟に乗っていたのは子供たち4人。いたずらで舟を出し流されてしまった。宗太郎は彼らに粥を与え優しく語りかける。子供たちの一人、玉華姫は宗太郎から「ARIGATO」という日本語を教えてもらう。

第2幕
 十年後、ベトナム中部の都市ホイアン。宗太郎は仕事や武術の指導で大忙し。その時、暴れ象が飛び出し大騒ぎに。宗太郎は助けに入るが象に踏みつけられそうになる。その瞬間、玉華姫の笛の音が響き渡り、象は落ち着きを取り戻す。宗太郎はお礼の言葉を述べ、二人は「ARIGATO」という言葉で洋上での出会いを思い出す。国王は二人の固い決意を受け結婚を許す。盛大な婚礼の儀を終え二人は長崎へ向かう。

第3幕
 宗太郎と玉華姫は娘・家須を授かり、長崎の人々から「アニオーさん」と親しまれ幸せな日々を送っていた。そんなある日、長崎奉行から鎖国が通達される。宗太郎はアニオー姫や娘を国王夫妻に会わせることも、外洋に出ることも許されず悲嘆に暮れる。

第4幕
 宗太郎は鎖国が解けぬまま帰らぬ人に。失意のアニオー姫を夢枕に立った宗太郎が優しく励ます。アニオー姫は悲しみに暮れるよりも家須とともに長崎で生きることを誓う。やがてアニオー姫も最期の時を迎える。家須は「二人が愛し合った物語をお祭りにしてこの地に残しましょう。互いの故郷に再び行き来できるその日を夢見て」と語る。長崎奉行も賛同し、人々の想いを乗せて大合唱となり大団円を迎える。
 
 演出と日本語作詞は大山大輔、キービジュアルは安藤彩英子。悪人が一人もいない気持ちのよいお話。チャン・マィン・フンの音楽はベトナムと日本の民謡などを取り込み親しみやすい。第3幕では両国の子守歌がまるまる歌われる。
 第1幕の暴風雨の場面、舞台奥のスクリーンに荒れ狂う海が映し出され、さらに、オペラバレエ団が波頭を演じて臨場感たっぷり。第2幕の暴れ象もスクリーンで描かれる。占い師のアリアはコロラトゥーラが用いられる。ソプラノのファム・カイン・ゴックの経歴をみると「夜の女王」をレパートーリーにしている、なるほどと納得。終盤、宗太郎と玉華姫の二重奏は、テノールの小堀勇介、ソプラノのダオ・トー・ロアンとも軽い音質で若々しい。第3幕にも宗太郎と玉華姫のそれぞれの美しいアリアがおかれている。第4幕では遺子である家須のアリアがあり、ソプラノ川越未晴の歌唱も見事だった。フィナーレの「長崎踊り」は打楽器が盛んに打ち鳴らされまさに大団円。オペラにしては言葉が多いから字幕を追うのに大変だったけど。

 本名徹次は、大昔、名フィルや新星日響で聴いている。ベトナム国立交響楽団のポジションに就いて、そのあとの苦労話も何かで読んだことがある。これだけのプロジェクトを立ち上げ、もう一度鑑賞したくなるような作品でもって成功裡に導いた。賞賛以外の言葉を知らない。

 プレミアム公演の会場を人見記念講堂にしたのは、昭和女子大学がホイアンの遺跡発掘調査などで関係が深いせいなのかも知れない。人見記念講堂はサントリーホールが出来る前、よく海外オケの来日演奏会で使われていた。三軒茶屋から徒歩圏内にあり交通の便もまずまず。古いからバリアフリーなど行き届かない面があるが、建物はよく整備され音響も申し分ない。
 「アニオー姫」はこの後、明日6日、特別音楽朗読劇として長崎初演が予定されている(長崎ブリックホール国際会議場)。

久石譲とエリアス・グランディ2023年10月08日 11:59



 音楽之友社のWebマガジン「ONTOMO」に、久石譲が日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任する、との記事が掲載されていた。
 日本センチュリー交響楽団は、つい先日フェスタサマーミューザで聴いた。見事なアンサンブに感心したが、大阪府・豊中市を拠点とする創立30数年の比較的若い楽団である。
 久石は2021年4月から同響の首席客演指揮者を務めていて、音楽監督への就任は2025年4月だという。「1度はオーケストラと深く関わる仕事をしてみたいと思っていました。たくさんのお客様に受け入れられた上で高い音楽性を維持できるよう努めます」とコメントしている。

https://ontomo-mag.com/article/hisaishi-jcso-202310/
 

 もうひとつの話題。札幌交響楽団が2024年3月で契約満了となる首席指揮者マティアス・バーメルトの後任にエリアス・グランディを迎えると発表した。1年の経過期間をおいて2025年4月から。併せて、バーメルト退任直後には下野竜也が首席客演指揮者として加わる。なお、下野はこの10月、N響の正指揮者に就任している。
 エリアス・グランディはミュンヘン生まれの43歳、父親はドイツ人、母親は日本人。チェロ奏者としてオケで活躍した後、2012年にダルムシュタット歌劇場の常任指揮者として指揮活動をスタートし、2015年にハイデルベルク歌劇場の音楽監督。第7回ゲオルグ・ショルティ国際指揮者コンクールでは最高位を獲得している。
 札幌交響楽団については、東京公演時、尾高忠明をはじめラドミル・エリシュカ、マックス・ポンマー、マティアス・バーメルトの指揮で聴いている。この先、指揮者陣が大きく若返る。エリアス・グランディの東京でのお披露目を楽しみにしたい。

https://www.sso.or.jp/2023/10/2024/

飯守泰次郎2023年08月18日 12:57



 朝比奈隆と山田一雄は、活躍の中心がそれぞれ大阪と東京であったため、両御大に心酔していた地方の好事家は、二人の数少ない機会をみつけて演奏会に通っていた。
 同じころ飯守泰次郎が名フィルの指揮者に就任し、その後常任となった。名前も顔もほとんど知らなかったが、ときどき定期公演を聴くことになる。
 ベートーヴェン、ブラームスの作品など、情熱的で重量があって腹に落ちる音楽だった。この人は特別な音楽家かも知れないと思った。ある日、演奏会形式のワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴いて、その思いは確信へと変わった。

 ワーグナーといえば、シティフィルの常任になってからの「ニーベルングの指環」。「オーケストラル・オペラ」と銘打ち上野の文化会館にて2000年から4年がかりで公演した。「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」は東京勤務のときだ。「神々の黄昏」は転勤をしていたから新幹線で駆け付けた。その演奏をいまだに細部まで思い出すことができる。
 ブルックナーも名演ばかりだった。アマチュアの新響を振った「交響曲第8番」。手兵シティフィルとの「交響曲第5番」。金管の大事故があったけど、それ以上の感銘を与えてくれた。
 そして、最後の舞台となった4月のサントリーホールにおける「交響曲第4番」、意表をつかれるほど若々しい音楽だったのに。このときのコンマス荒井英治をはじめとするシティフィル楽団員の献身ぶりも忘れられない。

 飯守泰次郎、享年82歳、2023年8月15日急性心不全のため逝去。ヤマカズや朝比奈を喪ったときのように悲しい。

2023/8/8 秋山和慶×センチュリー響 ドヴォルザーク「交響曲第8番」2023年08月09日 13:03



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023
 日本センチュリー交響楽団

日時:2023年8月8日(火) 19:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:秋山 和慶
共演:ヴァイオリン/HIMARI
演目:シューベルト/交響曲第5番 変ロ長調D.485
   ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調Op.26
   ドヴォルザーク/交響曲第8番 ト長調Op.88


 日本センチュリー交響楽団の前身は大阪センチュリー交響楽団。Wikiによると大阪府出資の吹奏楽団(大阪府音楽団)が1989年に交響楽団に改組されて設立された。その後、2011年橋下知事の時代に補助金がカットされ民営化、現在の名称に変更された。
 指揮者陣は首席が飯森範親、首席客演が久石譲、ミュージックアドバイザーが秋山和慶。楽団員は約50名、弦10型2管程度の編成が基本だろう。今回は3曲とも12型で演奏された。コンマスは都響の山本友重がゲストで座った。

 はじめてセンチュリー響を聴いたが見事な音楽集団。個々の演奏技術が高く、驚異的な合奏能力を誇る。首都圏オケでもなかなか太刀打ちできないほどの水準。低音から高音、弱音から強音まで、パートそれぞれが緻密でバランスがいい。
 弦はとくにチェロが雄弁、コントラバスと共に底力のある低音をつくり出していた。ヴァイオリンも一体感のある美しさ。木管は歌心に満ち、気づくと必要な場面できっちりと鳴っている。金管は伸びやかで瑕瑾なく安定している。オケの音は柔らかく包み込まれるようで、手触りの良い織物のような風合いだ。
 オーケストラは各パートの主張と全体の均衡とのせめぎ合いだと思うが、それが理想的な形で実現している。もちろん秋山さんの手腕は大きいといえ、オケ自体がつくりあげてきた歴史の成果だろう。

 センチュリー響は、10年前に“潰れてもかまわぬ”と言わんばかりの横暴で、補助金がストップされ、民間の寄付に頼りながら苦難の道を歩んできた。日本のオケは大なり小なり同じような状況下にある。酷い話だがこれが現実。
 大阪では当時、文楽に対しても厳しい姿勢がマスコミ沙汰になっていた。先日は国立科学博物館のクラウドファンディングが話題だった。これも目標額の達成を喜ぶより、国は恥ずべき事だとは思わないのか。
 科学や文化活動は一度壊れてしまえばそれを取り戻すに何十年、何百年とかかる。破壊することは誰にでもできる、守るべきものを守るのが大事で難しい。国や自治体は困難を避けることしか考えていないように思える。

 さて、1曲目はシューベルト19歳の時の「交響曲第5番」。秋山さんらしくしっかりした構成感、ゆったりとしているが鈍重なところは微塵もない。クラリネットを欠いたフルート、オーボエ、ファゴットたちの陰影が素晴らしい。丁寧に彫琢したシューベルトからモーツァルトが垣間見える。モーツアルトへのオマージュと再確認した
 2曲目はHIMARI(吉村妃鞠)をソリストにしてブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」。HIMARIは12歳、昨年アメリカのカーティス音楽院に最年少で合格している。秋山さんは現在82歳だから祖父と孫というよりは曾祖父と曾孫といったほうがいい。
 秋山さんの劇的で強固なサポートをバックに、HIMARIの技巧と音が際立つ、すでに立派なソリスト。2楽章の濃厚な歌いまわしなど情感もたっぷり。この先どこまで成長するのか末恐ろしい。アンコールはナタン・ミルシテインの「パガニーニアーナ」、超絶技巧満載の曲を軽々と弾きこなした。
 休憩後、ドヴォルザーク「交響曲第8番」。秋山さんは年齢を重ねてますます若々しく俊敏に。第1楽章はキレキレのテンポ設定、中間のふたつの楽章は旋律をたっぷり歌わせ、小技も駆使する。しかし、決して過度にならない練達の技。終楽章の加減速とクライマックスの築き方はまさに名人芸。終演後はブラボーの嵐。

今年のサマーフェスティバルへの参加は3公演だけだったけど気持ちよく終了。なお。ミューザの夏祭りそのものは11日に最終日を迎える。

2023/7/30 鈴木秀美×山響 ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」と「グレイト」2023年07月30日 20:46



フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2023
 山形交響楽団

日時:2023年7月30日(日) 15:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:鈴木 秀美
共演:ヴァイオリン/石上 真由子
演目:ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調Op.61
   シューベルト/交響曲第8番 ハ長調D.944
         「グレイト」


 FSMが開幕して1週間になる。ようやく初参戦とあいなった。
 山響は、今までも「さくらんぼコンサート」と称して東京公演を重ねているが、聴く機会がなかった。飯森範親が監督のとき大きく評判となり、現在の阪哲朗の時代になってもその勢いは続いているようだ。
 今日は首席客演指揮者の鈴木秀美に率いられ、石上真由子がソロを弾いた。弦8型2管編成の小型オケとしては申し分ないプログラムだ。

 石上真由子は医科大出身という珍しい経歴の持ち主。ナチュラル・ホルンやトランペットを用いるこのオケに合わせたのか、ヴィブラート控え目、pp多めの音づくり。
 弱音主体のベートーヴェンで思い出すのは、同じ真由子でも神尾真由子の演奏。そのときの驚きに比べるとインパクトは弱い。石上真由子の歌いまわしにはギクシャクした部分があり、音は乾いていてちょっと潤いが不足気味。

 休憩後の「グレイト」。
 オケの音色は地味でくすんだ響き。楽器は、とくに管楽器は時代を下るにしたがい機能性を追求し、操作が容易く美しい音を目標に改良が加えられてきた。現代の聴衆は当然その音を知っている。山響はあえてナチュラル楽器を使用して旧時代の響きを求めているのだから、ベールが一枚かかったような音色がこのオケの核心であり魅力なのだろう。
 鈴木秀美のテンポは中庸、とりたてて尖ったところがあるわけではない。その意味では肩透かしをくらったものの、楽章を追うごとに音楽は熱を帯び、気がつくとシューベルトの世界が広がっていた。
 もともと「グレイト」は好きな交響曲のひとつ。いつでも楽しんで聴くことができるけど、とりわけ今日の最終楽章の高揚感はなかなか充実していた。先人のベートーヴェンの音楽と、後年のブルックナーの音楽が「グレイト」なかで融合されているような気分となって、幸福感に満ちたものだった。

 この暑い中、満席とはいえないまでも、お客さんは良く入っていた。今年のFSMは盛況のようである。