ザ・クリエイター 創造者2023年11月08日 16:26



『ザ・クリエイター 創造者』
原題:The Creator
製作:2023年 アメリカ
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:ギャレス・エドワーズ
   キリ・ハート他
音楽:ハンス・ジマー
出演:ジョン・デビッド・ワシントン、
   ジェンマ・チャン、渡辺 謙、
   マデリン・ユナ・ボイルズ、アリソン・ジャネイ


 小説やコミック原作が由来ではない完全オリジナルのSF超大作。過去のSF映画のてんこ盛りともいえる。でも、古の作品の何もかもが分からないほど混ぜ合わせたものではない。過去のそれぞれの映画がフラッシュバックのように甦る。
 脚本・監督のギャレス・エドワーズは、『モンスターズ/地球外生命体』『GODZILLA ゴジラ』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と実績を重ねてきた。インディペンデント系の『モンスターズ』は、低予算にめげず完成させたオリジナル作品で、ドキュメンタリータッチの斬新な映像だった。ハリウッドの『ゴジラ』と『ローグ・ワン』は、お金のかかった大作ではあるけれどシリーズ作品としての制約や重圧があったはず。ようやく、この『ザ・クリエイター』に至り、それなりの資金を投入して、彼が真に作りたい映画を作ったということだろう。
 
 近未来、人間を守るために開発されたAIが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こしたとされ、米国を中心とした軍事力でもってAIの撲滅を図る。AIとの戦争が激化する世界で、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は、人類を滅亡させる兵器を創り出した“創造者”の暗殺に向かう。しかし、潜入したニューアジアで発見したのは、超進化型AIである少女アルフィー(マデリン・ユナ・ボイルズ)だった…

 ギャレス・エドワーズは、自身が英国人でありながら、アングロサクソンの侵略性や破壊願望を赤裸々に描く。コッポラの『地獄の黙示録』や、キャメロンの『アバター』に通じるようなところがある。米軍大佐を演じた白人女性(アリソン・ジャネイ)が、過激に突き進む一方で、AIの少女アルフィーを命をかけて護り抜く主人公のジョシュアが黒人であるのは象徴的である。ジョシュアが政治や思想、組織のためではなく、愛するマヤ(ジェンマ・チャン)やアルフィーのために行動する姿は感動的だ。
 ちなみにジョシュア役のジョン・デビッド・ワシントンはデンゼル・ワシントンの息子。アルフィーを演じたマデリン・ユナ・ボイルズは撮影当時6歳だか7歳だか、映画初出演にもかかわらず稀有な才能を発揮し、AIである少女に生命を吹き込んだ。
 人間と機械、闘争と共存、AIを拒絶する西洋と受容する東洋など、さまざまな対立をはらみ、前半は記録映画のごとく少々地味で暗さをただよわせた画像で緊迫感を高め、後半は一転して『ブレードランナー』『地獄の黙示録』『エイリアン』『アバター』『スター・ウォーズ』『ターミネーター』などが、次々とフラッシュバックする怒涛の映像を繰り出し、手に汗握る。
 音楽はハンス・ジマー。オリジナル楽曲だけでなくロック、ジャズ、ポップスのナンバーなど様々な楽曲を織り交ぜ、ドラマを盛り上げていく手腕は、いつもながら絶大な効果を生む。

 観終わったあと思った。映画は時代を先取りすることがある。少女アルフィーは健気で愛らしい。模造人間のリーダー渡辺謙は『ラストサムライ』を彷彿とさせる。近年のAI論議からして、こういった映画は世間のAIアレルギーを緩和する役割があるかも知れないな、と。いや、そんなことよりも現在進行形としてのAIに投影された異質な存在に対する抑圧・排除・殲滅へのレジスタンスをみるべきだろう。家族への愛と絆とともに、自らとは異なる者、異なる文化への理解と共存の物語こそが、ギャレス・エドワーズが描きたかったことなのではないか、と思い直す。
 この映画は大画面で観賞するに越したことないが、テーマや世界観を再確認するためには、リプレイできる動画配信でゆっくり見直したい。Net配信を楽しみにしつつ暫くの間待つことにしよう。