4月の旧作映画ベスト32024年04月30日 14:25



『プラダを着た悪魔』 2006年
 ジャーナリスト志望のアンディ(アン・ハサウェイ)が、一流ファッション誌「ランウエイ」の剛腕編集長ミランダ(メリル・ストリープ)の助手として採用される。それが試練のはじまりだった。アン・ハサウェイの、仕事と私生活の狭間で悩み上司に翻弄されながらも信頼を勝ち得ていく成長ぶりや、彼女の冴えないファッションが徐々に洗練されていく変容ぶりは見もの。だけど、この映画の眼目は何といってもメリル・ストリープ。その悪魔的な演技、悪魔といっても怒鳴り声や剣呑な顔のことではない。眉や眼、口元の動きといったわずかな表情の変化や、声の抑揚、言葉の端々で部下を恐怖に陥れ支配する。そして、たんに理不尽で意地悪なだけでなく、相手に対する奥深い洞察力を垣間見せることも忘れない。あきれるほど達者で思わず唸ってしまう。名女優ここにあり、である。

『メッセージ』 2016年
 派手なドンパチを売り物にしたSF映画ではない。『DUNE』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が米作家テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』を映画化した。突如として地球の各地に降り立った楕円状の宇宙船。言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、軍の要請で地球外生命体と意思疎通を図ろうとする。彼らは人類に何を伝えようとしているのか。ルイーズは異質な文字言語の解読に苦労しながらコンタクトを試みるうちに相手の持つ能力――人類は因果論的に世界を認識するが、彼らは過去・現在・未来を同時的に認識する――にシンクロしていく。さまざまな伏線が散りばめられ「言語」や「時間」をテーマにしたなかなかに難しい作品だが、ヴィルヌーヴらしく巨大な造形は圧倒的で、ストーリーも抜かりがなくスリリング。観るたびに新たな発見が得られる映画かも知れない。

『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』 2022年
 大邸宅を舞台に英国貴族クローリー家とその使用人たちの人間模様を描く。時代は無声映画からトーキーに変わる頃。邸宅は傷みが目立ち、長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)は修繕費の工面に悩んでいた。そんなとき米国の映画会社から屋敷を撮影に使用したいとの話。メアリーは父ロバート(ヒュー・ボネヴィル)の反対を押し切って撮影を許可する。そのロバートは母=メアリーの祖母ヴァイオレット(マギー・スミス)が旧知の男爵から南仏の別荘を贈られたことを知り、その事情を探るため南仏へ向かう。そして、貴族の規範ともいうべきヴァイオレットが最期を迎える。クロリー家も“新たなる時代”に向き合わなければならない。英国そのものを象徴するようなクロリー家、映像の美しさが滅びゆく貴族の光と翳りの美しさに思える。監督は『黄金のアデーレ 名画の帰還』のサイモン・カーティス。

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