2024/4/20 沼尻竜典×神奈川フィル ブルックナー「交響曲第5番」2024年04月20日 20:58



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第394回

日時:2024年4月20日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:沼尻 竜典
演目:ブルックナー/交響曲第5番 変ロ長調


 神奈川フィルの2024/25シーズン開始は、沼尻監督によるブルックナーの「交響曲第5番」、一本勝負である。沼尻さんのブルックナーは――記憶力に自信がないから確かなことは言えないけど――珍しいのではないか。マーラーやショスタコーヴィチでは忘れられない演奏が幾つかあるが、果たしてブルックナーをどう料理するのか。

 「交響曲第5番」は巨大な構造物だ。主題を厳格に彫琢し、対位法を駆使し、宗教的なコラールが頻出する。その重層的な構造によって異形の交響曲作品が生み出された。そればかりでなくレントラー風のリズムが用いられたり、ファンタスティックな世界が即興的に出現したりもする。聖俗が同居しながら高嶺を目指していく。いい演奏に出会うと、時代は遠く、ジャンルは異なり、楽曲構造はまったく別物だけど、何故かバッハの「マタイ受難曲」を連想するときがある。

 第1楽章、沼尻さんはアダージョの荘重な導入部を極めて遅いテンポで始めた。テーマが何度となく転調し続ける主部では確固たる歩み。パウゼから突然鳴り響く最強音の立ち上がりは俊敏で、オケが鋭く果敢に反応する。神奈川フィルの金管が踏ん張り、石田泰尚が率いる16型の弦が必死の形相で刻む。ブルックナーを聴く醍醐味がここにあった。
 第2楽章はさらにゆったりと。弦のピチカートの上を古山真里江の憂いをおびたオーボエが歌う。弦はピチカートに続いて階段を一段一段踏みしめて行くように上行旋律を奏でる。弦5部はそれぞれが交代で主役を担いながら、トロンボーンの美しいコラールとともに深々と祈るがごとき頂点を築く。感動的な楽章である。
 第3楽章は活動的で力強いエネルギーをもったスケルツォ。ここからは沼尻さんのテンポが揺れ動き緩急にも独自の工夫を感じた。豪快な迫力はそのままに野趣あふれるというよりはスタイリッシュにまとめあげ、トリオもチャーミングだった。
 第4楽章のフィナーレ。ここでも沼尻さんは緩急に細心の注意を払う。序奏のあと第1楽章や第2楽章の主題が回想され、切迫したフーガが音の大伽藍をつくる。巨大な構造物が立ち上がってくる。コーダ手前では沼尻さんはいつしかタクトを置いてオケと一体化したかのよう。最後は畳みかけるような重量感のある雄大なコーダが待っていた。

 解像度が高く各楽器がクリアに浮かび上がる現代風のブルックナーといえようか。沼尻さんは終演後、最初に林辰則をトップとするトランペットを称え、府川雪野首席のトロンボーン、宮西純のチューバ、豊田実加を1番奏者とするホルンの順で賛辞をおくった。確かに貢献度はこの順番だろう。金管は明るめの音で音圧は高くよく健闘した。それと篠崎史門のティンパニが要所を締めた。弦は厚い響きが完全にコントロールされ、コンマス・石田泰尚の統率力にも改めて感心した。
 2004/25シーズンは、沼尻監督の渾身のブルックナーによって最良のスタートとなった。

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