2024/3/20 ファミリー・クラシック ピアノ四重奏版「エロイカ」2024年03月20日 20:38



ヴィアマーレ・ファミリー・クラシックVol.23
 ピアノ四重奏で聴くベートーヴェンの「英雄」

日時:2024年3月20日(水祝) 14:00開演
会場:はまぎんホール ヴィアマーレ
出演:ヴァイオリン/戸原 直、直江 智沙子
   ヴィオラ/大島 亮
   チェロ/上森 祥平
   ピアノ/嘉屋 翔太
演目:ピアノソナタ第23番ヘ短調Op.57
     「熱情」より第1楽章
   ヴァイオリンソナタ第5番ヘ長調Op.24
     「春」より第1楽章
   弦楽四重奏曲第13番変ロ長調Op.130
     「カヴァティーナ」より第5楽章
   交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」
     (リース編曲ピアノ四重奏版)

 久しぶりに演奏会をハシゴした。モーツァルト・マチネからファミリー・クラシックへ。両公演とも昼開催で、会場も比較的近い。JRの川崎から桜木町まで約20分、桜木町の駅前で昼食をして、余裕でヴィアマーレへ。ヴィアマーレは横浜銀行本店にある客席数約500人のホールで、以前利用したことがある。音響もなかなか優れている。

 演奏会の全体は二部構成で、第一部は神奈川フィルの企画担当である鎌形昌平さんのレクチャー付きコンサート。鎌形さんは若いけど達者なお喋り。ベートーヴェンの生涯と作品をさらりと語り、その間に演奏を挟み込む。
 最初は「熱情」の第1楽章から。ピアノソロはゲストの嘉屋翔太、弱冠23歳、フランツ・リスト国際ピアノコンクールで最高位を獲得している。重心の低い力強いピアノ。次いで、これもゲストの戸原直が登場し、嘉屋とともに「春」の第1楽章を。戸原は今年1月に読響のコンマスに就任した。しなやかで甘い響きが「春」にお似合い。最後に、神奈川フィルの首席たち(Vn.直江、Va.大島、Vc.上森)が戸原とともに弦楽四重奏を組んで「カヴァティーナ」(「第13番」の第5楽章)、臨時編成とは思えないほど息の合った演奏。ピアノソナタ、ヴァイオリンソナタ、弦楽四重奏曲の良いとこ取りの前半だった。

 第二部が神奈川フィルの3人と嘉屋翔太によるピアノ四重奏版の「エロイカ」。
 室内楽版に編曲したのはフェルディナント・リース。リースは、ベートーヴェンの弟子であり友人でもあったピアニスト。シンフォニーの演奏機会が少なかったコンサート・ビジネスの黎明期には、サロン・コンサート用に多くの管弦楽作品が編曲された。楽譜出版社の売上にも貢献したのだろう。室内楽版は作曲者自らが編曲する例もあるが、「エロイカ」の場合はベートーヴェンの弟子のリースとフンメルがそれぞれのヴァージョンで編曲しているという。
 室内楽版はやはりピアノが骨格をつくっていく。ゲストの若い嘉屋翔太が驚異的な働きをみせた。重厚な響き、余裕のあるダイナミクス、スムーズな緩急、的確なパウゼ、弦楽器奏者との呼吸や手際よさにとても感心した。
 各楽章ともそれぞれ興味深く聴いたが、圧巻は最終楽章、ベートーヴェンの途方もない着想と技法が詰まった変奏曲たちの場面は、奏者がたった4人であることを忘れるほどの迫力。とくにコーダに向けての第9変奏と第10変奏は、まさに肌が粟立つような演奏だった。

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