2024/3/17 マリー・ジャコ×読響+メルニコフ 「皇帝」とブラームス「交響曲第4番」2024年03月17日 20:45



読売日本交響楽団
 第265回日曜マチネーシリーズ

日時:2024年3月17日(日) 14:00開演
会場:東京芸術劇場
指揮:マリー・ジャコ
共演:ピアノ/アレクサンドル・メルニコフ
演目:ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番
          変ホ長調 作品73「皇帝」
   ブラームス/交響曲第4番 ホ短調 作品98


 いま、飛ぶ鳥を落とす勢いのマリー・ジャコ、30歳半ばのフランスの女性指揮者である。もとトロンボーン奏者で、バイエルン国立歌劇場でペトレンコのアシスタントをした経験がある。独墺のオペラハウスで頭角を現し、重要ポストが次々と決まっている。2023/2024シーズンからウィーン交響楽団首席客演指揮者、2024/2025シーズンからデンマーク王立歌劇場の首席指揮者、2026/27シーズンからはWDR響(旧ケルン放送響)の首席指揮者に就任する。日本には2021年に来日予定だったがコロナ禍で中止、今回が初お目見えである。
 読響では定期とマチネを振り、定期ではプロコフィエフ、ラヴェル、プーランク、ヴァイルと多彩な曲を、マチネではドイツ音楽の名曲を指揮する。どちらを聴くか迷ったけど、ソリストのメルニコフの魅力、昼公演ということでマチネを選択することに。

 そのメルニコフの「皇帝」。ピアノの機能を活かしきった演奏、大きなダイナミクス、きめ細かなタッチで、表情豊かに語った。第1楽章では明暗を強調し、第2楽章では繊細かつ優美、第3楽章ではダイナミックに。様々なニュアンスが交錯する。
 メルニコフのテンポの揺らぎは独特な癖があり、伴奏のジャコ×読響は、軽快に寄り添ってはいたが、数か所ピアノとオケとが噛み合わなくて残念だった。たしかにひと昔前のベートーヴェンとは明らかに違う。どっしりとした重みよりは、どこか軽やかな趣で、それはそれで楽しめたけど。

 後半はブラームスの最後の交響曲。
 ジャコは細身、長い手足。テニスの全仏オープンに出場したという噂があって身体能力の高さを伺わせる。指揮姿が美しい。音楽教育も活動の主体も独墺における記事が目立っているが、フランス的な気質も当然兼ね備えているに違いない。
 第1楽章では、読響の分厚い低弦を活かしつつ、主旋律を明確に浮かび上がらせ感心する。第2楽章では、木管のしっとりとした音域と強力な金管を用いて、ロマンティシズムと激情とを表現する。第3楽章はスケルツォらしく重厚な低音域を土台に打楽器を激しく打ち込み、金管を咆哮させる。ホルンのトップは松坂さんだったが、4番には日高さんが客演、第2、第3の両楽章で見事なソロを聴かせてくれた。終楽章はバッハの主題による変奏曲、中間部のフルートで倉田さんが哀愁ある音色でもって、深い悲しみを描いていた。
 オケは14型、コンマスは林悠介。ジャコは楽員を伸びやかに演奏させ、スケールの大きなブラームスをつくりあげた。曲全体の構成力も特筆もの。これから先が楽しみな指揮者である。