日フィルの来期プログラム ― 2026年09月13日 09:05
日本フィルハーモニー交響楽団の来期(2027/4~2028/3)プログラムが数日前に発表されていた。
https://japanphil.or.jp/japanphil_wp/wp-content/uploads/2026/09/2027teiki.pdf
東京定期が金曜と土曜の両日開催で10プログラム20公演。横浜定期が土曜あるいは日曜開催の10プログラム10公演である。東京定期の上期はサントリーホール改修のため芸術劇場ないしはオペラシティホールに振り替えとなる。横浜定期は従来通りみなとみらいホールを会場とする。
首席指揮者のカーチュン・ウォンは得意のマーラーの交響曲2作品をはじめブルックナー、ショスタコーヴィチ、そして「戦争レクイエム」など東京と横浜にて6プログラムを振る。邦人指揮者では広上淳一、大植英次、沼尻竜典、小林研一郎、山田和樹、下野竜也、尾高忠明など一線級がずらりと並び、海外からはクリストフ・コンツとフランソワ・ルルーをゲストとして招く。コンツは今夏FSMで初顔合わせをし東京定期に登場となる。ルルーは今年度に続いての日フィル共演である。
桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフは来期も登壇しない。
2026/8/9 FSM:コンツ×日フィル ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」「交響曲第1番」 ― 2026年08月09日 20:53
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
日本フィルハーモニー交響楽団
日時:2026年8月9日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:クリストフ・コンツ
共演:ヴァイオリン/周防 亮介
演目:J.シュトラウス2世/喜歌劇「こうもり」序曲
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
ブラームス/交響曲第1番 ハ短調
指揮のクリストフ・コンツはウィーン・フィルの第2ヴァイオリン首席奏者から指揮者に転向した。来年からはリンツ・ブルックナー管および州立劇場の音楽監督になる。指揮者としてはまだ若手の40歳手前である。
ウィンナ・オペレッタの代表作「こうもり」序曲でスタート。喜歌劇のなかからワルツやポルカ、アリアがふんだんに引用されている。劇音楽のエッセンスがぎゅっと詰まっており、流麗な旋律、生き生きしたリズムなどシュトラウスの愉悦が一杯。コンツはウィーン・フィルで数えきれないほどこの曲を弾いてきたのだろう。ワルツの盛り上げ方など大袈裟なくらいで微笑ましい。満員のお客さんの面前で上々の滑り出しである。
周防亮介が登場しブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストにとっては管弦楽と一体となってシンフォニックな音楽を作り上げるとともに、管弦楽の厚い響きと渡り合うことになる。技巧的にも体力的にも大変な曲。一方で、ブラームスのハンガリー好きもあって、生真面目だけな演奏では面白くない。ジプシー音楽のような奔放さも必要で、ヴァイオリニストにはなかなかの難物である。
周防はあいかわらずの確かな技巧と艶やかな音色で、難曲を完全にコントロールした。ブラームス特有の重厚なオーケストラに対しても力負けすることなく、エネルギッシュな推進力と緩急の効いた強靭な表現によってブラームスを楽しませてくれた。
最後はブラームス「交響曲第1番」。休憩中にパート譜を覗いてみたら茶褐色に変色した年季の入ったもの。交響楽団にとっては最も重要なレパートリーの一つだから当然だろう。冒頭、ティンパニが雄渾に打ち込まれる。弦楽器の上行音型と管楽器の下行音型が歩みを進める。緩徐楽章は抒情的なメロディがオーボエ、クラリネットと受け継がれ、コンマス扇谷泰朋のヴァイオリンとホルンとが絡み合う。スケルツォ風の楽章は複雑なリズムとクラリネットの主題が印象的。フィナーレのアルペンホルンもどきの調べは、ブラームスがクララの誕生祝に書き送ったメロディである。最後は息の長い旋律からコラールを経てベートーヴェンのような堂々たる終結となった。
コンツは丁寧にオーケストラを管理し、日フィルの柔らかな弦とまろやかな木管、輝かしい金管を調合しながらクライマックスに向けてしなやかな音楽を聴かせてくれた。ただ、このブラームスの最初の交響曲は大見得を切って終わる曲だけど、その箇所だけコンツの間合いがいささか自然さを損なってしまったのが残念だった。
今年のフェスタ サマーミューザへの参加はこの日フィルで終了。日曜日のせいか厳しい暑さにもかかわらず完売公演だった。
日フィル創立70周年と来期プログラム ― 2025年09月16日 15:39
日本フィルハーモニー交響楽団は2026年に創立70周年を迎える。そのメモリアルイヤーを記念する特別演奏会と、2026/27シーズンの定期演奏会のラインナップが発表になった。
https://japanphil.or.jp/sites/default/files/2025-09/2026-70yseason.pdf
特別演奏会は、2026年6月21日と楽団の創立記念日である6月22日にサントリーホールで開催される。カーチュン・ウォンがマーラーの「交響曲第8番」(千人の交響曲)を指揮する。
定期演奏会は、カーチュンの「第九」で開始される。注目は客員首席指揮者のネーメ・ヤルヴィと桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフ。ヤルヴィは20年ぶりに日フィルを振る。ラザレフは今度こそ来日してくれるだろう。
楽団と関係の深い指揮者も続々と登場する。桂冠名誉指揮者の小林研一郎、フレンド・オブ・JPOの広上淳一、前首席指揮者のピエタリ・インキネン、元正指揮者の山田和樹などである。
サントリーホールでの東京定期と、みなとみらいホールでの横浜定期が、それぞれ10プログラム用意されている。東京定期は各回とも金曜日と土曜日の2日間、同一プログラムで公演され、横浜定期は各回とも土曜日に開催される。
日フィルの来期プログラム ― 2024年11月06日 14:12
東京・神奈川をホームグラウンドとするプロオケは10団体あるが、シーズンの開始月は次のようになっている。
1月=東フィル
4月=都響、読響、東響、新日フィル、シティフィル、
パシフィル、神奈川フィル
9月=N響、日フィル
このうち9月開幕の日本フィルハーモニー交響楽団は、2026/27シーズンから4月スタートに変更する。日フィルは2026年に創立70周年を迎えることから、これを契機に開始月を見直すとのこと。
したがって、2025年9月から2026年3月までは移行期間とし、サントリーホールの東京定期演奏会(金曜19時と土曜14時の2回同一プログラム)と、みなとみらいホールの横浜定期演奏会(土曜15時)においてそれぞれ6回の公演が開催される。
https://japanphil.or.jp/news/26386
首席指揮者のカーチュン・ウォンは3プログラムを指揮し、得意とするマーラーの「悲劇的」、ショスタコーヴィチの「交響曲第11番」、「新世界より」などを振る。ドヴォルジャークと組み合わせた伊福部昭の「SF交響ファンタジー第1番」にも注目だ。
桂冠名誉指揮者の小林研一郎はシベリウスの「交響曲第2番」と「エロイカ」を中心とした2プログラム、新シリーズの「オペラの旅」で話題となっているフレンド・オブ・JPO(芸術顧問)の広上淳一はショスタコーヴィチの「交響曲第15番」とサイの「チェロ協奏曲」というちょっと捻ったプログラム。
そのほか客演勢として山田和樹、下野竜也、藤岡幸夫、太田弦、出口大地といった指揮者を揃え、フランス、北欧、ロシアものなどを披露する予定となっている。海外からはウイーンフィルのヴァイオリニストであるヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルクを招き、J.シュトラウスやモーツァルトを弾き振りする。
2024/7/13 広上淳一×日フィル リゲティとシューベルト ― 2024年07月13日 21:15
日本フィルハーモニー交響楽団
第762回 東京定期演奏会
日時:2024年7月13日(土) 14:00開演
会場:サントリーホール
指揮:広上 淳一
共演:ヴァイオリン/米元 響子
演目:リゲティ/ヴァイオリン協奏曲
シューベルト/交響曲第8番 ハ長調 D.944
「グレイト」
先ずは、難曲中の難曲、リゲティの「ヴァイオリン協奏曲」から。
リゲティを初めて聴いたのは、『2001年 宇宙の旅』の中でのことだったと思う。クラシックの音盤を集め出した頃で、R・シュトラウスやJ・シュトラウスの音楽に感激しながら、リゲティについてはその音響が耳に残ったものの、作家にも音楽にも関心が持てなかった。当たり前だろう、旋律も和音も茫漠として音響操作のみでつくられているようなゲンダイ音楽など理解できるわけがない。
その後、ほとんど絶縁状態のまま何の支障もなかったのだけど、ノットが東響の監督になってからしきりとリゲティを取り上げる。「ハンガリアン・ロック」「ポエム・サンフォニック」「ルクス・エテルナ」「レクイエム」など嫌でも聴かされる。ノットはベルリン・フィルを指揮して「リゲティの全管弦楽作品全集」を録音しているくらいだから、好みの音楽のひとつなのだろう。東響定期における「ルクス・エテルナ」や「レクイエム」では強い印象を受けた。そして、これらが『2001年 宇宙の旅』でも使われていた楽曲だと半世紀ぶりに確認することなる。
そのリゲティ晩年の傑作といわれる「ヴァイオリン協奏曲」はいつか生で聴いてみたいと思っていた。昨年のコパチンスカヤと大野和士×都響との公演は聴き逃した。さいわい当日の模様はYouTubeで公開されているので一応予習をかねて視聴した。
今日、ようやく米元響子と広上×日フィルによるライブを聴く。米元響子は広上が可愛がっているようだ。何度か協演するのを目にする。米元はベルキンに師事しており、広上とベルキンは友人同士だからその関係もあるのかも知れない。どちらにせよソロと指揮者とは気心の知れた間柄だろう。米元のモーツァルトやベートーヴェンの協奏曲は良かった。果たしてリゲティはどうか。
リゲティの「ヴァイオリン協奏曲」の伴奏は小さな編成である。弦はヴァイオリンが3+2、ヴィオラ3、チェロ2、コントラバス1。うちヴァイオリンとヴィオラの各1は変則調弦する。木管楽器はリコーダーやオカリナに持ち替える。金管楽器はホルン2とトランペット、トロンボーン。打楽器は現代音楽らしく10種類以上を用意し、極めて多様な音を生み出す。
楽曲は、第1楽章:前奏曲、第2楽章:アリア・ホケトゥス・コラール、第3楽章:間奏曲、第4楽章:パッサカリア、第5楽章:アパッショナート、の5楽章で構成されている。1990年の初演時には3楽章形式だったがその後改訂された。
演奏が始まる。協奏曲といってもソロとアンサンブルはアンバランスに並走する。広上はいとも簡単に巨大なスコアを繰っていく。米元もさすが譜面台を置いている。
聴き手は無調で不協和なリゲティの音楽を解明しようなどと大それたことは考えない。ただその音響にゆだねる。
第1楽章から擦過音が飛び交い、混沌としたリズムが膨れ上がる、鍵盤打楽器は独奏者とのユニゾンが多くあって合わせるだけでも大変そうだ。第2楽章は意外にもアダージョのような詩情がある。途中、木管奏者が本来の楽器をリコーダーやオカリナに持ち替え、調子はずれな音を吹き鳴らす。第3楽章は激烈、カオスの一歩手前の雰囲気。第4楽章は遠くからバロック音楽が聴こえてくる。最終楽章にはカデンツァがあり、何をどう弾くかは奏者に任されている。YouTubeでのコパチンスカヤは、自らのヴァイオリンに合わせて歌い、楽員や会場を巻き込んで叫んだ。米元は歌ったり叫んだりはしない。プログラムノートによれば初演者ガヴリロフのカデンツァに基づいて弾いたようだ。太く豊かな音、多彩な音色で堅苦しさや無愛想さはなく、まさしくヴィルトゥオーゾの至芸としてうならせた。
いつのまにか感情の波が寄せてきて、知らず知らずのうちに身体が反応していた。ソロもオケも見事な演奏だった。いわゆるゲンダイ音楽でこんなに興奮したのは初めてかもしれない。もう一度聴きたいと思ったほどだ。
後半はシューベルトの「グレイト」、最近はこの「グレイト」を通し番号では「第8番」とすることが多いようだ。レコードの時代は「第9番」とされていたはず。
調べてみると、戦後シューベルトの作品目録を作成したドイチェが、それまで未完のものを除いて「第7番」と呼ばれていたこの作品を、演奏される未完の2曲を含め「第9番」とし、それが定着し親しまれていた。ところが、20世紀の終わりころドイチェ番号の改定が行われ、自筆譜のままで演奏できる交響曲は8曲ということで「第8番」とされ、現在はこの「第8番」に統一されつつあるという。つまり「グレイト」は「第7番」→「第9番」→「第8番」と変遷して来たわけだ。
紛らわしい。新しい研究成果に基づき通し番号を付け替えれば混乱するのは無理ない。モーツァルトの場合は最初のケッヘル番号を大事にし、交響曲の通し番号も実際何曲あるのか知らないが「第41番」まで不動である。ブルックナーだって9曲以外に「0番」「00番」とあって当初の番号は変更していない。通し番号も作曲年順だったり、出版年順だったり、そもそも全体数と番号とが対応しないこともある。通し番号といってみても馴染んだ記号、愛称に近いわけで、最新の研究結果でもってそれを屡々変更するのはどうかと思う。
それに交響曲でいう「第9番」は、“第9の呪い”などと面白おかしくいわれ、ベートーヴェンから始まり、シューベルト、ブルックナー、ドヴォルザーク、マーラー、ヴォーン・ウイリアムズなど「第9番」以降の交響曲をつくることができなかった作曲家を列挙して遊ぶことがある、そこからシューベルトを外す必要はないだろうに。
もっとも“第9の呪い”などというのは与太話に過ぎない。ブルックナーやマーラーは9曲以上の交響曲を作曲しているし、ドヴォルザークの「新世界から」は最初「第5番」と呼ばれていたのだから“第9の呪い”などは作り話の類である。でも、人は事実であろうとなかろうと物語さえあれば余分に楽しめるわけで、その楽しみはそっとしておいたほうがいいのではないか、というだけの余談である。
さて、広上の「グレイト」は、近年流行りの速めのテンポによるエキセントリックな演奏ではなく、恰幅が良くまろやかでコクのある落ち着いた演奏である。古風といってもよい。冒頭のホルンの導入部も刺激的ではなく、それに導かれる弦楽器の響きも神秘的だ。推進力に富んでいながらリズムは柔らかくノスタルジックな雰囲気さえある。鄙びた辻音楽を連想させるスケルツォのトリオはこの曲の中で一番好きな箇所だけど、理想的なテンポと節回しで感情を大きく揺さぶる。広上は最終楽章のコーダに向けてスコアを閉じた。両手を広げ、身体を左右に振ってオケを駆り立てる。音楽が集中力を高めながらスケールを増し大団円をつくりあげた。円熟の指揮者の為せる業である。
コンマスは扇谷泰朋。木管のトップは真鍋恵子、杉原由希子、伊藤寛隆、田吉佑久子。金管はホルンが信末碩才、トランペットがオッタビアーノ・クリストーフォリ、トロンボーンのトップは不明だが、トロンボーン隊として最上の仕事をした。ティンパニはエリック・パケラ。これはベストメンバーだろう。弦管打楽器とも至福の音を出していた。