2026/6/30 伊東裕+秋元孝介 メンデルスゾーン「チェロ・ソナタ第2番」 ― 2026年06月30日 18:00
フィリアホール ランチタイム・コンサート・シリーズ
第88回 伊東裕 チェロ・リサイタル
日時:2026年6月30日(火) 11:30開演
会場:フィリアホール
出演:チェロ/伊東 裕
ピアノ/秋元 孝介
演目:メンデルスゾーン/無言歌 Op.109
ブロッホ/ユダヤ人の生活から
「祈り」「嘆願」「ユダヤの歌」
マーラー/アダージェット(交響曲第5番より)
メンデルスゾーン/チェロ・ソナタ第2番
ニ長調Op.58
チェロの伊東裕が同じ葵トリオのメンバーである秋元孝介のピアノと共にリサイタルを行うというので田園都市線の青葉台駅まで出かけることにした。
室内楽のプログラムは馴染みがないから少し予習をした。とくにメインのメンデルスゾーンの「チェロソナタ第2番」はYouTubeでも聴いてみた。爽やかな曲である。書かれたのは1843年の30代半ば。前後には「夏の夜の夢」や交響曲第3番「スコットランド」、ヴァイオリン協奏曲ホ短調、オラトリオ「エリア」などの傑作が生れている。メンデルスゾーン絶頂期の楽曲といっていいだろう。
第1楽章はどこかで聴いたような旋律、伊東裕のチェロは深々とした響きで力強く歌う。それを支える秋元孝介のピアノの和音連打が心地よい。メロディーメーカーであるメンデルスゾーンの面目躍如。伊東、秋元とも旋律は活発に動き回り、有り余るほどの勢いがあった。
第2楽章はスケルツォ、伊東の飛び跳ねるようなピチカートと秋元のスタッカートの絡みが印象的だった。幻想的でお茶目な表情をみせ、「夏の夜の夢」の音楽といってもおかしくない。魅惑的で優しい旋律がいかにもメンデルスゾーンらしい。
第3楽章はアダージョ、ピアノのコラール風の分散和音からはじまる。ここは秋元の最大の見せ場だった。そして伊東の朗々と鳴るチェロが重なって行く。情緒豊かで夢見るよう、肌が粟立つほどの感動した。
第4楽章はヴィヴァーチェ、2人の音楽は激しいが流麗さを失わない。チェロとピアノとで駆けっこしているみたい。緩急も目まぐるしく気がつくと興奮のコーダへと雪崩れ込んでいた。
全4楽章の演奏時間は30分弱、これはお勧めの一曲だ。
コンサートの開始は、同じメンデルスゾーン「無言歌」から。ピアノ独奏のための「無言歌」ではなく、晩年に1曲だけ書いたチェロとピアノのための作品。ときどきチェロのアンコール・ピースとしても演奏される。伊東の弾く「無言歌」は楽想が滔々と流れつつ繊細で美しい。
挨拶代わりの「無言歌」のあと、伊東と秋元がマイクを持った。秋元は葵トリオとフィリアホールとの因縁をちょっとお喋りし、AOIのうちのOはいないけどAIでやります、といって笑わせた。伊東は簡単に演目の紹介をした。そう、今日はユダヤ人作曲家が隠されたテーマだった。
話を終えてブロッホの「ユダヤ人の生活」。ブロッホはチェロと管弦楽のためのヘブライ狂詩曲「シェロモ」が一番有名だけど、「ユダヤ人の生活」はユダヤの伝統や文化を反映したチェロとピアノのための組曲。伊東と秋元は哀愁漂う泣き節を聴かせてくれた。
「交響曲第5番」のアダージェットは、マーラーが作曲中に出会った妻アルマへの愛を音楽にしたもの。管弦楽ではハープと弦5部で演奏されるが、今回はもちろんチェロとピアノのみ。2人だけの演奏で重量感よりは清潔感が上回るがコクは失われない。伊東の歌心と秋元の多彩な音色が寄り添い悲しくも美しい。音は下降しながら沈み込み、途中の闇や憂いを乗り越え、徐々に明るさと希望が現れてくる。ゆったりとした陶酔のなかで曲が終わった。
マーラーの演奏後、2人は一度舞台裏に下がったが、休憩というわけではなく、すぐ舞台に戻り「チェロ・ソナタ第2番」を弾いた。
完売公演で満席の鳴りやまぬ拍手に応じ、アンコールは「歌の翼に」だった。メンデルスゾーンの「無言歌」ではじめて「歌の翼に」で終える、完璧なコンサートであった。