2026/10/10 大植英次×神奈川フィル 「パガ狂」と「惑星」 ― 2026年10月10日 21:06



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第417回

日時:2026年10月10日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:大植 英次
共演:ピアノ/アレクサンダー・ガジェヴ
   女声合唱/神奈川ハーモニック・クワイア
演目:ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲
   ホルスト/組曲「惑星」


 大植英次はこのところ毎年のように神奈川フィルに客演し、なかなか満足度の高い演奏を聴かせてくれる。今日は共に20世紀前半の作家であるラフマニノフとホルストの代表作である。
 ソロは人気のアレクサンダー・ガジェヴ、やはり女性客が多く完売公演となった。先日のケヴィン・チェンと同様、ショパンコンクールで第2位を獲得している。チェンは昨年の第19回、ガジェヴはその前2021年の第18回で反田恭平と2位を分かち合った。

 最初は「パガニーニの主題による狂詩曲」。ラフマニノフがパガニーニの「カプリース 第24番」の主題をもとに24の変奏曲を書いた。最近ではユリアンナ・アヴデーエワのダイナミックでエネルギッシュなピアノが印象に残っている。そういえばアヴデーエワは10数年前のショパンコンクールの覇者だった。
 ガジェヴの音色は明るく柔らかい。細やかなニュアンスを感じさせリズム感も素晴らしい。ピアニッシモからフォルテッシモまで良く考えられた演奏だけど、ちょっと表現が淡白で油彩画というよりは水彩画のような趣がある。大植の伴奏がこってりとしていて、オケの勢いに押されたようなところもあった。

 この楽曲の表題は「狂詩曲」となっているけどWebマガジン「ONTOMO」の増田良介によると、この作品には作曲者本人が考案した筋書きがあるらしい。
 いわく、<物語の主人公はパガニーニ自身で、ほかに「パガニーニが、芸術における完璧さとある女性への愛のために魂を売った」悪魔が登場する。《カプリース》の主題はパガニーニ自身、そしてもうひとつの重要な主題、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」に基づく「ドシドラシソララ」という主題は悪魔を表す。悪魔は第7変奏ではじめて登場し、第8~10変奏で力を増していく。第11変奏で雰囲気ががらりと変わり、ここからが「愛の領域」となる。第12変奏ではじめて登場する女性は、第13変奏でパガニーニと対話し、この女性とのエピソードが第18変奏まで続く。第19変奏はヴァイオリンをもったパガニーニだ。ピアノがヴァイオリンのピッツィカートを模倣する。これは「悪魔的ピッツィカートによるパガニーニの勝利」らしい。続く第21~22変奏について、ラフマニノフは、「悪魔を表すほかの登場人物たちが、その女性やパガニーニの芸術をめぐって争うのをカリカチュアとして描いてもいいと思います」と書いた。そして、第23変奏の最初の12小節において、パガニーニはついに挫折し、悪魔が勝利する。悪魔は凱歌を上げる>、と紹介されている。

 なるほど、これは自由奔放な「狂詩曲」としてでなく、ピアノをフィーチャーした「交響詩」として聴いていいのかも知れない。ガジェヴのピアノからもう少し物語を読み取るべきだったと反省した。
 ソロアンコールは2曲、グリーグの抒情小品集の「アリエッタ」とショパンの「マズルカ」とホワイトボードに書いてあった。それにしてもガジェヴは繊細で内部に沈み込むような情緒的な曲のほうが得意ではなかろうかと思う。

 後半は「惑星」。大植は古希を過ぎているが、この歳でありながらねちっこく骨太な濃い演奏を繰り広げる。もともとオケを鳴らすのが上手い人だから「惑星」となれば音の大絵巻となる。
 「火星」「金星」「水星」と進み、組曲中もっとも有名で壮大な「木星」を経て、後半の「土星」「天王星」「海王星」がことのほか面白かった。特にスケルツォ風の「天王星」はどぎついほどで、大規模な管弦楽とオルガンが目一杯活躍した。弦楽器やホルン、イングリッシュホルンなどの管楽器が諧謔風の旋律を歌う。コンマスは東フィルの三浦章宏、チェロ、コントラバスの首席も宮地晴彦、菅沼希望が客演、ホルンはサイトウ・キネンの阿部麿、イングリッシュホルンはN響の和久井仁という名手が参加するなど、ゲストを含めて思う存分暴れまわった。コンマスの隣の濱田彰子などは大植のオケの煽り方を見て何度も笑みをこぼしていたけど。「海王星」の終盤のヴォカリーズはプロの女性合唱で、舞台裏にて舞台出入口を開けて歌ったため、神秘性はいささか薄れたものの歌声がはっきりと聴きとれた。
 この「惑星」は大植なりにデフォルメし厚化粧を施したもので、デュトワや藤岡とは全く異なるアプローチながら興味深く聴いた。
 来年は東響定期でウルバンスキが「惑星」を振る。スタイリッシュなウルバンスキは、また大きく違う「惑星」を聴かせてくれるはず、楽しみである。

コメント

トラックバック