2023/11/18 シーヨン・ソン×神奈川フィル アメリカからの音楽2023年11月18日 22:17



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第390回

日時:2023年11月18日(土) 14:00開演
場所:横浜みなとみらいホール
指揮:シーヨン・ソン
共演:ヴァイオリン/辻 彩奈
演目:F.プライス/アメリカにおけるエチオピアの影
   コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35
   ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調Op.95
         「新世界より」


 今日のプログラムはアメリカつながりの3曲。最初はフローレンス・プライスの「アメリカにおけるエチオピアの影」。日本初演だから、もちろん初聴き。といっても最近作曲されたわけではない。第二次大戦前の作品。
 プライスは19世紀末生れのアフリカ系アメリカ人の女性作曲家。当時の世情やむをえず、メキシコ系と偽って音楽院に入学した。忘れ去られた作曲家の一人だが、近年、消失した作品が発見されたり、音盤への録音が進むなど、再評価されつつある。
 「アメリカにおけるエチオピアの影」は、演奏時間15分程度、3楽章構成で続けて演奏される。アフリカの民族音楽的要素を背景にしつつも、西欧のロマン派らしき旋律が聴きとれる。ドヴォルザークの影響もありそう。アメリカの奴隷制度をテーマにした曲で、奴隷としてアメリカへ連れて来られた黒人が、忍従と信仰を得て、適応していくという物語が織り込まれているらしい。
 シーヨン・ソンは、決然として思いっきりのいい指揮ぶり。といって、がむしゃらに走ることはしない。パウゼも十分に時間をとる。左手が雄弁で、奏者への指示だけでなく、さまざまな感情表現を左手にのせていく。歌謡性豊かなメロディと陽気なリズムが随所にあらわれ、聴きやすい。

 2曲目はアメリカへ亡命したコルンゴルトの「ヴァイオリン協奏曲」。この3月にも金川真弓+東響で聴いた。
 ソリストの辻彩奈は、以前、ノット×スイス・ロマンド管弦楽団の日本ツアーでのメンコンを聴いている。辻彩奈のヴァイオリンは伸びやかでしっかりした音、艶もあって、甘くロマンチックで絢爛としたコルンゴルトの音楽によく似合っていた。この先、彼女の重要なレパートリーになるのではないか。コンマスの大江馨との息もぴったし。
 ソリストアンコールは、スコット・ウィラーの「アイソレーション・ラグ」。ギル・シャハムのために書かれた曲。ギル・シャハムにお願いして楽譜をいただいたという。

 休憩後、ドヴォルザークの「交響曲第9番」。シーヨン・ソンはたっぷりと情熱的に歌う。彼女の左手が奏者たちをよくコントロールし感情を盛り上げたり、鎮めたりする。あらためて「新世界より」は、物語が浮かびあがってくるような名曲だと気づかせてくれた。
 シーヨン・ソンはサー・ゲオルグ・ショルティ国際指揮者コンクールで優勝し、グスタフ・マーラー指揮者コンクールの最高位を獲得している。もう20年近く前のこと、もうアラフィフである。韓国釜山出身で主にヨーロッパでキャリアを積んだあと、2014年から2017年までキョンギ・フィルハーモニーの音楽監督を務めた。現在はニュージーランドのオークランドフィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者だという。彼女の一層の活躍を注目したい。