2025/10/20 ビシュコフ×チェコ・フィル スメタナ「わが祖国」 ― 2025年10月21日 09:42
NHK音楽祭 2025
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
日時:2025年10月20日(月) 19:00開演
会場:NHKホール
指揮:セミヨン・ビシュコフ
演目:スメタナ/連作交響詩「わが祖国」
チェコ・フィルはビエロフラーヴェクのときに聴いたことがある。演目のメインはブラームスだったと思う。演奏の内容はおぼろげだけど、素朴な弦の音色とサントリーホールが飽和するかのような音圧だけは覚えている。
チェコ・フィルの「わが祖国」は一度聴いておきたい。円熟のビシュコフ×チェコ・フィルがNHK音楽祭で演奏してくれる。ビシュコフはイリヤ・ムーシンに師事したユダヤ系ロシア人だが、20代の早い時期に西側へ亡命している。2018年にチェコ・フィルの音楽監督に就任し、2028年の退任が決まっている。後任は長期政権になりそうなフルシャとなった。ビシュコフ×チェコ・フィルを聴く機会はこの先わずかである。
チェコ・フィルはやはりNHKホールをものともしない。何ならこのくらいの容量が相応しいくらい。弦・管・打楽器とも懐の深い音色が魅力的で音量も桁違い。この基礎体力でもって隙のない演奏を繰り広げる。「わが祖国」であれば楽団員一人ひとりが楽曲の隅々まで熟知しているからどんな局面でもバランスが崩れない。ビシュコフは粘りのある音楽をつくるが、奏者の自主性に任せているところもあるようで、メンバーがとても楽しそうに演奏していた。「わが祖国」は聴き手にも体力を要求するけど、休憩なしの1時間半がもたれることなく短く感じた。
「わが祖国」はチェコの伝説(1.ヴィシェフラド[高い城]、3.シャールカ)と自然(2.ヴルタヴァ[モルダウ]、4.ボヘミアの森と草原から)と歴史(5.ターボル、6.ブラニーク)が音によって描かれ、スメタナはこの作品に帝国の支配下にあったチェコの復活と独立への渇望を託した。チェコの人々にとっては国歌に等しい曲だろう。そして、他の国の人々にとっても自らの国への思いは共通のはずで、「わが祖国」という楽曲にこめられた熱き願いが普遍性を持ち共感を呼ぶ。ロシアで生まれスターリン時代の共産主義の弾圧の歴史と対峙したビシュコフであれば尚更のこと。ビシュコフ×チェコ・フィルの「わが祖国」に感服した。