2025/9/28 ノット×東響 バッハ「マタイ受難曲」 ― 2025年09月28日 20:32
東京交響楽団 川崎定期演奏会 第102回
日時:2025年9月28日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:エヴァンゲリスト(テノール)/
ヴェルナー・ギューラ
イエス(バリトン)/ミヒャエル・ナジ
ソプラノ/カタリナ・コンラディ
メゾソプラノ/アンナ・ルチア・リヒター
テノール/櫻田 亮
バリトン/萩原 潤
バス/加藤 宏隆
合唱/東響コーラス
合唱指揮/三澤 洋史
児童合唱/東京少年少女合唱隊
児童合唱指揮/長谷川 久恵
演目:J.S.バッハ:マタイ受難曲 BWV244
R.シュトラウスの「サロメ」「ばらの騎士」、ヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」、ブリテンの「戦争レクイエム」などの歌劇や声楽曲を積み重ねてきたノットと東響のコンビが、12年目の旅の最後にあたって「マタイ受難曲」を取りあげた。
ノットは「少年合唱団の一員として『マタイ受難曲』を歌ったことがあるが、指揮をするのは初めて」と言う。そして、東響コーラスについて「素晴らしい合唱団…『マタイ受難曲』や『戦争レクイエム』は、彼らがいるからこそ演奏できる」と語った。
ノットが初めて指揮するという「マタイ受難曲」は、徹頭徹尾美しい。近年主流の古楽器によるこじんまりとした「マタイ受難曲」ではなく、モダンオケと共にしっかりとした歌手や合唱団を揃えて、大曲としての「マタイ受難曲」を披露してくれた。
「マタイ」はレチタティーヴォとアリアとコラールの重層構造だけど、ノットの指揮はそれらの境界線さえ明らかでないほど滑らかに渾然一体となった演奏だった。2群に分けられた弦はほぼノンヴィブラートながら優しく柔らかく、木管はいつものように繊細。
その美しさを背景に人間の弱さ、罪深さがくっきりと浮かび上がる。イエスの受難という別の世界の話ではなく、我々自身の物語として描き出された音楽に打ちのめされた。
今は放心状態で、とてもじゃないが細部を振り返ることなどできない。落ち着いたころを見計らって、機会があればもう一度記憶を手繰ってみようと思う。