ガーンジー島の読書会の秘密2021年09月11日 08:03



『ガーンジー島の読書会の秘密』
原題:The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society
製作:2018年 フランス・イギリス合作
監督:マイク・ニューウェル
脚本:ケヴィン・フッド、ドン・ルース、
   トーマス・ベズーチャ
出演:リリー・ジェームス、ミキール・ハースマン、
   ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、
   グレン・パウエル

 まどろっこしい邦題、『ガーンジー島の読書会』とでもすればいいものを“――の秘密”と加えてある。秘密というほどではない。ミステリーとかサスペンスというより、どちらかというとヒューマンドラマ、ラブロマンスと言っていい。もっとも原題からして何のことか、ガーンジー文学とポテト皮のパイの会? よく分からない。邦題を考えた人は悩んだと思う。
 netflixやAmazon PrimeVideoで視聴可能。『Yesterday』のリリー・ジェームスが主演しているので何となく見てしまった。これがすごく面白かった。戦争直後の時代、戦中の話を折り込みながら物語は進む。

 だいたいガーンジー島ってどこ? 地図で調べてみると、海を挟んだ目の前はフランスのノルマンディー地域、イギリス王室属領だがフランスの方がずっと近い。よく知られた都市でいえばシェルブールが対岸にある。
 そう、戦時中、フランスがドイツに占領されたとき、この島もナチの治世下になってしまった。イギリスもドイツに支配された場所があったのだ。

 戦争が終わってすぐの頃、作家のジュリエット(リリー・ジェームス)は、ガーンジー島で戦時中から続く読書会の一員ドーシー(ミキール・ハースマン)と手紙で知り合い、島に渡る。
 秘密というなら“The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society”という名の読書会(原題は苦し紛れに発した読書会の名称だった)を創設したエリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ=『ニューヨーク冬物語』のヒロインを演じた)と、敵であるドイツ兵との恋愛およびその結末なのだけど、本筋はジュリエットの自分探し、読書会の仲間との交流そして絆を描く。
 ジュリエットの島での行動力とひたむきな姿が目に眩しい。リリー・ジェイムスはキリリと結んだ唇に勝気さが伺われ、その唇に知性が表れていると言ってみたくなる。美人女優にありがちな細い腰、細い脚とは違い、当たり前の体つきが身近にいる女性のように思える。今、一番のお勧め女優である。
 もとい、ジュリエットには、アメリカ軍人のマーク(グレン・パウエル)という婚約者がいる。この男、善人には違いないが、どこかエリートくさい。結局、ジュリエットは婚約を破棄し、読書会のドーシーと一緒になる。
 ドーシーは素朴で誠実、振られ役のマークはアメリカ人らしい好人物。もう一人、介添え役であるジュリエットの編集者(マシュー・グード)がまた有能で、これ以上ない心遣いの持ち主、異性に興味ないのが難点とはいえ、とびっきりの良い男。これらジュリエットを取り巻く男たちの立ち居振る舞いにもニンマリする。
 
 監督のマーク・ニューエルは、日本ではあまり知られていないが『フェイク』や『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』などを演出しているベテラン、もう70歳を越えている。手堅くカメラを寄せて引いて、人物と風景をうまく切り取りながら、心情の変化に濃淡をつける。
 音楽はアレクサンドラ・ハーウッド。アコースティック楽器だけでなく電子楽器も使い、女性らしい繊細で優しいメロディーが印象的。風が吹き渡り、草がなびき、陽が射してくるような柔らかな音楽を奏で映像を支える。

 この時代の英国を扱った映画には、他にも『英国王のスピーチ』『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』と良作が目白押し。背景となるイギリスの都市、田舎がそのまま画になっている。時代を現代にとっても『アバウト・タイム』『Yesterday』、児童書を実写化した『パディントン』『ピーターラビット』などなど、イギリスの風景は、自然に物語を紡ぎだして行くようだ。

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