2023/8/8 秋山和慶×センチュリー響 ドヴォルザーク「交響曲第8番」 ― 2023年08月09日 13:03
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023
日本センチュリー交響楽団
日時:2023年8月8日(火) 19:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:秋山 和慶
共演:ヴァイオリン/HIMARI
演目:シューベルト/交響曲第5番 変ロ長調D.485
ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調Op.26
ドヴォルザーク/交響曲第8番 ト長調Op.88
日本センチュリー交響楽団の前身は大阪センチュリー交響楽団。Wikiによると大阪府出資の吹奏楽団(大阪府音楽団)が1989年に交響楽団に改組されて設立された。その後、2011年橋下知事の時代に補助金がカットされ民営化、現在の名称に変更された。
指揮者陣は首席が飯森範親、首席客演が久石譲、ミュージックアドバイザーが秋山和慶。楽団員は約50名、弦10型2管程度の編成が基本だろう。今回は3曲とも12型で演奏された。コンマスは都響の山本友重がゲストで座った。
はじめてセンチュリー響を聴いたが見事な音楽集団。個々の演奏技術が高く、驚異的な合奏能力を誇る。首都圏オケでもなかなか太刀打ちできないほどの水準。低音から高音、弱音から強音まで、パートそれぞれが緻密でバランスがいい。
弦はとくにチェロが雄弁、コントラバスと共に底力のある低音をつくり出していた。ヴァイオリンも一体感のある美しさ。木管は歌心に満ち、気づくと必要な場面できっちりと鳴っている。金管は伸びやかで瑕瑾なく安定している。オケの音は柔らかく包み込まれるようで、手触りの良い織物のような風合いだ。
オーケストラは各パートの主張と全体の均衡とのせめぎ合いだと思うが、それが理想的な形で実現している。もちろん秋山さんの手腕は大きいといえ、オケ自体がつくりあげてきた歴史の成果だろう。
センチュリー響は、10年前に“潰れてもかまわぬ”と言わんばかりの横暴で、補助金がストップされ、民間の寄付に頼りながら苦難の道を歩んできた。日本のオケは大なり小なり同じような状況下にある。酷い話だがこれが現実。
大阪では当時、文楽に対しても厳しい姿勢がマスコミ沙汰になっていた。先日は国立科学博物館のクラウドファンディングが話題だった。これも目標額の達成を喜ぶより、国は恥ずべき事だとは思わないのか。
科学や文化活動は一度壊れてしまえばそれを取り戻すに何十年、何百年とかかる。破壊することは誰にでもできる、守るべきものを守るのが大事で難しい。国や自治体は困難を避けることしか考えていないように思える。
さて、1曲目はシューベルト19歳の時の「交響曲第5番」。秋山さんらしくしっかりした構成感、ゆったりとしているが鈍重なところは微塵もない。クラリネットを欠いたフルート、オーボエ、ファゴットたちの陰影が素晴らしい。丁寧に彫琢したシューベルトからモーツァルトが垣間見える。モーツアルトへのオマージュと再確認した
2曲目はHIMARI(吉村妃鞠)をソリストにしてブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」。HIMARIは12歳、昨年アメリカのカーティス音楽院に最年少で合格している。秋山さんは現在82歳だから祖父と孫というよりは曾祖父と曾孫といったほうがいい。
秋山さんの劇的で強固なサポートをバックに、HIMARIの技巧と音が際立つ、すでに立派なソリスト。2楽章の濃厚な歌いまわしなど情感もたっぷり。この先どこまで成長するのか末恐ろしい。アンコールはナタン・ミルシテインの「パガニーニアーナ」、超絶技巧満載の曲を軽々と弾きこなした。
休憩後、ドヴォルザーク「交響曲第8番」。秋山さんは年齢を重ねてますます若々しく俊敏に。第1楽章はキレキレのテンポ設定、中間のふたつの楽章は旋律をたっぷり歌わせ、小技も駆使する。しかし、決して過度にならない練達の技。終楽章の加減速とクライマックスの築き方はまさに名人芸。終演後はブラボーの嵐。
今年のサマーフェスティバルへの参加は3公演だけだったけど気持ちよく終了。なお。ミューザの夏祭りそのものは11日に最終日を迎える。
2023/7/30 鈴木秀美×山響 ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」と「グレイト」 ― 2023年07月30日 20:46
フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2023
山形交響楽団
日時:2023年7月30日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:鈴木 秀美
共演:ヴァイオリン/石上 真由子
演目:ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調Op.61
シューベルト/交響曲第8番 ハ長調D.944
「グレイト」
FSMが開幕して1週間になる。ようやく初参戦とあいなった。
山響は、今までも「さくらんぼコンサート」と称して東京公演を重ねているが、聴く機会がなかった。飯森範親が監督のとき大きく評判となり、現在の阪哲朗の時代になってもその勢いは続いているようだ。
今日は首席客演指揮者の鈴木秀美に率いられ、石上真由子がソロを弾いた。弦8型2管編成の小型オケとしては申し分ないプログラムだ。
石上真由子は医科大出身という珍しい経歴の持ち主。ナチュラル・ホルンやトランペットを用いるこのオケに合わせたのか、ヴィブラート控え目、pp多めの音づくり。
弱音主体のベートーヴェンで思い出すのは、同じ真由子でも神尾真由子の演奏。そのときの驚きに比べるとインパクトは弱い。石上真由子の歌いまわしにはギクシャクした部分があり、音は乾いていてちょっと潤いが不足気味。
休憩後の「グレイト」。
オケの音色は地味でくすんだ響き。楽器は、とくに管楽器は時代を下るにしたがい機能性を追求し、操作が容易く美しい音を目標に改良が加えられてきた。現代の聴衆は当然その音を知っている。山響はあえてナチュラル楽器を使用して旧時代の響きを求めているのだから、ベールが一枚かかったような音色がこのオケの核心であり魅力なのだろう。
鈴木秀美のテンポは中庸、とりたてて尖ったところがあるわけではない。その意味では肩透かしをくらったものの、楽章を追うごとに音楽は熱を帯び、気がつくとシューベルトの世界が広がっていた。
もともと「グレイト」は好きな交響曲のひとつ。いつでも楽しんで聴くことができるけど、とりわけ今日の最終楽章の高揚感はなかなか充実していた。先人のベートーヴェンの音楽と、後年のブルックナーの音楽が「グレイト」なかで融合されているような気分となって、幸福感に満ちたものだった。
この暑い中、満席とはいえないまでも、お客さんは良く入っていた。今年のFSMは盛況のようである。
2023/6/25 マリオッティ×東響 モーツァルトのピアノ協奏曲、「グレイト」 ― 2023年06月25日 21:38
東京交響楽団 川崎定期演奏会 第91回
日時:2023年6月25日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ミケーレ・マリオッティ
共演:ピアノ/萩原 麻未
演目:モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467
シューベルト/交響曲第8番 ハ長調 D944
「ザ・グレイト」
イタリアの俊英、マリオッティ。ボローニャ歌劇場の首席指揮者を経て、昨年にはローマ歌劇場の音楽監督になっている。初見参である。
イタリアは幾多の名指揮者を生んでいる。その系譜に繋がる逸材。体格は中肉中背で、日本人と大きく変わらないが、佇まいからしてThe指揮者、これが指揮者という風格。
右手は振り過ぎない、拍を刻まないときもある。左手は絶えず表情をつくりだしている。それに対する東響(コンマス:グレブ・ニキティン)の反応がまた格別。指揮者とオケとのやり取りを見ているだけで管弦楽の醍醐味を味わうことができる。
モーツァルトとシューベルト、いずれも歌にあふれている。その歌をマリオッティは思う存分歌いあげる。自身もずっと口ずさみながら指揮をした。弱音は絶美、強音は威圧的にならない。自然な息遣いでテンポが揺れ、スピードが変化する。
ローマ歌劇場の音楽監督は伊達じゃない。しかし、よく分からないけどコンサート指揮者としてはあまり出演をしないのだろうか。今までまったく視野に入ってこなかった。
プログラムノートを読むと、音楽評論家の香原斗志さんは10年以上も前から注目していたという。慧眼である。Net上の「SPICE」に同じ記事が掲載されている。
https://spice.eplus.jp/articles/318571
モーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番」のソロは、萩原麻未。萩原さんのちょっと翳のある美しい音にも感心したが、マリオッティの伴奏のつけかたが絶妙で、ピアノとオケのバランスに一分の狂いもない。第1楽章の忍び足のような始まりから音楽が横溢し、第2楽章の美を極めた調べ、第3楽章の活力ある飛翔まで、素晴らしいモーツァルトに魅了された。
「グレイト」は各楽章ともシューベルトが歩みながらあらゆる景色をみせてくれるような音楽。諸説あるものの現在では、1825年の5カ月に及ぶオーストリア、ザルツブルク旅行のときに「グレイト」が作曲されたと言われている(村田千尋『シューベルト』音楽之友社、99-100頁)。堂々とした歩み、軽快な片足飛び、崖っぷちを行くような緊張、舞踏、駆け足などの情景が目に浮かぶ。
第1楽章はゆったりとした足取りから軽やかなステップまでその変化が楽しい。第2楽章はオーボエの荒さんの妙技、竹山、ヌヴー、福士の木管群が心に沁みる。経過部ではホルンと弦楽器の掛け合いに耳が奪われる。第3楽章のスケルツオ、もうこれは舞曲。トリオは鄙びたワルツで、いつも涙するところ。今日は号泣して指揮者もオケも視界から消えてしまった。第4楽章は金管による躍動的で情熱的な音楽と、木管で奏でられる抒情的な音楽が交叉して進む。低弦がそれを支える。そう、マリオッティはチェロとコントラバスの活かし方が実にうまい。コーダでは圧倒的なクライマックスを築く。
モーツァルトの開始楽章からシューベルトの終楽章まで、あいだの休憩時間は別として、涙が途切れることがなかった。今まで「ピアノ協奏曲第21番」や「グレイト」は幾度となく聴いて来たが、両曲ともこの演奏がベストワンとなった。
40歳半ばのマリオッティ、いろいろな管弦楽曲をもっと聴いてみたい。コンサート指揮者としての色気があるのかないのか。東響との相性は申し分ない。4、5年先、ノットのあとの監督は、ウルバンスキ、ヴィオッティを期待しているが世界は広い。マリオッティを大本命にしてもいいくらいだ。たんなる夢物語にすぎないが…
今日の演奏は、ニコニコ動画で配信された。
https://live.nicovideo.jp/watch/lv340528481
ヨアナ・マルヴィッツ ― 2023年06月10日 08:39
ドイツの若手女性指揮者ヨアナ・マルヴィッツに関するニュース。
すでに2023/2024シーズンからベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の首席指揮者に就任するとアナウンスされているが、このほどクラシック・レーベルの名門ドイツ・グラモフォンと契約を締結したと発表された。
ドイツ・グラモフォンが女性指揮者と契約を結ぶのは、ミルガ・グラジニーテ=ティーラに次いで二人目。いまはもう音盤全盛の時代ではないものの、それでもドイツ・グラモフォンといえば、映画『TAR/ター』でも登場したクラシック・レーベルの最高峰である。マルヴィッツのグラモフォン・デビューは、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団を指揮したクルト・ヴァイルの交響曲などを収めたアルバムだという。
ヨアナ・マルヴィッツはヒルデスハイム生まれの37歳というから、ミルガ・グラジニーテ=ティーラや沖澤のどかと同世代。2006年から指揮者として活動を始め(経歴には大植英次に師事したと書いてある)、エアフルト劇場、フランクフルト歌劇場、コペンハーゲン王立歌劇場などヨーロッパ各地の歌劇場で実績をつみ、2018/2019シーズンから2022/2023シーズンまでニュルンベルク州立劇場初の女性音楽総監督(GMD)を務めた。2019年にはドイツのオペラ雑誌「オペルンヴェルト」の「今年の指揮者」に選ばれた俊英で、2020年のザルツブルク音楽祭ではウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を振り「コジ・ファン・トゥッテ」を成功させた。2025年にはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にデビューすることが決まっている。
で、上のような記事があったので、YouTubeを検索してみると、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団との「グレイト」を見つけた。収録されたのは2020年。
https://www.youtube.com/watch?v=KcWIdZz4C44
このごろは音盤や放送、配信を最初から最後まで聴き続けることが苦痛になっている。手持ちの再生装置が貧弱なこともある。途中で投げ出してしまうか、何度か細切れにしてどうにかこうにか、というケースが多い。
しかし、この「グレイト」は、一気に二度も聴いてしまった。一度はPCの画面を観ながら付属のスピーカーで、二度目はUSB経由でALTECのスピーカーへ出力させた。驚くべき演奏である。
全体に早めのテンポで非常に躍動的。推進力がありダイナミック。怒涛のように音楽が奔流する。強弱、緩急の揺らぎが大きく、大胆なルバートや激しいアチェレランドを恐れない。それでいて音楽は自然な息遣いを損なうことがない。音に命が吹き込まれる。そして、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の渋い音色が、過激な演奏になりすぎないようバランスしている。マルヴィッツがつくろうとしている音楽と程よく釣り合い、奇妙に調和している。
ヨアナ・マルヴィッツは暗譜。背が高く、長い手足、しなやかな身体。どことなくケイト・ブランシェットを彷彿とさせる。指揮ぶりは活発で身体全体を使い大きくを動かす。表情は変化に富み、笑みもこぼれる。
コロナ禍中での収録のためか、客席は無観客、楽団も1人1譜面台のSD仕様。画像では分かりにくいが多分12型。コンマスは日下紗矢子。ヨアナ・マルヴィッツと並んで“いずれ菖蒲か杜若”といった風情である。
ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団といえば、冷戦時代、ベルリン・フィルに対抗すべく東ドイツ政府が鳴り物入りで創設したオーケストラ(当時の名称はベルリン交響楽団)だ。クルト・ザンデルリングが鍛え、インバル、ツァグロセクなどがシェフを務めた旧東ドイツ屈指のオーケストラだ。女性指揮者にとってベルリン・フィルへの道のりは確かに遠いが、実際『TAR/ター』の世界は直ぐそこまで来ている。
ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団は、つい先だってエッシェンバッハに率いられ来日した。次回は首席指揮者となったヨアナ・マルヴィッツと一緒するだろう。いちど実演に接してみたいものだ。
2023/4/12 周防亮介×Jpo弦楽五重奏 パガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番 ― 2023年04月12日 20:21
みなとみらいランチタイムコンサート
周防亮介×日本フィルハーモニー交響楽団メンバー
日時:2023年4月12日(水) 15:00開演
会場:横浜みなとみらいホール 小ホール
出演:ヴァイオリン/周防 亮介
日フィルメンバーによる弦楽五重奏
ヴァイオリン/田野倉 雅秋、末廣 紗弓
ヴィオラ/小中澤 基道
チェロ/大澤 哲弥
コントラバス/宮坂 典幸
演目:シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調
Op.163より 第1楽章
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調
Op.6(ヴァイオリンと弦楽五重奏)
以前、「18区コンサート」において、“オケをバックに演奏される協奏曲を、弦楽五重奏用に編曲された伴奏で聴く”というシリーズが企画された。今回は「みなとみらいホールランチタイムコンサート」のなかで、同じコンセプトでもってパガニーニを取り上げることになった。
パガニーニの「ヴァイオリン協奏曲第1番」は、オペラチックで素敵な曲なのに聴く機会を逃している。後にも先にもサルヴァトーレ・アッカルドの演奏一度のみ。
伴奏は基本ズンチャ・ズンチャで複雑なことはやっていない。室内楽編曲のバックであれば超絶技巧の独奏ヴァイオリンが一層楽しめるだろう、との目論見でチケットを手配した。
いまでこそクラシック音楽は、超絶技巧などといって一寸取り澄ましている。が、娯楽の少ない時代には、そんな綺麗ごとではなくて見世物や曲芸に人が集まるのと同じで、オペラにおけるカストラートや、器楽における特殊技法がもてはやされたのは物珍しさのためだった。カストラ―トのファリネッリや幼少のモーツァルト、ヴァイオリニストのパガニーニやピアニストのリストなどの人気も、今でいうアイドルを見聞きしたいという群衆心理の類だろう。現在だってそういった興味がまったく消え失せたわけではない。
パガニーニはその典型で、熱狂した観客は涙を流しながら喚き、集団ヒステリーを起こした女性たちの失神騒ぎは度々だった。このあたりの話は映画『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』にも描かれている。筋書きはありきたりで、映像も目新しいところがなかったけど、パガニーニを演じた実際のヴァイオリニストであるデビッド・ギャレットの演奏ぶりはさすが。音楽が流れる場面はなかなか迫力があった。
横道にそれた。今日の演奏会である。
先ずはJpoメンバーで構成された弦楽五重奏によるシューベルトのハ長調、彼の最期の年に書かれた格別な曲。この五重奏曲はSQにヴィオラを追加するのではなくチェロを追加してチェロが2という特殊なもの。今回はチェロを追加する代わりにコントラバスという編成。全曲となると1時間近くが必要となる。
オケメンバーで編成する四重奏や五重奏は、無難にまとまってしまう傾向にあるが、コンマスの求心力のせいか、普段からオケのなかで聴き合っているせいか、各楽器のバランスが良好で感心する。この第1楽章は、ミステリアスでありながら清澄、独特の浮遊感を感じる。adagio、scherzo、allegrettoと第2楽章以降も実演で聴いてみたくなる。
田野倉さんのお喋りを挟んでから、メインのパガニーニ。
周防亮介は初めて聴く。ここの小ホールの響きは素晴らしいし、楽器の1678年製ニコロ・アマティも名器だろう。でも、周防亮介の音がなにより魅力的。まさしくソリストの音、一聴して音色、音量が抜きん出ていることがわかる。高音は空気に吸い込まれ、低音は芯が太い。E線からG線までどこをとっても非常に滑らか。甘美な音に酔うほどだが、音離れがいいのか決してベタベタしない。
開始楽章のフラジオレットの繊細さ安定度にびっくり、重音も濁らない。鮮やかすぎるカデンツァに唖然とする。中間楽章はヴァイオリンの音で身体がとろけそうな錯覚に陥った。最終楽章のスピッカートも活き活きとしている。跳弓とはいうが何種類あるのだろう。ダブル・ハーモニクスも軽々と難なくこなしていく。ヴァイオリンは魔性の楽器だ。とにかく美しい。
目論見通り超絶技巧に圧倒されただけでなく、出来のいいオペラを楽しむかのように音楽を堪能した。
そういえば、シューベルトも家具を売って金を工面し、パガニーニを聴いている。しかし、シューベルトはパガニーニの超絶技巧に影響はされなかったようだ。自らの感情表現にはほど遠いと感じたのだろう。では、パガニーニは技巧だけの刹那の音楽なのか。いや、超絶した技巧そのものにパガニーニの情念が乗り移っている。だからこそ、数百年後まで生き延び、こうやって聴く者に快感だけではない、言い知れぬ感情を呼び起こす。
周防亮介のアンコールは、シュニトケの「ア・パガニーニ」、現代音楽というより未来から来た音楽のよう。これがまた端倪すべからざるもの、この先、周防亮介から目が離せない。
ランチタイムコンサートといいながら15時開演、実は先に11時半開演の同一プログラムがあった。本来のランチタイムコンサートは大ホールで11時半に開催される。今日だけ会場が小ホールのため、2回開催となった由。