2023/11/12 広上淳一の音楽道場2023年11月12日 22:13



マエストロの白熱教室2023
 指揮者・広上淳一の音楽道場

日時:2023年11月12日(日) 13:00開演
場所:フィリアホール
指揮:広上 淳一、東京音楽大学学生
出演:東京音楽大学学生
演目:ベートーヴェン/交響曲第4番 変ロ長調 Op.60


 横浜市青葉区のフィリアホール主催公演、広上淳一による「マエストロの白熱教室」。東京音楽大学指揮科教授でもある広上淳一と指導陣が、ステージ上で学生オーケストラとともに指揮の指導を行う公開授業。課題曲はベートーヴェンの「交響曲第4番」。

 舞台下手に長机を2列並べ先生たち10人が座る。管弦楽のなかにもヴァイオリン2人、ヴィオラ、チェロ、フルート各1人の指導者が学生たちに混じる。そして、満席のお客さま。その前で、指揮科学生12人が各楽章を3人ずつで分担し、広上をはじめとする指導者たちのアドバイスを受けるという趣向。学生たちは大いに緊張したであろう。
 最初は第1楽章からスタートし、そのあとは第4楽章、次いで第3楽章、最後に第2楽章という順番で進んだ。13時から始まり終わったのは16時30分、休憩20分を挟んだとはいえ3時間30分の大講義だった。

 オケは小型の室内楽管弦楽団、音大生だから技術的にはほぼ問題はないし音も良く鳴る。しかし、楽譜から確固たるイメージを築き、演奏中は身体だけでその意図を奏者に伝え、オケが反応する音を聴いて修正しつつ、演奏の流れやニュアンスをコントロールする指揮者は、何より聴衆に音楽を感じさせなければならない。こんな難しいことはない。
 まずもって楽章ごとのテンポ設定がうまくいかない。終始前のめりになって駆けだしてしまう低学年の学生もいる。アンサンブルが乱れなかなか回復できない。強弱、緩急がぎこちなく、加減速、音の漸増減もスムーズにいかない。各楽器のバランスが崩れ旋律が浮き出てこない。学生たちの音楽はどうしても平板になりがちだった。もちろん、それでもベートーヴェンの「交響曲第4番」は魅力的な曲だけど。

 広上は無駄話、冗談を含め軽妙なやりとりで会場を沸かせていたが、広上の真骨頂はそこにはない。第1楽章の指導のとき、学生に代わって指揮台に上がり少し振った。明らかにオケの音が変わり、音楽が流れ出す。第2楽章では、指揮者の隣で注意を与え、身振りや目で合図を出す。この時も突然音に動きが生れ、情感が増す。技術や指示の巧拙というより、指揮者の存在そのものが音楽をつくりだしているように思える。

 一定の水準に達していればオーケストだけで音は出る。指揮者がいるといないとで違いがないのであれば、音楽にとって音を出さない指揮者など必要ない。楽器をもたない指揮者に要求されるのは、音楽への理解の深さや音楽への情熱、指揮のテクニックだけでなく統率力、対話力、決断力などをあげることができる。だが、さらに恐ろしいのは、最終的には人としての総合力が演奏にあらわれてしまうことだろう。
 将来のマエストロを目指す若者たちの、あくなき挑戦にエールをおくっておこう。

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