2023/3/22 広上淳一×OEK モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト2023年03月23日 10:49



オーケストラ・アンサンブル金沢 第39回東京定期公演

日時:2023年3月22日(水) 18:30開演
会場:サントリーホール
指揮:広上 淳一
共演:ヴァイオリン/米元 響子
演目:シューベルト/交響曲第5番 変ロ長調 D.485
   モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第4番 
          ニ長調 K.218
   ベートーヴェン/交響曲第2番 ニ長調 Op.36


 目当てはベートーヴェンの「交響曲第2番」。昨年のノットの演奏に納得できていない。ベートーヴェンの奇数番号の交響曲は、忘れられない演奏が幾つかあるが、偶数番号の交響曲は、柔和でしなやかな名曲が揃っているのに、どういうわけか演奏に恵まれない。
 今年のOEK東京公演は、広上がその「2番」指揮をするという。で、昨年の川瀬に続いてOEKを聴くことに。いまのOEKの体制は、広上が音楽監督(アーティスティック・リーダー)、川瀬が常任指揮者(パーマネント・コンダクター)、松井慶太が指揮者(コンダクター)である。3人とも汐澤の弟子、さらに広上と川瀬・松井は師弟関係だという。
 
 最初はシューベルト「交響曲第5番」。
 シューベルト19歳の時の作品。クラリネット、トランペット、トロンボーン、ティンパニを省いた小規模な編成で、3楽章もスケルツォではなくメヌエットという古典派風。モーツァルトへのオマージュかも知れない。
 管弦楽の編成は「40番」と同じ。調性はト短調の平行調の変ロ長調。第1楽章のVn1とVn2のオクターヴ・ユニゾン、第2楽章の変ホ長調アンダンテ、第3楽章のト短調メヌエットなどは、楽章形式や調性、旋律もモーツァルトと見紛うほど。革新的な「エロイカ」が世に出てから10年以上も経っている。懐古趣味なのか、意図をもってしてなのか、よく分からない。
 広上は、低域をよく響かせながらも重くならず、終始柔らかく暖かい音でシューベルトを慈しむように演奏した。OEKは8-6-4-4-3の弦編成、室内オケとは思えないほど豊かな音が出ていた。コンマスはアビゲイル・ヤング、ホルン・トップには東響の上間さんが客演していた。

 次は、米元さんのソロでモーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲第4番」。
 やはりモーツァルト19歳の時の作品。オケの編成は前曲のシューベルトとほとんど変わらないが、フルートとファゴット、低弦の一部が抜けてさらに小型に。
 ソリストの米元さんは以前ベートーヴェンのVn協で見事な演奏を聴かせてくれた。伸びやかな音で、オケとの間で親密な対話を重ねる。広上も愉悦に満ちた音楽でもって、心地よさげに相手を務めていた。
 アレグロ、アンダンテ・カンタービレと進むにつれ、花粉症のせいでもあるまいに涙目になって困った。最終楽章のロンドは「コジ・ファン・トゥッテ」のデスピーナの歌としても通用しそう。一瞬オペラのアリアを聴いているような気分になった。
 ソリストアンコールは、先日の神尾さんと同じパガニーニ、神尾さんの“動”と米元さんの“静”、全く異なる曲に聴こえた。

 お目当てのベートーヴェンの「交響曲第2番」。
 広上は、これみよがしの緩急、強弱で曲を煽るようなことをしない。音色の微妙な変化で曲を組み立てて行く。作品は第1楽章など猛烈なスピードや強弱のコントラストが目立つし、最終楽章もトリッキーな主題で落ち着かないが、広上は悠然として動じない。
 ひとつ間違うと平板な音楽になってしまう恐れがある。でも、スピードとか音量ばかりに注意が行かないように配慮しているのだと思う。楽器の混ぜ合わせ、楽器間のバランス、各楽器の強調による表情の移り変わりによって、曲がもつ景色を丁寧にみせようとする。その音色のグラデーションが飽きさせない。
 30歳になったベートーヴェン、難聴の悪化に苦悩していた時期、交響曲において初めてスケルツォ(諧謔曲)が使われ、「エロイカ」への橋渡しとなる交響曲が書かれた。音楽家にとって耳が聴こえなくなるという絶望のなかにありながら、全体に明るい色調の希望を感じさせてくれる曲を、急がされることなく、広上×OEKは存分に楽しませてくれた。

 平日のちょっと変則的な18時30分開始という演奏会、客席は7、8割が埋まっていた。カラヤン広場やホワイエでサラリーマン風のグループを幾つか見かけたから、北陸の協賛企業の東京支社・支店から動員があったのかも。しかし、それは別の話、ともあれ充実のコンサートだった。