2022/11/27 ノット×東響 シューマンとベートーヴェン2022年11月27日 20:24



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第89回

日時:2022年11月27日(日) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ヴァイオリン/アンティエ・ヴァイトハース
演目:シューマン/「マンフレッド」序曲
   シューマン/ヴァイオリン協奏曲ニ短調
   ベートーヴェン/交響曲第2番 ニ長調 op.36


 「サロメ」で目の覚めるような超弩級の演奏をしたノット×東響、今日は地味めのシューマン2曲と、ベートーヴェンの交響曲のなかでは控え目な「第2番」。
 とくにシューマンの「ヴァイオリン協奏曲」は、彼の死後、20世紀の半ばまで80年間も封印されていた。今でも演奏機会の少ない作品、実演は初めて聴く。

 1曲目の「マンフレッド序曲」は、シューマンが4つの交響曲を書いた後、バイロンの詩劇に触発されて書いた劇音楽「マンフレッド」につけた序曲。シューマンにしては管弦楽法が進化しているというのが通説だが、やはりオーケストレーションは上手くないと思う。楽器の重ねかたに問題があって各楽器の音色の良さが活きてこない。灰色に塗りこめられたように仄暗い。まぁ、そこがシューマンの魅力ではあるけど。ノットはおどろおどろしいところをあまり強調せず、ロマンティックな楽想を繋いでいく。ノットの「マンフレッド」序曲を耳にしながら、以前、スダーン×東響で聴いたことを思い出していた。

 シューマンの「ヴァイオリン協奏曲」のソロを務めるヴァイトハース、写真でも実物でも学校の教師のような風貌(実際にベルリンの音大教授)。名手4人で結成されたアルカントSQのVn1奏者。他のメンバーは、Vn2がゼペック、Vaがツィンマーマン、Vcがケラス、現在、最高峰のカルテットという人もいる。
 ものすごい美音だとか、音量がびっくりするほどではないが、すこぶる音程がいい。ちょっと軽めの音でありながら、オケの厚い響きにマスクされることなく、弱音から強音まできれいに聴こえる。それと感情を音に乗せていくのが巧みで、第1楽章でのオーボエ、クラリネット、ホルンとの対話など聴きごたえがあった。
 ノットは、もちろんヴァイトハースとの合意があってだろう、テンポを非常にゆっくり設定した。とりわけ第3楽章などポロネーズというには遅すぎるくらい。ただ、この曲、シューマンが精神的に崩壊していく寸前に書かれたもの、このテンポもあって狂気の様は見えにくい。奇人ではない落ち着いた大人のシューマンを聴かせてもらった。
 ヴァイトハースのアンコールは、バッハのパルティータ第2番「サラバンド」、美弱音の極み、これはもう絶品。

 ベートーヴェンの「交響曲第2番」は、いつものノットの演奏。音量、速度とも伸縮の幅が大きくて、即興性が強くスリリング。この瞬間瞬間に出来上がっていく音楽のように新鮮で刺激的な響き。もっともノットの演奏は、作曲家によって違いはあるが、その場では興奮させられても、醒めるに早いことがある。ベートーヴェンはその傾向が強いような気がする。多分、心の表層が揺さぶられるのみで奥底まで届かないのだろう。ずっしりとした重みが後々まで残らない演奏が間々ある。ノット×東響を10年聴いてきた。いつか、改めてこのあたりのことを整理してみたい。

 今日の演奏会はニコニコ動画で配信された。

 https://live.nicovideo.jp/watch/lv336115865