2022/11/24 倉田莉奈 シューベルト「ピアノ・ソナタ第21番」2022年11月24日 14:20



ランチタイムコンサート「音楽史の旅」
  ④シューベルトのピアノ曲

日時:2022年11月24日(木) 11:00開演
会場:かなっくホール
出演:ピアノ/倉田 莉奈
   解説/飯田 有抄
演目:楽興の時 D.780より 第3番 へ短調 
   4つの即興曲集 D.899より 第3番 変ト長調
   ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960


 隔月で開催されているかなっくホールのランチタイムコンサート、前期3回のバッハが終わり、今回から後期のシューベルト。ピアノ曲、歌曲、管弦楽を順次紹介してくれる。
 今日のピアノ曲特集では、大曲である第21番のソナタを演奏してくれるのが嬉しい。

 よく知られている小曲を2曲弾いたあと、最後に書かれたソナタ。
 やはりこの曲は涙なしには聴けない。第1楽章の晴れ間と陽の陰りが交代するあたりから目が潤み、第2楽章では我を忘れた。ずっと嗚咽を隠すのに苦労した。第3楽章からは自分を取り戻したが、第4楽章の明るい景色をみても悲しみは去らない。
 昼日中から滂沱の涙なんて、みっともないといったらありゃしない。しかし、この曲は音楽で示された奇跡のひとつ、止むを得まい。何度も繰り返し聴けるような曲ではないけど。いま考えると、音盤とはいえ若いころよくも毎日のように聴いていたものだと、そしてよく頭が狂わなかったものだと、不思議な思いに一瞬とらわれる。

 倉田さんは桐朋を出たあとパリで学んだ人で、かなっくホールのレジデントアーティストの一人。軽めのタッチで粒立ちのはっきりした音、かといってフォルテのスケールは立派で造形も崩れない。バロックからロマン派、現代音楽まで何でもこなす。過去のショパン、バッハにも胸をうたれたが、このシューベルトも細部まで表情が行き届いた丁寧な演奏で本当に感心した。