2022/10/4 神奈川フィル 室内アンサンブル作品集2022年10月04日 15:04



神奈川フィル “ブランチ”ハーモニー in かなっく
  Vol.4 クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、
     ピアノによるソロ&アンサンブル


日時:2022年10月4日(火) 11:00 開演
会場:かなっくホール
出演:クラリネット/齋藤 雄介
   ヴァイオリン/櫻田 悟
   ヴィオラ/髙野 香子
   ピアノ/宇根 美沙惠
演目:フォーレ/初見試奏曲(ヴァイオリン&ピアノ)
        子守歌(ヴァイオリン&ピアノ)
   プロコフィエフ/「ロメオとジュリエット」より
           前奏曲(ヴィオラとピアノ)
           騎士の踊り(ヴィオラとピアノ)
   A.シュライナー/インマークライナー         
           (クラリネット&ピアノ)
   ハルヴォルセン/サラバンドと変奏
          (ヴァイオリン&ヴィオラ)
   モーツァルト/クラリネット、ヴィオラと
          ピアノの為の三重奏曲 K.498
   D.ミヨー/ヴァイオリン、クラリネットと
        ピアノのための組曲
   

 さまざまな組み合わせのアンサンブルを取り揃えた演奏会。神奈川フィルメンバーのクラリネット・ヴァイオリン・ヴィオラ奏者と、ピアノの宇根さんが出演した昼前ほぼ1時間のコンサート。

 スタートはフォーレらしい慎ましく美しいヴァイオリンとピアノの曲。
 次いで、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」をボリソフスキーがヴィオラとピアノ用に編曲した2曲。「騎士の踊り」となると、やはり弦管打楽器の大きな編成で聴きたくなる。
 シュライナーは19世紀末から20世紀始めの人。「インマークライナー」とは段々小さくなるという意味らしい。なるほど、クラリネット奏者が演奏中に楽器からベルを取り去り、下管、上管、バレルと順番に外して小さくして行く。最後はマウスピースだけの甲高い音を出して終わる、というとんでもない作品。外した楽器の部品は、それぞれ櫻田、高野、そして司会の榊原が舞台裏へ持ち去るという演出。視覚的な意外性と親しみやすい曲想が楽しい。
 ハルヴォルセンは名前を知らなかった。曲名の「サラバンドと変奏」や曲自体を聴いて、バロック時代の人だと思った。帰宅してから調べてみた。シュライナーと同時代のノルウェーの作曲家だという。主題はどこかで聴いたことがあるような気がしていたが、ヘンデルによるものだという。ヴァイオリンとヴィオラを使ってバロック時代の音楽に新しい息吹を与えた作品で、演奏の難易度も高い。名作かと。ここまでは二重奏。
 続いて三重奏の作品、モーツァルトの「ケーゲルシュタット」は終楽章のみ。全曲でも20分程度だから、3楽章通して聴きたかった。
 ミヨーの組曲はしゃれた作品。これも1、2、4楽章の抜粋で、全曲演奏してほしかった。
 このあたりはランチやブランチといった軽めのコンサートの制約。アラカルトとして、知られざる作品を聴く面白味はあるけど。

 アンコールは、出演者全員、つまり四重奏となって「花は咲く」で御開き。

都響の来期プログラム2022年10月08日 13:54



 昨日、東京都交響楽団の2023年度(2023/4~2024/3)のプログラムが発表になった。

 https://www.tmso.or.jp/j/news/20105/

 東京文化会館、サントリーホール、東京芸術劇場のA、B、Cシリーズ各8公演のほか、サントリーのプロムナードコンサート5公演と、特別演奏会他の7公演である。

 音楽監督・大野和士はマーラーの「7番」、ターネジの「タイム・フライズ」、シューマンの「4番」などを、桂冠指揮者のエリアフ・インバルはショスタコーヴィッチの「9番」、マーラーの「10番」(補筆版)を振る。88歳のインバルは、この先、都響と3度目のマーラー全曲演奏に取り組むようだ。首席客演指揮者のアラン・ギルバートは「アルプス交響曲」や「第九」、終身名誉指揮者の小泉和裕はブルックナーの「2番」、プロコフィエフの「5番」などを指揮する。

 客演指揮者としては、山田和樹、尾高忠明、ヴァンスカ、ミンコフスキ、ゲッツェル、レネス、アクセルロッド、ヴィト、ジョン・アダムスなど。このなかではヴァンスカのシベリウス「5~7番」、ミンコフスキのブルックナー「5番」に注目。ジョン・アダムスの自作自演は話題になるだろう。

2022/10/13 広上淳一×東京音大 第九2022年10月14日 11:01



東京音楽大学 創立115周年特別演奏会
    オーケストラと合唱 歓喜の歌

日時:2022年10月13日(木) 19:00 開演
会場:サントリーホール
指揮:広上 淳一
演奏:創立記念特別第九オーケストラ
   東京音楽大学合唱団
共演:ソプラノ/金澤 実李、アルト/森河 和音、
   テノール/大石 優希、バリトン/長谷川 陽向
演目:ベートーヴェン/交響曲 第9番 ニ短調
          作品125「合唱付き」


 雨のなか、それもかなり降っていた昨日の夕方、サントリーホールへ出かけた。
 東京音楽大学の創立115周年記念演奏会である。大小ホールにおいて2日間にわたり9つのプログラムで開催するその一つ、ベートーヴェンの「第九」を聴いた。
 指揮は東京音大教授でもある広上淳一。オケは創立記念の特別編成、付属の高校生も数人参加している。制服姿だからすぐ分かる。ソリスト、合唱団も全員音大生。
 そうそう、2階の客席には14日にショスタコーヴィチを振る予定の尾高忠明が来ていた。

 ホルンの持続音を背景に弦のトレモロではじまる。雨のせいか弦の音に少し潤いが欠けていると感じたが、すぐに気にならなくなった。オケはほぼ14型。
 広上はいつものように、背伸びをしたり、半身に構えたり、万歳をしたり。挙動は派手で、蛸踊りと揶揄する人もいるが、その姿に翻弄されてはいけない。
 リズムは明確でテンポはほとんど動かさない。細心の注意をはらって各パートの音量をコントロールし、音の配分を調整することで色彩を変化させる。そのうえで強調すべき楽器を点描する。
 アダージョなど弦5部がそれぞれの表情を持って驚くほど豊かに聴こえてきた。その響きの上で、木管が思う存分歌う。後半のホルン音階は楽譜の指定通り4番奏者が吹き、ちょっと慎重ながら立派な出来だった。弦・管・打とも、東京音大の実力を示したといってよい。

 広上を聴くと、音楽自体の歩みに毅然としたものがあって、テンポの揺らぎによる一時的な熱狂よりは、構造物がだんだんに組みあがっていくのを目にしているような感動がある。それは、曲全体を通してはもちろんのこと、各楽章ごとにも。若者たちを相手にしたこの「第九」は、記念日にふさわしい好演奏だった。

2022/10/15 ライスキン×神奈川フィル ドヴォルザークの「交響曲第8番」2022年10月15日 20:38



神奈川フィルハーモニー管弦楽団 定期演奏会第380回

日時:2022年10月15日(土) 14:00
場所:神奈川県民ホール
指揮:ダニエル・ライスキン
演目:スメタナ/連作交響詩「わが祖国」より
       「モルダウ」
   チャイコフスキー/幻想序曲
           「ロメオとジュリエット」
   ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調Op.88

 
 久しぶりの神奈川フィルの定期演奏会。この間、オケメンバーの室内楽は聴いたが、フル編成の演奏会に通うのは7月以来。
 今期の神奈川フィル定期における唯一の外国人指揮者、現在、スロヴァキア・フィルの首席であるライスキンが振った。
 長身、髭をたくわえ、ロマンスグレーの髪、まだ52歳だという。写真で見るよりスマートな身体つきで、動きに無駄がなく、明晰な指示を出す。もっとも分かりやすい棒が、良い指揮者の証拠であるとは限らないけど。

 最初の「モルダウ」、恣意的なタメをつくらず自然な流れを重視しているよう。弱音を丁寧に処理していく。はったりのない、穏やかで、しっとりとした手触り。「わが祖国」全曲を彼の指揮で聴いてみたくなった。
 後半のドヴォルザークの「交響曲第8番」は、さすが身振りも音の伸縮も大きくなったが、弱音を活かした音づくりは「モルダウ」と同様、とりわけ緩徐楽章の慈しむような感触が印象的だった。

 前半の「モルダウ」に続いて演奏された「ロメオとジュリエット」は、序曲とはいっても20分ほどかかる交響詩のような物語性のある音楽。チャイコフスキーの比較的初期の作品らしいが、若くてもチャイコはチャイコ、苦手な部類の音楽であることには変わらない。もっぱら、ライスキンの惚れ惚れとするような指揮ぶりを楽しんだ。ロシア人でありながら、といっては失礼か、威圧的でなく荒っぽさが微塵も感じられない。彼のような棒であれば、奏者は合わせやすいだろうし、演奏もしやすいだろうな、と想像しつつ。

 オケの弦編成は、3曲とも12-10-8-6-5、小ぶりの12型。コンマスは石田泰尚ではなく、ゲストの佐久間聡一。オーボエも読響の首席だった蠣崎耕三が座っていた。「モルダウ」も「ドボ8」もフルートの江川説子、寉岡茂樹が大活躍。木管・金管群はよく音が溶け合っていた。トランペットのトップは前半が三澤徹、後半が林辰則、林さんの喇叭は思い切りがよく爽快、「ドボ8」最終楽章の開始を気持ちよく決めた。

 「みなとみらいホール」の大規模改修がこの秋に終わる。「神奈川県民ホール」での神奈川フィル定期は今日が最終。来月からは「みなとみらいホール」へ戻る。

2022/10/16 ノット×東響 ショスタコーヴィチの「交響曲第4番」2022年10月16日 21:36



東京交響楽団 名曲全集 第180回

日時:2022年10月16日(日) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ソプラノ/安川 みく
演目:ラヴェル/「鏡」から「道化師の朝の歌」
   ラヴェル/歌曲集「シェエラザード」
   ショスタコーヴィチ/交響曲第4番 ハ短調 op.43

 
 作曲されてから25年ものあいだ封印されていた、いわくつきのショスタコーヴィチ「交響曲第4番」。今まで生演奏では、バルシャイ、ラザレフ、ゲルギエフ、リットンなどの指揮で聴いてきた。果たしてノットは「第4番」をどう料理するのか。

 ノットは、珍しくスコアを順番にめくりながら指揮をした。スコアに書かれている全てを音にしようとする執念が感じられるものだった。しかし、交響曲演奏の、そもそも論として、それほど微に入り細を穿つように音化する必要があるのだろうか。
 ショスタコは、交響曲にさまざまなモチーフを放り込み、いろいろなエピソードを次々と出現させる。ノットのように各ページの音符を等価に解き放つと、部分部分は極めてスリリングで面白いが、全体がひとつの音楽として立ち上がってこない。細切れの断片の寄せ集めみたいで、一連の音楽の筋書きが見えてこない。もちろん、ショスタコの多義性がそういう類のものだという議論はできる。しかし、ノットはあまりにも細部にこだわりすぎている。そして、その細部が全体に寄与していないと。
 演奏は壮絶を極め、東響の各奏者は、音符をほぼ完璧に再現したと思うが、聴き手は、ショスタコの世界入り込めないままだった。バルシャイやラザレフのような背筋がひんやりと凍りつくような時間はついに訪れなかった。数年まえ同じ東響を指揮したウルバンスキの「第4番」に納得できなかったけど、ノットの「第4番」も別の意味で感銘を受けなかった。
 ノットのショスタコは過去にも「5番」「10番」「15番」を聴いている。でも、ほとんど記憶に残っていない。ショスタコの音楽の中に、ノットの演奏技法を拒絶する何かがあるのだろうか。

 前半はラヴェルの2曲。スペイン風のリズミカルな「道化師の朝の歌」と、歌付の「シェエラザード」。「道化師の朝の歌」は中間部のちょっと憂鬱な素振りのファゴットが印象的。「シェエラザード」は、けだるく頽廃的な雰囲気を漂わせる。安川みくは若くて清々しい。この曲はもっと年輪を重ねた女性、たとえて言えば、スザンナではなくて、伯爵夫人の声のほうが相応しいように思う。

 コンマスは小林壱成、隣のアシストは水谷晃、ツートップで万全の体制。「道化師の朝の歌」とショスタコの「第4番」は16型、「シェエラザード」は12型。
 舞台にはマイクが何本も立っていた。いずれCDが販売されるのだろう。楽譜が読める人であれば、ショスタコの楽譜片手に高品質録音を聴くことができるかも知れない。