2024/11/23 音大オケ・フェス 昭和音大・藝大・桐朋学園2024年11月23日 21:27



第15回音楽大学オーケストラ・フェスティバル2024
    昭和音大・藝大・桐朋学園

日時:2024年11月23日(土) 15:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:昭和音楽大学(指揮/時任康文)
   東京藝術大学(指揮/下野竜也)
   桐朋学園大学(指揮/沼尻竜典)
         (チェロ/上野 通明)
         (ヴィオラ/田原 綾子)
演目:バルトーク/管弦楽のための協奏曲(昭和)
   三善晃/焉歌・波摘み(藝大)
   ベートーヴェン/「レオノーレ 第2番」(藝大)
   R.シュトラウス/「ドン・キホーテ」(桐朋)


 首都圏の音楽大学によるオーケスト・フェスティバルの季節がやってきた。今年で第15回となる。昨年、上野学園が新規の学生募集を停止したことから1校減った。今年も昨年同様8大学の参加である。
 また、従来はミューザ川崎と東京芸術劇場で各2公演、4日間の開催であったが、今年は芸術劇場が改修工事で休館のため、ミューザ川崎で2公演、すみだトリフォニーホールで1公演の計3日間に変更となった。ミューザ川崎では2公演とも3大学が競演する。

 最初は昭和音大のバルトークの「オケコン」、指揮は時任康文。
 難しい曲で実演ではほとんど満足したことがない。「序奏」「対による提示」「哀歌」と聴きながら、やはり演奏するに難物だな、と声に出さないまま呟いていたが、「間奏曲」の例のショスタコーヴィッチのパロディあたりから、俄然、精彩を帯びてきた。「フィナーレ」は生命力に溢れ、なかなかの盛り上がりで感心した。

 藝大は序曲「レオノーレ 第2番」と三善晃の「焉歌・波摘み」の2曲。
 下野竜也のベートーヴェンは力強い。「焉歌・波摘み」はチェロの高音域のすすり泣きから始まり、慟哭、怒りを経て、ヴィオラに先導された弦の子守歌で終る。この間、管楽器と打楽器は狂奔するばかりでなく、静謐な祈りの調べを奏でる。鎮魂歌である。
 そういえば「美しき水車小屋の娘」の終曲は小川の子守歌だった。「マタイ受難曲」の終曲も子守歌のように聴こえないこともない。子守歌は古今東西、究極の魂振なのだろう。
 音大フェスティバルで何度か藝大を聴いてきた。下野は間違いなく藝大から最高のパフォーマンスを引き出した。

 最後は桐朋学園。チェロの上野通明とヴィオラの田原綾子が加わり、沼尻竜典が指揮するR.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」。
 沼尻はいつも手堅い。あまり驚きがない演奏もママあるが、時としてとてつもない音楽をつくることがあって目を離せない。まさしく今日がそう。まったく隙がない。絶妙のバランス感覚と色彩感。自然な息遣いと無理のない進行。ドン・キホーテとサンチョ・パンサの旅が続く。次々と景色が目の前に現れ、ドン・キホーテの狂気と悲しみが浮かび上がる。
 上野通明と田原綾子の名演ももちろんだが、精密なアンサンブル、緻密な弦楽器、粒の揃った管楽器など、桐朋学園の実力を再認識した。過去の音大オケ・フェスを通しても屈指の演奏だった。

2024/3/31 カンブルラン×音大FO マーラー「アダージョ」とラヴェル「ダフニスとクロエ」2024年03月31日 21:16



第13回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ

日時:2024年3月31日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:シルヴァン・カンブルラン
演目:マーラー:交響曲第10番より「アダージョ」
   ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」


 年度末のこの時期、首都圏の音楽大学の選抜メンバーで編成された「フェスティバル・オーケストラ」の演奏会が行われる。未来のスター・プレイヤーたちが熱演を聴かせてくれる。今回はシルヴァン・カンブルランの指揮でマーラーとラヴェル。
 カンブルランは4,5年前まで読響の常任指揮者であったから何回か聴いた。もちろんラヴェルやメシアンなどフランスものが面白かったけど、スメタナやヤナーチェク、ドヴォルザークなど東欧の作曲家についても新しい発見があった。
 マーラーは「交響曲第6番」が鮮烈な演奏だった。多様なモチーフで構成された複雑な作品について、内声部のすみずみにまで光をあて、オーケストラを良く鳴らしていた。

 今日の演奏会は、そのマーラーの「交響曲第10番」アダージョから始まった。
 カンブルランは、70歳半ばだと思うけど、身体はギクシャクしたところがなく柔らかい。タクトを持たず全身を使ってリードする。音楽も滑らかで細部にまで神経が行き届き明快かつ繊細だ。
 アダージョは中間部において皮肉な表情を見せるが、全体のトーンは悲痛極まりない。ヴィオラの序奏で開始され(ここのヴィオラ・セクションは見事だった)、主題のヴァイオリンと管楽器が入ってくるところで震撼した。その後、音楽は不安を抱え安定しないまま進む。最後、管楽器の最強音で頂点を築く。トランペットの苦痛にみちた叫び、木管楽器たちの懊悩など、学生たちはマーラーの告別の歌を見事に演奏した。

 休憩後、70人程度の合唱と8人の打楽器奏者が加わって「ダフニスとクロエ」全曲。
 神秘的な序奏から始まるラヴェルの管弦楽法に魅了される。オケの弱音が美しいこと。「夜想曲」「間奏曲」を経て「戦いの踊り」に入ると、カンブルランの運動能力、リズムのキレのよさに陶然とする。
 第3場の「夜明け」「無言劇」「全員の踊り」は、第2組曲でお馴染み。精妙でありながら、勢いがあり音量も十分。昨年に引き続きオケの性能がいい。合唱は熱気をおび、各楽器のソロが冴え渡る。カンブルランの、これ以外考えられない速度感に納得。
 圧巻の演奏で会場は興奮気味、聴衆の大きな拍手が長く続いた。

2023/11/26 音大フェスティバル 昭和音大と武蔵野音大2023年11月26日 20:47



第14回音楽大学オーケストラ・フェスティバル
   昭和音大・武蔵野音大

日時:2023年11月26日(日) 15:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:昭和音楽大学(指揮/現田茂夫)
   武蔵野音楽大学(指揮/飯森範親)
演目:チャイコフスキー/交響曲第5番 ホ短調 作品64
   R.シュトラウス/アルプス交響曲 作品64


 恒例の音大フェスティバル。毎年、東京芸術劇場とミューザ川崎で2日間ずつ開催される。今年はプログラムや交通の便を考えてミューザの2公演のみを聴くことに。

 その1日目、まずは昭和音大のチャイコフスキー「交響曲第5番」。
 冒頭、弦楽器を伴ったクラリネットの滑らかでほの暗い音を聴いて、これは名演になりそう、との予感が的中した。第2楽章のホルンのソロも奥行きがあってなかなか立派な出来栄え、美しいお嬢さんが吹いていた。総じて木管は美音、金管は遠くまで届くような抜けのいい音。トランペットのお嬢さんもすごく上手。
 現田さんは手慣れたもの、テンポ設定も管と弦のバランスもいうことない。昭和音大は川崎市が地元で、ミューザにも度々出演している。ミューザの響きを味方にしたキレのある美しい演奏だった。終了後、盛大なブラボーが飛び交っていた。

 後半は、武蔵野音大のR.シュトラウス「アルプス交響曲」。
 オケのメンバーは前半の5割増くらい。途中、正面奥のオルガンの左右にバンダが20人近く出入りしたから百数十名の大編成である。飯森さんは今年PPTとセンチュリー響合同で「アルプス交響曲」を演奏していて、この音大フェスティバルにおいても取り上げたのかも知れない。しかし、音楽を専門とする学生たちとはいえ、この作品は少しばかり荷が重かった。
 R.シュトラウスの標題音楽は、奏者それぞれに高度な技術が要求されるし、大人数となるとオケの精度も高めなければならない。弱音を美しく正確に決めないと強音が生きてこない。音量ばかりが強調され虚仮おどしの作品になってしまう。大きな傷もなく熱演ではあったけど、音楽としては不満の残る結果となってしまった。

 来週、12月3日はミューザ2日目の桐朋学園と洗足学園である。桐朋を振る予定の尾高忠明が、先週の名フィルのコンサートを腰痛のため降板している。詳細は不明だが今のところ指揮者変更のアナウンスはない。尾高さんの快復を祈りたい。

2023/11/12 広上淳一の音楽道場2023年11月12日 22:13



マエストロの白熱教室2023
 指揮者・広上淳一の音楽道場

日時:2023年11月12日(日) 13:00開演
会場:フィリアホール
指揮:広上 淳一、東京音楽大学学生
出演:東京音楽大学学生
演目:ベートーヴェン/交響曲第4番 変ロ長調 Op.60


 横浜市青葉区のフィリアホール主催公演、広上淳一による「マエストロの白熱教室」。東京音楽大学指揮科教授でもある広上淳一と指導陣が、ステージ上で学生オーケストラとともに指揮の指導を行う公開授業。課題曲はベートーヴェンの「交響曲第4番」。

 舞台下手に長机を2列並べ先生たち10人が座る。管弦楽のなかにもヴァイオリン2人、ヴィオラ、チェロ、フルート各1人の指導者が学生たちに混じる。そして、満席のお客さま。その前で、指揮科学生12人が各楽章を3人ずつで分担し、広上をはじめとする指導者たちのアドバイスを受けるという趣向。学生たちは大いに緊張したであろう。
 最初は第1楽章からスタートし、そのあとは第4楽章、次いで第3楽章、最後に第2楽章という順番で進んだ。13時から始まり終わったのは16時30分、休憩20分を挟んだとはいえ3時間30分の大講義だった。

 オケは小型の室内楽管弦楽団、音大生だから技術的にはほぼ問題はないし音も良く鳴る。しかし、楽譜から確固たるイメージを築き、演奏中は身体だけでその意図を奏者に伝え、オケが反応する音を聴いて修正しつつ、演奏の流れやニュアンスをコントロールする指揮者は、何より聴衆に音楽を感じさせなければならない。こんな難しいことはない。
 まずもって楽章ごとのテンポ設定がうまくいかない。終始前のめりになって駆けだしてしまう低学年の学生もいる。アンサンブルが乱れなかなか回復できない。強弱、緩急がぎこちなく、加減速、音の漸増減もスムーズにいかない。各楽器のバランスが崩れ旋律が浮き出てこない。学生たちの音楽はどうしても平板になりがちだった。もちろん、それでもベートーヴェンの「交響曲第4番」は魅力的な曲だけど。

 広上は無駄話、冗談を含め軽妙なやりとりで会場を沸かせていたが、広上の真骨頂はそこにはない。第1楽章の指導のとき、学生に代わって指揮台に上がり少し振った。明らかにオケの音が変わり、音楽が流れ出す。第2楽章では、指揮者の隣で注意を与え、身振りや目で合図を出す。この時も突然音に動きが生れ、情感が増す。技術や指示の巧拙というより、指揮者の存在そのものが音楽をつくりだしているように思える。

 一定の水準に達していればオーケストだけで音は出る。指揮者がいるといないとで違いがないのであれば、音楽にとって音を出さない指揮者など必要ない。楽器をもたない指揮者に要求されるのは、音楽への理解の深さや音楽への情熱、指揮のテクニックだけでなく統率力、対話力、決断力などをあげることができる。だが、さらに恐ろしいのは、最終的には人としての総合力が演奏にあらわれてしまうことだろう。
 将来のマエストロを目指す若者たちの、あくなき挑戦にエールをおくっておこう。

2023/3/26 井上道義×音大FO 「シンフォニア・タプカーラ」2023年03月26日 21:47



第12回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ

日時:2023年3月26日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:井上 道義
演目:J.シュトラウス/ワルツ「天体の音楽」作品235
   伊福部 昭/シンフォニア・タプカーラ
   ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」


 夜になっても興奮醒めやらず。今まで何度聴いたか定かでないが、過去最高の「シンフォニア・タプカーラ」、昨年の井上×N響の遥か上を行く。
 弦も管も生々しさが違う、各楽章のテンポ設計が違う、オケ総体の燃焼度が違う。両端楽章の瞬間スピードは極限を記録し加えて緩急の妙、触れれば血が噴き出すほどの熱量。中間楽章の静寂、祈りの音楽には完全に魂を持って行かれた。
 オケを聴く醍醐味、まさに血潮がたぎる演奏。これが伊福部音楽の真骨頂、伊福部音楽の真髄。そして、これが井上の伊福部演奏の集大成だろう。曲が終わったときには腰が抜けていた。

 開始は「天体の音楽」。序奏のワーグナー風の展開から、突然、優雅なウィンナ・ワルツが聴こえてくる。ロマンチックでメランコリックな調べに陶然とするうちに曲は終わる。奏者の数人が入れ替わり、指揮者も舞台から下がるが、一呼吸おいて「シンフォニア・タプカーラ」の低弦が鳴る、これは反則技だな。

 20分間の休憩中も茫然自失、後半の「春の祭典」が始まってしまった。
 並みの「ハルサイ」に比べれば弩級に違いない。放心状態のままだったから細部が飛んでいる。ただひたすら音の洪水に身を委ねていたようなものだ。しかし、ここでも楽器の音の生々しさ、俊敏な音の立ち上がりに驚愕することがたびたびだった。

 今日は、毎年恒例の首都圏の9つの音楽大学から選抜された学生たちによるお祭りのはずだった。ところが祭りどころではない途轍もないオベリスクが建立された。
 先日のWBCにおける若手選手たちの大活躍もそうだけど、若者たちの可能性には果てしがない。指導者による環境づくりがあって、力を試す場さえあれば、どんな未来も切り開いていく。頼もしい限りである。
 今回のプログラム、実はコロナ禍で中止となった2020年の再現である。再挑戦を企画したすべての関係者に心から感謝したい。