2024/11/4 汐澤安彦×白金フィル ショスタコーヴィッチ「交響曲第5番」 ― 2024年11月04日 20:56
白金フィルハーモニー管弦楽団 第33回定期演奏会
日時:2024年11月4日(月・祝) 14:00 開演
会場:みなとみらいホール
指揮:汐澤 安彦
共演:ヴァイオリン/中谷 哲太朗
演目:スッペ/喜歌劇「軽騎兵」序曲
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
ショスタコーヴィッチ/交響曲第5番
汐澤安彦はこの白金フィルをはじめ足立シティオケや上智、明治学院の両大学オケなどを定期的に振っている。汐澤翁は80歳の半ば、腰は曲がり、背中は傾き、歩くのも引き摺るような足の運びで少々不自由。1年前のパシフィックフィルを振ったときより一層老け込んだように見える。この歳になれば衰えが年々目立つようになるのかも知れない。とうぜん指揮台には椅子が用意してあった。
スッペの「軽騎兵」からスタート。この曲は立ったまま指揮、譜面台にはスコアが広げてあったが一瞥もしない。以前に比べるとテンポは少し遅くなったものの歯切れのよさは変わらない。オペレッタの序曲とは思えないほど大きくて感動的な音楽を聴かせてくれた。
チャイコフスキーは苦手で交響曲やバレエ音楽、有名なピアノコンチェルトなど積極的に聴こうとは思わないが、「ヴァイオリン協奏曲」だけはそれほど抵抗がない。
ソリストの中谷哲太朗は藝大付属の高校1年生。指揮者との年令差はじつに70歳。細身で背が高く、汐澤翁が小さくなったこともあって、並んで立つと汐澤翁は中谷君の肩までしか届かない。
ヴァイオリンの音量はびっくりするほどではないけど、音質は濁りがなく透明感があってよくホールに広がる。1音1音がしっかりとしていて熱量もある。第1楽章が終わるとたくさんの拍手が巻き起こった。第2楽章の豊かな抒情も見事で、最終楽章の情熱の爆発もスピード感を伴って弾ききった。
ソリスト・アンコールはバッハの無伴奏3番の「ラルゴ」、美しい音がホールの天井に吸い込まれていった。
汐澤翁のショスタコーヴィッチは、遠いむかし足立シティオケで聴いている。そのときは伊福部昭の「マリンバとオーケストラのためのラウダ・コンチェルタータ」との組み合わせで、いまだに2曲とも鮮明に覚えている。
今日の「第5番」も曲のつくりは基本的に同じ。演出を凝らしたりあざといことは一切しない、懐が深く自然体で包容力がある。聴き手がテンポを緩めてほしい、アクセルを踏んでほしい、この楽器を浮き出させてほしい、少し音量がほしい、などと願う通りに音楽が進んでいく。
そして、その音楽に身体を委ねていると、ショスタコーヴィッチの怒りや悲しみ、皮肉や諦念、叫びや韜晦をたしかに感じる取ることができる。もちろん、これは後付けの知識のせいもあるのだが、まさしく書かれた音楽自体がそうなのだ、と確信させてくれる。汐澤翁の音楽の凄さはそこにある。
白金フィルのメンバーは明治学院大学管弦楽団のOB・OGで構成され、学生時代から汐澤安彦の薫陶を受けている。アマオケの水準として飛びぬけて優秀とは思わないが、汐澤翁とともに音楽をつくると、個々の腕前とか合奏能力といった技術的なことなどほとんど気にならなくなってくる。これも驚嘆すべきことだろう。
オーケストラ・アンコールはエルガーのエニグマ変奏曲から「ニムロッド」、桁違いの偉大な「ニムロッド」に茫然とするうちに演奏会は終わった。