ペッカ・クーシスト2025年11月19日 18:01



 2カ月ほど前に都響が次期の指揮者体制を明らかにした。それによると、①ペッカ・クーシストが2026年度からアーティスト・イン・レジデンス、2028年度から首席指揮者に、②ダニエーレ・ルスティオーニが2026年度から首席客演指揮者に、③大野、ギルバート、小泉、インバルとの協働は継続、というもの。

 いささか意外な陣容で、アラン・ギルバートやダニエーレ・ルスティオーニは複数の主要ポストに就いているため、都響における監督兼務は難しかったのではないか、と邪推したのだが、どうやら必ずしもそういうわけだけではなさそうだ。

 最近見つけたネット記事によると、このあたりの事情を都響の芸術主幹である国塩哲紀氏がインタビューで応えている。

https://officeyamane.net/projects/special-features/conversation-with-tetsuki-kunisio/

 指揮者人事の舞台裏や内外の反響、オーケストラの課題、指揮者の肩書、等々を語っていてなかなか面白い。

2025/11/23 ノット×東響 マーラー「交響曲第9番」2025年11月23日 21:51



東京交響楽団 名曲全集 第212回

日時:2025年11月23日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:笙/宮田 まゆみ
演目:武満 徹/セレモニアル
   マーラー/交響曲第9番 ニ長調


 東響の定期演奏会(サントリーホール)と名曲全集(ミューザ川崎)にノットが監督として登場するのはこれが最後となる。演目は12年前にノットが監督就任した最初の定期演奏会と全く同じである。
 この間、ノットのマーラーでいえばやはり就任記念の「第9番」が一番記憶に残っている。お互い手探りではあったけど緻密かつ繊細な演奏で、この時はじめてマーラーの「第9番」が、喪失とか崩壊とかというネガティブな世界だけではなく、エネルギーが充溢し希望に満ちた音楽だと気付いて吃驚したことをよく覚えている。

 今日の「セレモニアル」は笙の宮田まゆみがP席上段のホール・オルガンの横に位置し、2階席正面と3、4階席のバルコニーに3組の木管奏者が並んだ。丁度、ソリストと木管奏者が上方から舞台を囲むような配置である。宮田さんは前回同様白装束、さすが御歳を召された。10分ほどの武満の楽曲が終わり、休憩なしでそのままマーラーの「交響曲第9番」となった。もっとも楽器の追加や木管奏者が舞台上に戻るまでの時間が必要で、「第9番」の開始は2時半近くになっていた。

 マーラーの「交響曲第9番」は当然ながら気合が入っていた。会場は息苦しくなるほどの緊張感が漂う。とは言っても、縦横無尽のノットの指揮に柔らかく応じる東響のレスポンスには感心する。ノットは全体をきっちり設計し、練習では厳しい要求を突きつけていると思うが、本番では勢いと熱気のまま当意即妙に動く。東響の反応力と融通性を信頼してのことだろう。響きは立体的で音が密集している、振幅は大きく平板になるという不満がない。厳格というよりは精緻で柔軟、まさに十数年にわたった両者の集大成といえる演奏だった。
 第1楽章の冒頭はチェロとホルンによって不規則なリズムでひそやかに始まる。ハープの短い旋律が続く。ホルンは2番奏者が吹く。藤田麻理絵のゲシュトップト奏法の音色が印象的。そして、第2ヴァイオリンによる「大地の歌」の告別のテーマがはっきりと聴こえてくる。その後、音楽は幾度もフォルテが訪れ激しく苦闘し、最後は安らかに終わる。フォルテの主題はいずれも威圧的で破壊的なものだが、強く耳に残ったのは「永遠に…」という告別のテーマだった。
 第2楽章は舞曲。まずは皮肉っぽいレントラー、無骨で粗野な踊り。次いで速いテンポのワルツ、優雅どころか荒々しい。最後は再びレントラー舞曲、ここでも「告別のテーマ」が紛れ込み舞踏は終わる。
 第3楽章はブルレスケ。ノットのスピードは狂気をはらみ、乱雑な道化芝居のようであったが、東響の演奏は冴え渡り混乱は全くない。途中、美しくも天国的な世界を垣間見せるが長くは続かない。音楽は再び狂喜乱舞へ。極めて挑戦的で闘争的な演奏だった。
 終楽章はアダージョ。弦楽合奏を中心にした崇高ともいえる音楽。ゆっくりと穏やかに弦楽器の音が重ねられ、クライマックスの後に長い静寂が訪れた。コンマス・小林壱成、チェロトップ・伊藤文嗣のソロが秀逸で、ノット×東響は渾身の演奏だった。告別ではあってもそれは悲劇や絶望ではなく、広々とした将来を展望するようなメッセージがこめられているように思えて落涙した。

 ノットと東響は、このあと年末に「第九 2025」と「ジルベスターコンサート 2025」を演奏してお別れとなる。

2025/11/29 今井清治×YACO モーツァルトとベートーヴェン2025年11月29日 19:33



横浜アマデウス室内合奏団
  第37回定期演奏会 ~古典派の円熟~

日時:2025年11月29日(土) 14:00開演
会場:日本キリスト教団 清水ヶ丘教会
指揮:今井 清治
共演:クラリネット/小野 ユカ
演目:モーツァルト/クラリネット協奏曲 K622
   ベートーヴェン/交響曲第3番 Op.55「英雄」


 京急本線の横浜駅から横須賀方面に向かって4つ目に南太田という駅がある。駅から北の坂道を歩いて5分もかからないところに清水ヶ丘教会があり、ここで無料コンサートがあった。
 主催は横浜アマデウス室内合奏団(YACO)。YACOはHPをみると今井清治の呼びかけにより2006年に創立したチェンバー・オーケストラで、年3回の定期演奏会をこの教会にて続けているという。

 で、土曜日の午後、交通の便は悪くないし天気もまずまず、プログラムにも魅かれて散歩がてら出かけることにした。
 教会は壁面が煉瓦造りで屋根は緑・茶・橙の三色の洋瓦で葺いてある立派な建物。礼拝堂は2階席もあり300席くらいだろうか、ほぼ満席だった。天井は高く簡素な設えながら空調も照明も完備されている。教会のなかは冷えるのではないかと覚悟をしていたが、なんのなんの極めて快適な空間だった。

 今井さんは読響のホルン奏者だったらしい。かなりの御歳で全曲座って指揮をした。この御歳だと、多分、山岸さんと一緒に活躍されていたはずだが覚えてはいない。

 モーツァルトの「クラリネット協奏曲」のソリストは楽団のメンバー。YACOの定期演奏会は同一のプログラムで2公演あり今回は22日と29日。2人の楽団員がそれぞれソロを担当した。今日の小野ユカさんはアマチュアとは思えないほど無理のない端正な演奏でとても上手。秋も深まったこの季節のモーツァルトが心にしみた。

 休憩後は「エロイカ」。教会の音響は素晴らしく、チェロやコントラバスの低音は地を這うように伝わり、ヴァイオリンや木管の高音は天井に吸い込まれていく。編成が小さいせいもあって各声部が明瞭に聴きとれる。アンサンブルに多少の難はあるが、今井さんは極端な制御や無理強いをすることなく自然体で温厚、それでいてベートーヴェンらしい迫力ある演奏だった。

 散歩を兼ねての演奏会、発駅と着駅からの往復で万歩計をみると7000歩、一日の目安5000歩はゆうに越えた。
 それにしても日本のアマチュア音楽家の活動はフルオケからチェンバーオケ、室内楽団、もちろんソロまで多様で層が厚い。アマチュアとは思えないほどの演奏に出会うこともある。アマチュアの楽団をまとめて聴くのはなかなか難しいけど、機会をみながらウオッチするのは楽しい。