2025/6/14 マリオッティ×東響 チャイコフスキーとプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」2025年06月14日 20:50



東京交響楽団 名曲全集 第208回

日時:2025年6月14日(土) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ミケーレ・マリオッティ
共演:ヴァイオリン/ティモシー・チューイ
演目:チャイコフスキー/幻想的序曲
            「ロメオとジュリエット」
   チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調
   プロコフィエフ/バレエ組曲
            「ロメオとジュリエット」
       モンターギュ家とキャピュレット家
       少女ジュリエット
       マドリガル
       メヌエット
       仮面
       ロメオとジュリエット
       タイボルトの死


 マリオッティの名曲全集はロシアもの3曲。チャイコフスキーとプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」の間に、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」を挟んだ。

 チャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」からスタート。幻想的序曲となっているが、演奏会用のオーケストラ・ピースである。2、3年前にもライスキン×神奈川フィルで聴いた。
 冒頭はクラリネットとファゴットによるコラール風の荘重な音楽、ロメオとジュリエットの理解者であるロレンス修道僧をあらわしているという。続く主題は弦楽器と管楽器の激しい掛け合い、剣戟をイメージさせる両家の諍い。戦いが落ち着いてきたところでイングリッシュホルンとヴィオラによる甘美な主題が出現する。恋するロメオとジュリエットであろう。その後、悲劇的なトランペットによって2人の死が暗示される。そして、各主題が交錯しながら激しく盛り上がり、終結部は葬送行進曲から木管楽器による天上の音楽となって曲が閉じられる。
 マリオッティ×東響の演奏は何幕かの舞台を駆け抜けたように熱くドラマチック。マリオッティは加速や減速、クレッシェンドやディミヌエンドに独特の工夫があって意表をつかれることしばしばだが、そこがまた隠し味として効いている。
 ミューザはよく埋まっていた。当日券が販売され完売公演ではなかったはずなのに、先日のマリオッティの評判もあって急遽駆け付けた人もいたのではないか。最初の曲から客席は大いに盛り上がっていた。

 舞台をセット仕直し数名の奏者が出入りして、そのまま同じチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストのティモシー・チューイは、インドネシア系のカナダ人、ヴァイオリンはアメリカで学んだようだ。
 チューイのチャイコフスキーはポルタメント、ルバートを交えて情緒纏綿たる節回し。時代がかっているとは言い過ぎながら、昔のメン・チャイで表と裏にカップリングされたレコードの演奏を思い出していた。チューイはボウイングが巧みでとても綺麗な音だけど、弾くときの姿形は情熱的。背を屈め反らし身体を大きく動かす。場合によっては足を踏み鳴らしそうな勢いだった。
 伴奏のマリオッティはかなりテンポを揺らしていたものの呼吸の乱れは全くない。ふだん我儘な歌手たちと合わせているから当然か。東響はやはり木管たちの個人技が冴えわたっていた。フルートはゲストだったが、オーボエ荒木、クラリネット吉野、ファゴット福井という面々。
 チューイのアンコールはコリリアーノの「レッド・ヴァイオリン・カプリース」だという。まったくもって目の覚めるような演奏。会場はやんやの歓声に溢れていた。

 休憩後、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」。もともとのバレエ音楽は50数曲で構成されており、そこから3つの組曲が編まれている。各組曲がそのまま演奏されることはほとんどない。だいたいが指揮者の好みで再編成される。数年前に聴いたウルバンスキの場合は3つの組曲から満遍なくセレクトしていた。今日のマリオッティは第2組曲の2曲で開始し、その後第1組曲の5曲を順に並べた。
 マリオッティ×東響の演奏はバレエ音楽としてどうなのか、ちょっと首を傾げた。ドラマチックに描いて切れ味鋭く濃厚ながら、踊りの音楽としては流れが悪い。誤解を招きやすい言い方ではあるけど、プロコフィエフの音楽はストラヴィンスキーがそうであるように、音楽で語る中身より単純にリズムと響きの面白さがある。マリオッティが物語に捉われ過ぎたのではないかと、その分、バレエの躍動感とリズムや響きの楽しさが損なわれたように思う。
 どちらにせよこの「ロメオとジュリエット」は目の詰まった演奏で、前半のチャイコフスキーの2曲を含めて音楽でお腹一杯になった気分だ。今日もマリオッティはオーケストラが捌けた後カーテンコールで呼び出されていた。

 マリオッティはこれからも継続的に東響を振ってほしい。ノットのように演奏会形式でいいからロッシーニやプッチーニなどのオペラ上演を企画してくれたら最高である。
 ノットのあとの音楽監督はイタリア系のロレンツォ・ヴィオッティだから、同じイタリア系で年齢も上、オケのポストにも興味がなさそうなマリオッティに首席客演指揮者というのは難しいかも知れない。
 まて、ヴィオッティはスイス出身、たしか父方の祖父母がイタリア人だ。いや、出自や肩書諸々の話ではない、贅沢を言わないまでもマリオッティにはせめて毎年1回くらい来日してほしい。東響事務局の奮闘を陰ながら応援したい。