フェスタサマーミューザKAWASAKI 20252025年03月25日 16:14



 今年のミューザ川崎における夏祭りは、7月26日から8月11日までの16公演、他にテアトロ・ジーリオ・ショウワで2つの出張公演がある。

https://kawasaki-sym-hall.jp/festa/commonfiles/pdf/pamph.pdf

 例年のように開幕はノット、閉幕は原田慶太楼による東響の演奏。ノットはワーグナーの「リング」(管弦楽曲集)を、原田はニールセンの「不滅」を振る。
 注目は若手指揮者。熊倉優が都響と「火の鳥」を、松本宗利音がN響と「スコットランド」を、地方からは太田弦が九州交響楽団とショスタコーヴィチの「交響曲第5番」を披露する。

 毎年のことながら何を聴こうかと悩む。チケットの販売は4月中旬なので、それまでに少なくとも5公演を越えないくらいには絞り込むつもり。

2025/3/29 沼尻竜典×音大FO 武満「系図」とショスタコーヴィチ「交響曲第4番」2025年03月29日 22:20



第14回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ

日時:2025年3月29日(土) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:沼尻 竜典
共演:語り/井上 悠里
   アコーディオン/大田 智美
演目:武満徹/系図―若い人たちのための音楽詩―
   ショスタコーヴィチ/交響曲第4番ハ短調


 年度末のこの時期は音大フェスティバル・オーケストラの演奏会、首都圏の8つの音大の選抜メンバーで構成されるオケである。各音大が競演する年末の「音楽大学オーケストラ・フェスティバル」の特別編で、今年度は沼尻竜典が振る。

 武満徹の「系図」は昨年、佐渡裕×新日フィルで聴いた。谷川俊太郎の詩集に基づく「むかしむかし」「おじいちゃん」「おばあちゃん」「おとうさん」「おかあさん」「とおく」の6曲。
 思春期を迎えた子供の視点による谷川の言葉は、時としてどきっとするほど冷徹なところがあるが、沼尻と学生たちがつくった武満はあたたかい。
 武満にしては分かりやすい旋律があって調性的な響きが好ましい。日本的な情緒を感じさせる。この作品はこの先も演奏を重ねていくような気がする。
 「とおく」におけるアコーディオンの響はいつ聴いても効果的で印象深い。語りはオーディションで選ばれた東京音楽大学付属高等学校の井上悠里。透明感のある最適の語り部だった。

 ショスタコーヴィチの「交響曲第4番」は戦前に作曲されていながら、25年もの間封印され、初演は1961年まで待たねばならなかった。日本初演はさらに25年を経た1986年の芥川也寸志×新響だという。
 この「第4番」、たとえ音楽とはいえ、やりたい放題、これだけ好き勝手に作曲されては、当局としては決して許すことはできない。音楽の自由は音楽の中だけに留まらないから。
 「音楽でなく荒唐無稽」との批判のさなか、これこそ荒唐無稽な作品、虚仮にされたと思うであろう。相手はスターリンである。封印しなければ命さえ奪われていたかも知れない。剣呑な曲である。名誉回復となった「第5番」と比べてみればその異形は言うまでもない。
 音大FOは凄まじい集中力で全員が全力疾走。しかも沼尻の明晰な指揮のもと、なかには笑みを浮かべていた奏者もいたから、手ごたえも十分だったのだろう。
 沼尻は第1楽章の展開部のフガートを駆け抜け、「第5番」の主題が登場するスケルツォをシニカルに決め、終楽章のワルツやギャロップなど真面目と皮肉を織り交ぜ、ショスタコーヴィチの最もモダンで先鋭的で破天荒な交響曲を熱量高く聴かせてくれた。
 
 「第4番」を初めて実演で聴いたのはバルシャイ×名フィルだった。このライブは精緻にして壮絶を極め、終演後、座席から立ち上がれないほどの衝撃を受けていた。バルシャイ×ケルン放送響によるブリリアントのBOXを買ったのは実演の前だったか後だったか。
 名フィルのアーカイブをみると公演日は2004年12月15日だから、もう20年以上も前になる。ちなみにこのとき戸田弥生のベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」が一緒にプログラムされていたとのこと、こちらは全く記憶にない。
 その後「第4番」は、ラザレフ、リットン、ゲルギエフ、ウルバンスキ、ノットと聴いて来たが、どういうわけか井上道義を聴き逃している。「第4番」をレパートリーとしている邦人指揮者は数えるほどだろう。沼尻竜典のショスタコーヴィチは神奈川フィルとの「第12番」が来月控えている。

2025/3/30 ヴァンスカ×東響 ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」とプロコフィエフ「交響曲第5番」2025年03月30日 21:57



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第99回

日時:2025年3月30日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:オスモ・ヴァンスカ
共演:ピアノ/イノン・バルナタン
演目:ニールセン/序曲「ヘリオス」
   ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番ハ短調
   プロコフィエフ/交響曲第5番変ロ長調

 
 今年度最終の東響川崎定期公演。
 指揮のヴァンスカは一昨年都響とのシベリウス後期交響曲集(5~7番)を聴いている。あのときは聴き手の体調が最悪で、残念ながら集中力を欠いたまま、ぼんやりと過ごしてしまった。今日は再挑戦である。

 デンマークの作曲家ニールセンの演奏会用序曲「ヘリオス」からスタート。日の出の静かでゆったりした序奏部分、真昼の明るく輝かしい中間部分、日没の穏やかな結尾部分、の3部構成で、日が昇り沈むまでを描写する。
 ヴァンスカは落ち着いた足取り。最弱音の低弦のうえを4本のホルンが順番にファンファーレを奏でる。上間さんをトップにしたホルンの柔らかな響きがホールを満たす。太陽が昇るにつれ弦楽器のうねりが盛り上がる。ヴァンスカは音が欲しいパートには身体ごと向き合い、手を掬うようにして音を要求する。トランペットの吹奏をきっかけにテンポを早め真昼へ。最強奏のクライマックスから、曲は時間をかけ徐々に穏やかになる。木管楽器の朴訥なメロディーを経て、ホルンとヴィオラが日が沈む様子を描き、最後は低弦が消え入るように曲を締めくくる。親しみやすい作品で演奏会の幕開けにもふさわしい。

 イノン・バルナタンが登場し、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」。ベートーヴェンのピアノ協奏曲は「第4番」と「第5番」の機会が多く、「第3番」は久しぶり。バルナタンはニューヨークを拠点にし、朋友であるアラン・ギルバートとのレコーディングや共演が目立つようだ。
 今日一番の収穫はこのバルナタン。ひとつひとつの音に質量がぎっしり詰まっている。極めて表情が豊かで表現の幅が広い。弱音も強音も音が崩れない。低音から高音までの音域が広く感じる。アメリカにこんな素晴らしいピアニストがいるとは不覚だった。ベートーヴェンが重すぎることなく薄っぺらにもならず、程よい具合にしっかりと鳴った。
 第1楽章はドラマティックで男っぽい。単純な動機が反復する。オケとピアノがときに対話を交わし、ときに対立をみせる。協奏曲でのヴァンスカは百戦錬磨だろう。ソリストに寄り添い音を引き出し、オケを煽り抑える絶妙のコントロール。カデンツァは、バルナタンが思う存分の技巧を繰り広げた。第2楽章は深い祈りに包まれた美しいラルゴ。オケとピアノが和解し優しく歌い涙を誘う。第3楽章は、軽快で華やかだけどどこか悲壮感がただよう。ピアノとオケの音が一体となって力強い。
 久しぶりの「第3番」とはいえ、これだけの有名曲、過去それなりに聴いてきた。そのなかでも今日のバルナタン+ヴァンスカ×東響はベストワンというべき演奏だった。

 独ソ不可侵条約を破棄し第三帝国軍がソ連に侵攻する。祖国愛に目覚めたプロコフィエフは交響曲を書く。その「第5番」交響曲。
 ヴァンスカは重厚な音づくり、テンポもかなり遅い。低音楽器が強調される、というかほの暗い音色でもって雄大にじっくりと描いていく。
 第1楽章はファゴットとフルートの長閑な主題で開始されるが、主題は次々と転調を重ね、拍子を変えていく。ヴァンスカは各パートに細かく指示を与えつつゆっくりと進む。展開部を経て再現部となってもあまり物語を意識させない。変奏曲のようだと勘違いする。第2楽章は奇怪なスケルツォ、ここでもヴァンスカは急がない。いつもなら機械的な音楽に聴こえることが多いけど、なぜか自然の風景が目に浮かんだ。第3楽章の無機的で冷たいアダージョも、ヴァンスカの手にかかると人肌のぬくもり。終楽章は冒頭牧歌的な主題が登場するが、チューバが縁取る主題は第1楽章の第1主題、ここで全曲が同じ物語であったと思い起こす。楽器が原色で彩られると、打楽器がけたたましく打ち鳴らされ音の洪水となる。圧倒的な興奮が押し寄せて来た。
 「第5番」は聴くたびに様々な相貌をみせる。オケの性能に依存する部分も大きいが、ヴァンスカは不思議な魅力を持ったこの作品で真価を発揮した。またヴァンスカを聴いてみたい。再挑戦の甲斐があった。

 演奏が終わり、指揮者が拍手に迎えられ何度か舞台に出入りし、舞台から去ったあと、コンマスの田尻順(ニキティンが急病で代役を務めた)が客席に一礼し、オケが解散というとき、フルートの相澤さんに花束が贈られた。
 数々の名演を披露した相澤さんはこの演奏会をもって退団する。在学中に入団し在籍35年というから定年ということだろう。客席には多くの人が残り、あたたかい拍手がいつまでも続いていた。
 フルートはオケ全体の性格を規定し主導するというが、そのノーブルで気品ある音色は間違いなく東響の象徴であった。この先は母校での後進の指導が中心となるのであろうか。寂しいかぎりであるが、この先の活躍を切に祈りたい。