2025/1/5 城谷正博×新響 「ジークフリート」ハイライト ― 2025年01月05日 20:32
新交響楽団 第268回 演奏会
日時:2025年1月5日(日) 13:30 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:城谷 正博
共演:テノール/片寄 純也(ジークフリート)
メゾソプラノ/池田 香織(ブリュンヒルデ)
テノール/升島 唯博(ミーメ)
演目:ワーグナー/舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」
第2夜「ジークフリート」ハイライト
第1幕 第3場 霊剣ノートゥングの再生
(ミーメ,ジークフリート)
第2幕 第2場 森の中のジークフリート
(オーケストラ版)
第3幕 第3場 ブリュンヒルデの目覚め
(ジークフリート,ブリュンヒルデ)
3年か4年ぶりの新交響楽団の演奏会。たしか飯守泰次郎の代役で高関健が振ったブルックナーの「交響曲第3番」以来だと思う。新響は誰しもが認めるアマオケの雄、多くは飯守が指揮するときに聴いて来た。両者の相性は良かった。飯守が亡くなった今となれば自然機会は減っていく。
今回は「ジークフリート」に魅かれてチケットを購入した。「リング」のうち「ラインの黄金」や「ワルキューレ」の第1幕、「神々の黄昏」の抜粋などは時々演奏されるけど「ジークフリート」は珍しい。
音盤で聴くと「リング」のなかでは地味ながら、実演はなかなか魅力的。実際、物語もジークフリートの成長譚であり大蛇が出てきたり、小鳥たちがお喋りをしたりしてメルヘンチックで楽しめる。そのハイライト上演である。
指揮の城谷正博は初めて。ただ、2000年から4年かけて上演されたシティフィルの「ニーベルングの指環」の副指揮者だったというから、あの公演を裏で支えていたわけだ。飯守の弟子を自認しワーグナーをこよなく愛しているという。新国立劇場で四半世紀以上もプロダクションに係わり、現在は新国の音楽ヘッドコーチを務めている。
「ジークフリート」の上演時間はほぼ4時間、全3幕で其々3場からなる。今日は各幕から1場ずつを取り上げ、2時間弱の公演となった。
第1幕からはジークフリートがノートゥングを鍛え直す場面。城谷は指揮ぶりもつくりだす音楽も情熱的。低弦は厚く金管をくっきりと鳴らし木管で点描していく。感覚的にはテンポが少々前のめりなのが気になった。ミーメの升島唯博は声量が物足りなくて、ほとんどオケの音に隠されてしまったのは残念。
第2幕はオーケストラのみで「森のささやき」を中心に、大蛇ファーフナーとの闘いの音楽も編集して演奏された。新響はさすがアマオケ第一といわれるだけあって目立った破綻もなく、まさに劇伴音楽の原点のような「リング」を、城谷の指示のもとドラマチックに描いた。ファーフナーを目覚めさせる有名な角笛は、ホルンの首席が定位置から舞台下手の最前列に移動して吹いた。女性奏者ながらたださえ難易度が高いソロを目立つところに立って吹奏するとは大したものである。
第3幕は「ジークフリート」の大詰め、岩山の頂上でジークフリートとブリュンヒルデ が長大な愛の歓喜を歌う。ここの音楽は一層複雑で緻密なものになるのだが、作曲の過程をみると、第2幕を書いたあと10年以上の中断があって第3幕が完成されたらしい。その間「トリスタンとイゾルデ」や「ニュルンベルクのマイスタージンガー」などが生み出されているというから納得である。城谷の歩みはうねりを増し、情熱的な音楽が一層情熱的となり、ブリュンヒルデが覚醒する瞬間の音楽は、まるで大きな波が打ち寄せて来るように鳴り響いた。途中「ジークフリート牧歌」の旋律を弦楽器群が繊細に奏で、池田香織と片寄純也は愛の二重唱を感動的に歌いあげ、楽劇「ジークフリート」は終幕となった。
新年の演奏会はワーグナーで始まった。アマオケとはいえ客席はほぼ満席、しっかりとした充実の音楽だった。この先一年、どんな演奏会が待ち受けているか楽しみにしたい。