東響の来期プログラム2024年10月04日 09:45



 東京交響楽団の2025/26シーズンラインナップが発表された。音楽監督ジョナサン・ノットとのラストシーズン。
 テーマは「Song」、ノットの指揮するブリテン「戦争レクイエム」、バッハ「マタイ受難曲」、マリオッティが振るロッシーニ「スターバト・マーテル」など注目公演が目白押し。
 さらに、ノットはブルックナー「交響曲第8番」を再演し、就任公演で披露したマーラー「交響曲第9番」によって彼の定期演奏会を締めくくる。

https://tokyosymphony.jp/news/52800/

 次期監督のロレンツォ・ヴィオッティや常連のクシシュトフ・ウルバンスキの姿がないのは寂しいけど、ミケーレ・マリオッティの再登場は楽しみだ。
 例年のように川崎定期の継続と名曲全集から選択するということになりそうだが、やはり神奈川フィルの定期公演と幾つか重なるので振替調整が悩ましい。

2024/10/5 ウルバンスキ×東響 ラヴェルと「展覧会の絵」2024年10月05日 21:04



東京交響楽団 名曲全集 第200回

日時:2024年10月5日(土) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
共演:ピアノ/小林愛実
演目:コネッソン/輝く者-ピアノと管弦楽のための
   ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調
   ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」


 名曲全集の第200回の節目、人気の指揮者・ソリストの共演と魅力的なプログラムのせいで早々と完売公演となった。
 最初のコネッソン「輝く者」から小林愛実が登場。真赤なパンツとジャケットが華奢な身体によく似合う。オケから密やかに風の音が聴こえ、樹々がざわめき、鳥が歌う。小林愛実のピアノは一音一音が粒立っているのに鋭利でなく温かく柔らかい。プログラムノートによると「輝く者」はラヴェルの「ピアノ協奏曲」の続編として2008年に書かれたものだという。現代音楽ながら調性があって神秘的、熱狂もある。初めて聴く10分ほどの曲だったがなかなかに楽しめた。

 小林愛実はショパンコンクール後、結婚や出産が重なり2年近くステージから遠のいていたはずだが、全くそのブランクを感じさせない。ラヴェル最晩年の傑作「ピアノ協奏曲 ト長調」を鮮やかに弾いた。
 古典的な急・緩・急の3楽章形式だけど内容は極めて斬新。第1楽章はムチの音で吃驚し、民謡を思わせる楽しげなメロディとジャズ風のけだるい雰囲気が混在する。中間楽章は小林愛美の長いピアノソロが泣かせる。叙情的で静謐でモーツァルトの緩徐楽章を彷彿とさせた。ソロを引き継いだ木管楽器群は美しく、浦脇健太の吹くイングリッシュ・ホルンとピアノとの絡みが絶品だった。最終楽章は活気に満ちたリズムでパレードでも始まりそうだった。ピアノとオーケストラの掛け合いが見事で、無理を感じさせないウルバンスキの指揮姿に自然見惚れてしまう。もちろん、まろやかで美しさと切なさが交錯する小林愛実のピアノには感心しきり、いいピアニストである。

 休憩後、ラヴェル編曲によるムソルグスキーの「展覧会の絵」。
 「プロムナード」はローリー・ディランのトランペットが素晴らしい。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミイレ」におけるミュートを付けた音も抜けがよく歯切れがいい。首席奏者であるがまだ研究員である。全曲にわたって大活躍だった。
 ウルバンスキの指揮はとにかくカッコいい。音楽も泥臭さがなくてスッキリしている。「展覧会の絵」はラヴェルによって華やかさと色彩感を与えられたのだけど、ロシアのムソルグスキーよりフランスのラヴェルの顔ばかりが思い浮ぶのには少々閉口した。「チュイルリー」や「卵の殻をつけた雛の踊り」「リモージュの市場」などは活気あふれるリズムと華やかな音響のなかから普段気づかない音が聴こえてきて大いに得をした気分だ。
 「カタコンベ」から「バーバ・ヤーガの小屋」を経て「キエフの大門」にかけては背筋が凍り付くような恐怖を感じる演奏もあるのだけれど、ウルバンスキはスタイリッシュで洗練されグロテスクになり過ぎない。コーダを目前にして、クラリネットやファゴットによる聖歌風コラールや鐘の音も加わるあたりからのテンポ加減はウルバンスキの真骨頂、大伽藍が現出したかのような壮大なクライマックスを築いた。
 東響のコンマスはニキティン。チェロのトップは木越さんがゲストだったのでは? だいぶお歳を召された。ホルンの注目は研究員の白井有琳、「展覧会の絵」ではトップに座って安定した演奏を披露した。

 ウルバンスキは、10年くらい前に3年間ほど東響の首席客演指揮者を務めていた。その後しばらくご無沙汰だったが、ここ数年はまた毎年のように客演している。当初はその指揮姿と暗譜能力の方が話題になっていて、演奏は出来不出来まちまちだったように記憶するけど最近は当たり外れがない。忘れがたい演奏を聴かせてくれる。2023/24シーズンからボレイコの後任で母国ワルシャワ国立フィルの音楽監督となり、2024/25シーズンからはベルン交響楽団の首席指揮者を兼ね多忙なようだ。来期は東響を振らないが、手兵とともに来日するかも知れない。東響のノット監督の後任はロレンツォ・ヴィオッティで決着したが、これからも東響との共演を継続してほしい指揮者の一人だ。

N響の来期プログラム2024年10月06日 09:38



 NHK交響楽団のシーズン開始は9月からだが、早くも来期2025/26の日程、出演者、演目が発表になった。

https://www.nhkso.or.jp/news/schedule_2025-2026.pdf

 首席指揮者4年目となるファビオ・ルイージは、ツェムリンスキー「人魚姫」、ニルセン「不滅」など7演目14公演に登壇する。
 名誉音楽監督シャルル・デュトワは11月の定期公演に復帰し、ホルスト「惑星」、ラヴェル「ダフニスとクロエ」などを振る。
 公演時には98歳を迎える桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットは、シベリウス、ブラームスなど3演目6公演が予定されている。
 常連のトゥガン・ソヒエフも1月に登場、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーなどロシアものやマーラーの「悲劇的」を披露する。
 その他客演陣ではN響らしくフィリップ・ジョルダン、ヤクブ・フルシャ、ステファヌ・ドゥネーヴや下野竜也、山田和樹、尾高忠明といった実力者たちがずらりと顔をそろえる。

都響の来期プログラム2024年10月09日 17:11



 東京都交響楽団の来期ラインナップ(2025年4月~2026年3月)が発表された。定期演奏会は文化会館とサントリーホール、芸術劇場の各シリーズである。ほかにプロムナードコンサート、特別演奏会なども紹介されている。

https://www.tmso.or.jp/j/news/32426/

 びっくりしたのは指揮者。もちろん中心は就任11年目となる音楽監督の大野和士、首席客演指揮者のアラン・ギルバート、終身名誉指揮者の小泉和裕、桂冠指揮者のエリアフ・インバルだけど、東響と日フィルでお馴染みのウルバンスキとインキネンが客演する。
 ほかに指揮者ではカリーナ・カネラキス、ヨーン・ストルゴーズ、オスモ・ヴァンスカなどが登場する。ソリストのアリーナ・イブラギモヴァ、庄司紗矢香、キリル・ゲルシュタイン、アリス=紗良・オットなども含めて贅沢な布陣である。
 演目は没後50年ということでショスタコーヴィチの交響曲や協奏曲が目立つ。インバルはマーラーの「交響曲第8番(千人の交響曲)」を振る。幾つか選択して聴くことになりそう。

2024/10/13 ウルバンスキ×東響 ショスタコーヴィチ「交響曲第6番」2024年10月13日 20:25



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第97回

日時:2024年10月13日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
共演:ピアノ/デヤン・ラツィック
演目:ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 ハ短調op.18
   ショスタコーヴィチ/交響曲第6番 ロ短調op.54


 ウルバンスキの名曲全集に続く定期公演は、ラフマニノフの協奏曲とショスタコーヴィチの交響曲を組み合わせたロシア・プログラム。前回は完売公演で今回もミューザ2000席がほぼ満杯、人気者である。

 ラフマニノフのソロはデヤン・ラツィック。幼少からピアノとクラリネットを演奏し、10歳になるかならないかで作曲を始めたという。10代半ばにはモーツァルト・イヤー(1991年)で「クラリネット協奏曲」と「ピアノ協奏曲」を演奏して話題となったらしい。幾度か来日しているようだが初聴き。
 「ピアノ協奏曲第2番」はラフマニノフの出世作にして有名曲。親しみやすい和声進行と哀愁の旋律ゆえだろう。第1楽章の開始でピアノを鐘の音のように鳴らす。主に弦楽器がロマンチックな旋律を奏で、ピアノは分散和音をひたすら弾き続ける。ラツィックの音は硬質でありながらタッチはまろやか。管弦楽は地の底から湧き上がるような重々しさ。でも、どこか軽やかに思えるのが不思議。ウルバンスキは暗譜で自在にオケをコントロールして行く。
 第2楽章に入るとピアノが弦や木管と一緒になって抒情的に歌う。終楽章ではピアノは技巧的な和音や装飾音を散りばめ曲を盛り上げる。ラツィックは卓越した技術で複雑なパッセージも滑らかに演奏する。感情的な深みを情熱的かつ繊細に表現した。伴奏のウルバンスキは各楽章をアタッカでつないだ。

 ショスタコーヴィチの「交響曲第6番」は「第5番(革命)」と「第7番(レニングラード)」に挟まれて目立たない。ショスタコーヴィチにしては小ぶりで、演奏機会もかなり少ない。しかし、「第4番」から始まり「第8番」「第10番」と続く一連の偶数番号交響曲と同様、ショスタコーヴィチの本音や秘密めいた心情が塗りこめられているように思う。緩-急-急の特異な3楽章形式で第1楽章が欠けた交響曲と言われるが、最終楽章が落ちているとも言える。いずれにせよアンバランスで未完成的な構造が聴き手を不安定にさせる。
 第1楽章はラルゴ、低音楽器のユニゾンで始まる。弦楽器による主題は「第5番」に似ている。そして音楽は時間を追って高揚するのではなく、逆に音量がどんどん小さくなる。曲調は冷ややかに独り言のようになって静かに終わる。ウルバンスキは緊張感と静寂さのバランスが絶妙で、各楽器の音色を際立たせることでショスタコーヴィチの複雑な感情を顕わにしようとしたのかも知れない。
 第2楽章はショスタコ得意のアレグロ、スケルツォ楽章。木管楽器が先行し、金管楽器が加わって頂点を築く。喧噪はだんだん遠ざかり、最後はふんわりと着地する。第3楽章はプレスト、ドンチャン騒ぎ。軽快に弦楽器で始まるが、やがてカーニバルの開始のように金管楽器が爆発し、打楽器が打ち鳴らされる。木管楽器の変拍子を伴ったアンサンブルがそのまま加速し最後まで一気に駆け抜ける。ウルバンスキはここでも重量感を失わないまま浮揚感のある音楽をつくった。ダイナミックなテンポとリズム感に工夫があって、ショスタコーヴィチの恐怖や皮肉が浮かび上がる。
 コンマスは小林壱成。ピッコロ、イングリッシュホルン、バスクラリネットなどさまざまな木管が大活躍、東響の名手たちに改めて感心した。
 
 ウルバンスキのショスタコーヴィチは随分前に「第4番」を聴いた。そのときは音楽が整理整頓されすぎていて不本意な結果だったけど、今回の「第6番」は静と動、明と暗の対比も鮮明な完成度の高いもの。
 ウルバンスキは来シーズン東響との共演がなくがっかりしていたが、なんと都響に登場し「第5番」を指揮するという。東響以外のオケからどんな演奏を聴かせてくれるのか楽しみに待ちたい。