プラハのモーツァルト2022年12月16日 10:20



『プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード』
原題:Interlude in Prague
製作:2017年 チェコ、イギリス
監督:ジョン・スティーヴンソン
脚本:ブライアン・アシュビーほか
出演:アナイリン・バーナード、
   モーフィッド・クラーク、
   ジェームズ・ピュアフォイ


 モーツァルトを主人公にした映画といえば、何といったってピーター・シェーファー原作、ミロス・フォアマン監督の『アマデウス』だろう。いや、『アマデウス』はサリエリが主人公というべきかも知れないが、ともかく、この映画があまりにも有名で、ほかはいささか影が薄い。
 その『アマデウス』から四半世紀以上経って、数年前に『プラハのモーツァルト』が公開されていた。『アマデウス』のモーツァルトが明だとするなら『プラハのモーツァルト』は暗。『アマデウス』の天真爛漫で軽薄なモーツァルトに対し、『プラハのモーツァルト』は思慮深く、繊細なモーツァルトである。

 この映画、プラハにおける「フィガロの結婚」の上演と「ドン・ジョバンニ」の作曲という史実をもとに、ヨゼファ・ドゥシェクという実在の人物も登場させながら、モーツァルトにフィクションである歌姫スザンナ、それに漁色家サロカ男爵を絡ませつつ、その三角関係を描く。
 もっとも、この三角関係がフィクションとはいっても、モーツァルトは恋多き人だったようで、別の時代、別の場所で、同じような事件を起こしたと言われているし、ヨゼファ・ドゥシェクとの間にも友人以上の微妙な感情があったらしい。
 プラハでオールロケを敢行し、百塔の都である美しい街並みが鑑賞できる。衣装や家具調度にも当時を再現したという。それを背景にして繰り広げられるドラマは「ドン・ジョバンニ」に重なっていき、モーツァルトは徹夜で序曲を書き上げ、楽譜が当日楽師たちに配られ、リハーサルなしで「ドン・ジョバンニ」の公演が始まるところで映画は終わる。

 正直、映画としては『アマデウス』のほうがはるかに面白い。劇中音楽も「交響曲小ト短調」から始まり、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」「グランパルティータ」「後宮からの誘拐」と続いていく音楽が画面を引き立てていた。『プラハのモーツァルト』は、「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」のアリアなどが散りばめられているが、どことなく断片的で印象が薄い。
 まぁ、『アマデウス』の対極として、ちょっとシリアスで暗めのモーツァルトがあっても悪くはない。モーツァルト好きにはなかなか楽しめる映画である。