5月の旧作映画ベスト32024年05月31日 09:37



『野のユリ』 1963年
 シドニー・ポアチエの代表作のひとつ。黒人俳優として初のアカデミー主演男優賞を受賞した。アリゾナの砂漠地帯をステーション・ワゴンで旅するホーマー(ポワチエ)が、東ドイツからの亡命者である修道女のマザー・マリア(リリア・スカラ)らと出会う。修道女たちとはまともに言葉が通じない。ホーマーは英語を教えながら修道女たちの願いである教会建設の手伝いをする。図々しくも身勝手なマザー・マリアとは行き違いばかり。何やかやとすったもんだの末、荒地に無事教会が完成するが…モノクロ・スタンダードによるコメディータッチの人間ドラマ。ポアチエの歌うゴスペルの名曲「エーメン」が耳に残る。標題の『野のユリ』はマタイ福音書6章「なにゆゑ衣のことを思ひ煩ふや。野の百合は如何にして育つかを思へ、勞せず、紡がざるなり。然れど我なんぢらに告ぐ、榮華を極めたるソロモンだに、その服裝この花の一つにも及かざりき」に由来しているという。

『華麗なるギャツビー』 2013年
 F・スコット・フィッツジェラルドの原作、何度も映画になっている。謎の富豪ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)の一生を、隣人で友人となったニック(トビー・マグワイア)が語っていく。監督は『ムーランルージュ』のバズ・ラーマン。相変わらずのド派手で過剰な舞台設定に圧倒される。繰り返されるパーティーシーンの狂騒は酒、紙吹雪、花火などが画面一杯に飛び散り滑稽なくらい。時代は第一次大戦後のアメリカ、後年のわれわれは史実としてその後の大恐慌を知っているから、ギャツビーの運命が時代の前兆と思えてしまう。夢見るギャツビーはいつまでも過去に執着し、初恋の相手デイジー(キャリー・マリガン)はあまりにも我儘すぎる。デイジーの夫トム(ジョエル・エドガートン)はどこまでもいかがわしい。でも、トムのヴィランぶりが何故か一番真っ当に感じるのもこの時代のせいか。年代ものの名車が走り回る。クラシックカー好きにもお勧め。

『ボーイズ・イン・ザ・ボート~若者たちが託した夢』 2023年
 監督はあのジョージ・クルーニー。大恐慌の真っただ中、1936年ベルリン・オリンピックのボート競技でヨーロッパの強豪たちと戦い、金メダルを獲得したアメリカチームの活躍を描いた実話もの。ワシントン大学のエイト二軍チームは衣食住目当ての学生たちで結成された。屈強な労働者階級の若者たちは厳しい練習を重ね全米優勝、オリンピックへの出場権を獲得する。1936年の大会はヒトラーが仕切った祭典、観戦するヒトラーの目の前でアメリカチームはドイツチームを破る。スポコン映画だから誇張すればもっと重々しくドラマチックに仕上げることができたはずだけど、練習風景もアクシデントも恋愛、友情、親子関係もまるでドキュメンタリーのようにさらっと軽やかに描く。ボート部のコーチは『華麗なるギャツビー』でも出色の憎まれ役を演じたジョエル・エドガートン、抑えた演技でもって見せ場をつくる。なんとこの佳作、日本では劇場未公開。