ボレロ 永遠の旋律2024年08月17日 14:01



『ボレロ 永遠の旋律』
原題:Bolero
製作:2024年 フランス
監督:アンヌ・フォンテーヌ
脚本:アンヌ・フォンテーヌ、クレア・バー他
音楽:ブリュノ・クーレ
出演:ラファエル・ペルソナ、ドリア・ティリエ
   ジャンヌ・バリバール


 「ボレロ」はクラシックの枠を超えて誰しもが知っている傑作だけど、作曲家のラヴェルは? 音楽家として知ってはいても実際どのような人物であったかを知る人は少ない。
 官能的な「ボレロ」はもちろん「ラ・ヴァルス」や「ダフニスとクロエ」、編曲した「展覧会の絵」だってエロスにあふれている。音楽として洗練されてはいても性的なイメージを抱きやすい作曲家の一人だろう。
 しかし、本人は正反対。そもそも「ボレロ」は工場の規則的な機械音からインスピレーションを得たものだし、初演のエロティックな振付に憤慨をしたくらいだから。
 マザコンで女性たち囲まれ世話を焼かれながら、傷つきやすく神経質で禁欲的、娼婦に対しても大人として振舞うことが出来ない。生涯を独身で通したラヴェル。まるで音楽が介在することで欲望が昇華してしまったかのよう。

 ラヴェル(ラファエル・ペルソナ)は、ピアノコンテストに何度も落選するが母親(アンヌ・アルヴァロ)は息子の才能を信じ、息子は母親に依存し続ける。ロシア人のバレリーナ、イダ・ルビンシュタイン(ジャンヌ・バリバール)は新作バレエのための曲をラヴェルに依頼する。ラヴェルは呻吟し苦悩する。親友のピアニスト、マルグリット・ロン(エマニュエル・ドゥヴォス)は優しく見守り、パリで芸術サロンを主宰するミシア・セルト(ドリア・ティリエ)は叶わぬ愛を捧げる。家政婦のルヴロ(ソフィー・ギルマン)は一途に尽くす。それら女性たちとの関係から生み出される「ボレロ」作曲の顛末が描かれる。

 映画はラヴェルが晩年暮らしたモンフォール・ラモーリーにある「ベルベデール(展望台)」と名づけた邸宅で撮影しており、彼自身が使っていたピアノや彼が選んだインテリア、装飾品や小物が興味を惹く。パリの喧騒から逃れるためラヴェルが引き籠ったこの家を一見するだけでも価値がある。
 アレクサンドル・タローがピアノ演奏の“手”として出演している、さらに、ラヴェルの音楽に批判的な音楽評論家ピエール・ラロ役で登場、達者な演技を見せてくれる。
 劇中ではピアノ曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ」や「道化師の朝の歌」、管弦楽の「マ・メール・ロワ」や「ラ・ヴァルス」などの馴染みの曲が流れる。パリに良く似合うショパンのピアノ曲なども使われている。

 フランス製作で作曲家の伝記もの、音楽映画という地味な作品であるが、劇場には年齢層はやや高めながら意外なほど人が入っていた。土曜日のせいなのか、名曲「ボレロ」の人気ゆえなのか。