2024/8/11 FSM:藤岡幸夫×シティフィル ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」と「惑星」2024年08月11日 21:08



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2024
 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

日時:2024年8月11日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:藤岡 幸夫
共演:ピアノ/務川 慧悟
   女声合唱/東京シティ・フィル・コーア
   合唱指揮/藤丸 崇浩
演目:ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番 ニ短調op.30
   ホルスト/組曲「惑星」op.32


 今年はホルストの生誕150年。そういえば、昨年はラフマニノフの生誕150年だった。そのホルスト「惑星」とラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」が本日の演目。ピアノを務川慧悟が弾くということもあってか、完売公演となった。女性比率が高く1階前列には若い女の子たちがずらりと並んだ。

 最初のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」は「第2番」と並ぶ人気曲。第1楽章の郷愁に満ちた旋律は全体の主題ともなっている。この楽章には雄大なカデンツァがある。第2楽章は間奏曲、たっぷりと歌う感傷的な変奏曲。アタッカで第3楽章へ続き、ラフマニノフらしい舞曲のリズムを伴って高揚感のまま邁進する。全曲で約45分、超絶技巧の難曲であって旋律美にあふれた大曲である。
 務川慧悟は遠目には華奢で小柄。力任せにバリバリ弾くのではなく、表情豊かに隅々まで神経を行き届かせた知的な演奏。アンコールは同じラフマニノフの「楽興の時 第3番」、暗めの音色でやはり多彩に表現する。彼のピアノで他のいろいろな作曲家を聴いてみたい。

 ホルストの「惑星」はクラシックのなかのポピュラー音楽。映画音楽としてもそのまま通用する全7曲。4管編成の大オーケストラ作品で、アルトフルート、バスオーボエ、テナーテューバといった特殊管楽器やチェレスタ、ハープ、オルガン、さらには女性合唱も加わる。
 火星(戦争をもたらす者)。冒頭、ティンパニ、ハープ、弦楽器群のコルレーニョ奏法でオスティナート・リズムを執拗に刻む。硬いマレットを用いた目等貴士のティンパニが歯切れ良い。管楽器が不穏な雰囲気の旋律を鳴らす。軍隊ラッパ風のメロディも現れ、第1次世界大戦を暗示させるような音楽といえなくもない。トランペットは松木亜希が復帰したようだ。
 金星(平和をもたらす者)。ホルンと木管楽器による静かで美しい世界が現れる。合奏するオケの編成が小さくなり、ほとんどの金管楽器は沈黙する。ホルンは小林祐治がトップ、谷あかねは3番を吹いていた。ラフマニノフでは1番が谷あかねで複雑なパッセージを難なくこなしていた。首都圏の女性のホルン奏者としては坂東裕香と並んで双璧だろう。「惑星」でもトップを期待したが致し方ない。ヴァイオリン・ソロはゲストコンマスの須山暢大(大阪フィルのコンマス)、美しい主題を聴くことができた。チェレスタとハープも印象的だ。
 水星(翼のある使者)。スケルツォ風の飛び跳ねるような軽快で洒脱な曲。ここでもチェレスタが効果的に使われている。オーケストラにとっては意外と厄介な曲かも知れない。
 木星(快楽をもたらす者)。序奏+3部形式で書かれている。中間部の主題が平原綾香の「ジュピター」の原曲として有名。イギリスの愛国歌、讃美歌としても知られている。楽器はホルンが中心となり、弦楽器が躍動感あふれるメロディを奏でる。
 土星(老いをもたらす者)。ホルストが最も愛着を持ったアダージョといわれる。コントラバスが老境を感じさせる。低弦のピッツィカートに導かれ金管楽器のコラールがゆっくりと高みに到達する。鐘の音がしきりと鳴りエンディングは恍惚感に溢れ美しい。
 天王星(魔術師)。これもスケルツォ風。デュカスの「魔法使いの弟子」が同類の作品だ、とプレトークで藤岡が解説していた。大規模な管弦楽を駆使し、ファゴットの怪しいリズム、ホルン、木管楽器、弦楽器が諧謔的な旋律を強奏する。オルガンが響きわたり、金管楽器の和音によって静かに曲を閉じる。
 海王星(神秘なる者)。全体が弱音指定の神秘的で幻想的な曲。フルートを中心とした木管楽器群が活躍する。フルートは新しい首席の多久和怜子か。金管楽器のコラールの上のチェレスタ、ハープ、弦のアルペジオが耳に残る。大詰めは舞台外の女性合唱のヴォカリーズがさらに神秘感を増して行き、曲は静かに終わる。女性合唱の姿はまったく見えず、どこで歌っていたのか最後まで分からなかった。
 藤岡幸夫はこういう曲になると外連味たっぷり。輪郭が太く、派手なところは目一杯派手に、抑えるところは極端に抑えエッジの効いた演奏。最初の火星で指揮棒が飛び、金星に入る前に拾い上げた。久しぶりに全曲聴いて、土星以降の3曲がこれほどまでに魅力的だと初めて知った。

 フェスタ サマーミューザ(FSM)は明日がフィナーレコンサートとなるが、今年はノット×新日フィルと園田×神奈川フィル、そして、今日の藤岡×シティフィル、この3公演でもって終了である。