2022/8/2 アラン・ギルバート×都響 「古典交響曲」「アルルの女」そして「交響的舞曲」2022年08月03日 11:10



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
 東京都交響楽団

日時:2022年8月2日(火) 19:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:アラン・ギルバート
演目:プロコフィエフ/交響曲第1番「古典交響曲」
   ビゼー/アルルの女 から
       パストラール(第2組曲)
       メヌエット(第1組曲)
       カリヨン(第1組曲)
       アダージェット(第1組曲)
       ファランドール(第2組曲)
   ラフマニノフ/交響的舞曲


 アラン・タケシ・ギルバートは、過去2度聴いている。ブルックナーの「4番」とマーラーの「6番」。マーラーには感心したが、ブルックナーには落胆した。まだ、ちょっと評価が定まらない。
 タケシは、ケント・ナガノ、準・メルクルとともに日系指揮者の三羽烏だろう。ほかにはキンボー・イシイ? ユージン・ツィガーンもハーフだ。ハーフというなら井上道義も。でも、井上は国籍が日本だから日系とは言わないか…

 駄弁はさておいて、タケシ×都響の夏祭り。「ゴージャス!腕利き集団が奏でる名曲集」という宣伝文句がうたわれている、なるほど。

 1曲目は若き日のプロコフィエフの佳品「古典交響曲」。
 「古典」と銘打ったのは、一種のパロディか。ハイドン的形式を借りたモダンな曲。アレグロ、ラルゴ、ガボット、フィナーレの4楽章。
 12-10-8-6-4でコンマスは矢部達哉、隣に山本友重のツートップ。Vn.2遠藤香奈子、Va鈴木学。Vcは入団したばかりの伊東裕、伊東は葵トリオの一員。最近、ソリストや室内楽のメンバーがオケに加わることが多いが、本人にとってもオケにとってもプラスなのだろう。
 タケシの音楽はキビキビしていて、こういった複雑な小品を楽しく聴かせる。プレトークで「古典交響曲」は演奏が難しいと言っていた。たしかに最終楽章の木管たちは難易度が高そう。とくにフルートのパッセージが驚異的に目立つ。フルートはN響の神田寛明だったけど。

 2曲目は「アルルの女」から。
 ビゼーは劇の付随音楽27曲のうちから4曲を選び、第1組曲を作った。のちにビゼーの親友の作曲家エルネスト・ギローがさらに4曲を編んで第2組曲とした。今回は、その2つの組曲のなかから5曲を抜粋して演奏された。有名なフルートソロがある第2組曲のメヌエットが選択されなかったのは残念。
 タケシ×都響は音がよく鳴る。弦は14型に増量。しっとりとした静寂の「アダージェット」から、たたみかけるような熱狂の「ファランドール」が圧巻、プロヴァンス太鼓も珍しい。「パストラール」の中間部におけるサクソフォンの音色と、オーボエの甲高い突き抜けるような音も印象的。サクソフォンは住谷美帆が客演、オーボエは鷹栖美恵子だったか。

 3曲目はラフマニノフの最後の作品である「交響的舞曲」。
 舞曲的交響曲といったほうが適切なくらい堂々とした造り。「交響曲第2番」や「ピアノ協奏曲第2番」のような粘っこい甘さがなく、心地よいリズムと抒情とが上手く配合された魅力的な曲。3楽章構成で、当初各楽章には「真昼」「黄昏」「夜中」の副題がついていたらしい。そう思って聴くと、たしかにそういう気分がある。
 弦はさらに増量して16型。ここでのタケシは、ピリピリとした神経質な音ではなく、どちらかというと音圧の高い分厚い響きを要求しているよう。おおらかと言おうか、スピード感はあまり感じられない。第1楽章などノン・アレグロの指定だから急ぐ必要はないが。住谷さんのサクソフォンは濃厚で、背がゾクゾクとした。第2楽章は不気味なワルツ、この部分に差し掛かるとどうしても「幻想交響曲」や「仮面舞踏会」がチラチラする。矢部さんの画面転換を促すソロも見事。最終楽章は大迫力でありながら、こちらの趣味としては、もう少し快速のほうが好みであった。

 酷暑のせいか客の入りは6割くらい。夏祭りにふさわしいプログラムではあっても、これで熱波が吹き飛ぶわけはない。会場を出てもどんよりとした暑気が残っていた。そろそろ一雨ほしい。

2022/8/4 神奈川フィル 金管五重奏 ウェストサイドストーリー2022年08月04日 13:37



神奈川フィル “ブランチ”ハーモニー in かなっく
  Vol.3 金管五重奏

日時:2022年8月4日(木) 11:00 開演
会場:かなっくホール
出演:トランペット/林 辰則
   トランペット/中村 諒
   ホルン/坂東 裕香
   トロンボーン/府川 雪野
   チューバ/岩渕 泰助
演目:スティーブン・フォスター/草競馬
   久石譲/トトロ・メドレー
   <楽器紹介>
   ユービー・ブレイク/メモリーズオブユー
   久石譲/天空の城ラピュタ・メドレー
   運動会メドレー
   レナード・バーンスタイン/
     ウェストサイドストーリー
     「マリア~トゥナイト~アメリカ」


 神奈川フィルが誇る女傑2人を含む金管五重奏。女傑というには坂東さんも府川さんもそうは見えないから、失礼にもほどがあるけど。トランペットは林首席と入団したばかりの中村さん、チューバは岩渕御大。

 子供連れもチラホラ。華やかなブラスだし、夏休みの思い出に残りそうなプログラム。
 フォスターの「草競馬」からはじまって、久石譲の「トトロ」と「天空の城ラピュタ」の両メドレーを演奏し、運動会メドレーでつなぎ、最後は「ウエストサイドストーリー」から3曲という構成。
 さらに、久石譲の両メドレーの間には楽器解説と、チューバを主人公としたブレイクの「メモリーズオブユー」を挟みこみ、レクチャー・コンサートのようでもあった。

 今日は雨模様で暑さも一息ついているが、真夏にはブラスが良く似合う。

2022/8/4 藤岡幸夫×シティフィル ローマの松2022年08月05日 10:57



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

日時:2022年8月4日(木) 19:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:藤岡 幸夫
共演:クラリネット/リチャード・ストルツマン
   マリンバ/ミカ・ストルツマン
   ジャズ六重奏/宮本貴奈(ピアノ)
    井上陽介(ベース)
    高橋信之介(ドラムス)
    中川英二郎(トロンボーン)
    本田雅人(サックス)
    小池修(サックス)
演目:コープランド/クラリネット協奏曲
   チック・コリア/スペイン
     ~六重奏とオーケストラのための
   リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲
   レスピーギ/交響詩「ローマの松」


 コープランド、チック・コリア、リムスキー=コルサコフ、レスピーギをずらり並べた楽しいプログラム。

 コープランドの「クラリネット協奏曲」も、ソリストのリチャード・ストルツマンも初めて聴く。指揮台の前にピアノとハープを据え、両翼に弦という配置。管楽器、打楽器はない。コンマスは戸澤哲夫。
 ゆっくりした楽章と速い楽章がカデンツァを挟んで切れ目なく演奏される。第1楽章はハープが、第2楽章はピアノがクラリネットに絡んでいく。もともとベニー・グッドマンの依頼で書かれたものらしい。20世紀半ばの作品だが前衛的過ぎず聴きやすい。ジャズテイストにあふれた小粋な曲。
 ストルツマンは、硬く乾いた音でクラリネットの柔らかさはあまり感じないが、どこか懐かしさを覚える。自在な表現力で、カデンツァなどはとても御年80歳とは思えない。演奏中は椅子に座って吹いたが、カーテンコールでは小走りで舞台に出入りする。お茶目で若々しい。

 この演奏会の副題が「チック・コリア トリビュートVol.1 ジャズとスペインを巡る音の饗宴」という。昨年亡くなったチック・コリアの「スペイン」がジャズ六重奏とオーケストラのためのバージョンで演奏されるからだ。今回はさらにマリンバ奏者であるリチャード・ストルツマンの奥様(日本人のミカさん)が加わって、七重奏とオケとの協演である。
 「スペイン」は10分足らずの曲だと思っていたら大違い。30分近くかかった。ジャズはよく分からないけど、アドリブと揺らぎ、楽器同士の掛け合いなど自然身体がスウィングしてくる。しかし、これに合わせるオケは大変だ。ジャズ奏者ではベースの井上さんとドラムの高橋さんがオケとの架け橋となっていたようだが、苦労したのは指揮の藤岡さんだろう。プレトークでも凄く緊張している、と言っていた。聴いている側はスリル満点、手に汗握った。

 後半は「スペイン奇想曲」でスタート。リムスキー=コルサコフは北国の人なのに「スペイン奇想曲」とか「シェヘラザード」とか南の異国の音楽をそれらしく書いてしまう。管弦楽法の先生でもあったから、たしか、レスピーギも彼に学んでいる。
 「スペイン奇想曲」は、オケコンのようなものだから各奏者の妙技がつぎつぎと繰り出され、それを聴いて見ているだけで楽しい。音楽もキレキレで乗りがいい。

 「ローマの松」は、昨年のバッティストーニ×東フィルでも聴いたが、勝負は藤岡×シティフィルのほうに軍配をあげたい。
 最初の「ボルゲーゼ荘」の出だしで一瞬音がバラけたように感じたが、賑やかな雰囲気はよく表現されていた。一転「カタコンべ」の沈鬱な暗い響きが印象的。舞台裏のトランペットは阿部一樹だと思うが好演。「ジャニコロ」の静謐な音楽。須東裕基のクラリネットが美しさに輪をかけた。ナイチンゲールの鳴き声は録音ではなく水笛だったかも知れないが、緊張感を高め、クライマックスの「アッピア街道」へ。舞台裏の阿部さんもオルガン横のバンダにいたのではなかったか。フルートの竹山愛、イングリッシュホルンの高橋舞など木管群も絶好調。そして、何より藤岡さんの全体設計が見事。テンポ設定、音響効果のみに頼らない明確なフレージングとアーティキュレーションが名演を生んだ。

 客席はやはり6割くらいの入りで、この前の都響と同じ程度。
 前半のジャズがらみの選曲は好き嫌いが別れるものの、「ローマの松」を聴き逃したとするなら、ちょっと悔しい思いがする、かな。

2022/8/7 エッティンガー×東フィル シェヘラザード2022年08月07日 19:46



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
 東京フィルハーモニー交響楽団

日時:2022年8月7日(日) 15:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ダン・エッティンガー
共演:ヴァイオリン/服部 百音
演目:ロッシーニ/歌劇「セビリアの理髪師」序曲
   メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
   リムスキー=コルサコフ/「シェヘラザード」


 日曜日の午後、ポピュラーなプログラムということもあって、ミューザはほぼ満席。
 
 「セビリアの理髪師」序曲からスタート。オープニングとして、こんなにふさわしい曲はないと思うが、軽快なワクワク感がない、どちらかというと重々しい。なのに、ロッシーニクレッシェンドはびっくりするほど急加速。あざといな、エッティンガーらしい。

 メンデルスゾーンから1曲選ぶとするなら、この「ヴァイオリン協奏曲」だろう。もちろん「イタリア」や「スコットランド」あるいは「エリヤ」を挙げるひねくれ者もいるかも。いわゆるメン・コン、最初の旋律だけでもメンデルスゾーンの名は後世まで残るに違いない。
 服部百音は、ソリストにしては線が細い。音程もいささか不安定。バックのオケは時として音量過多でソロとのバランスが悪い。アンサンブルもすこし粗い。エッティンガーは、プレトークでメン・コンを初めて振ると話していた。そのせいではないだろうけど、どうもしっくりこなかった。

 前半、感心しなかったので、後半を心配したが、「シェヘラザード」はオケの精度も数段上がって見違えるよう。変態エッティンガーの面目躍如、こってりと濃厚。ときどきゲネラルパウゼを大きくとって、緩急自在。14型の弦でも音圧は申し分ない。コンマス三浦章宏の百戦錬磨のソロはもちろん、各奏者とも名人芸を披露してくれた。
 この前の木曜日に、同じリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」を聴いたばかり。「シェヘラザード」もほぼ同時期に書かれた作品。御存じアラビアンナイト、説話集「千夜一夜物語」の語り手シェヘラザードがそのまま曲の題名となっている。「海とシンドバッドの船」「カランダール王子の物語」「若い王子と王女」「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破、終曲」の交響組曲、演奏時間約45分。
 今日、エッティンガーの指揮で、“これは大曲だ”と知った。

2022/8/10 現田茂夫×日フィル 4つの最後の歌、ブラームス「交響曲第1番」2022年08月10日 19:34



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
 日本フィルハーモニー交響楽団

日時:2022年8月10日(水) 15:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:現田 茂夫
共演:ソプラノ/森谷 真理
演目:J.S.バッハ/G線上のアリア
   R.シュトラウス/4つの最後の歌
   ブラームス/交響曲第1番


 川崎の夏祭りは明日まで。明日は参加しないから、今日が最終。平日の昼公演のせいかお客さんの入りは5割くらい。

 「G線上のアリア」で開始、弦5部のみ。14-12-10-8-7の編成、コンマスは田野倉雅秋、チェロには菊池知也。バロックというよりは19世紀ロマン派の音楽のように分厚く重量感のある音が広がる。

 弦のそれぞれが減らされ12型に、管楽器が加わり「4つの最後の歌」。①春、②九月、③眠りにつくとき、④夕映えの中で。詩は第4曲のみアイヒェンドルフ、第1~3曲はヘッセ。
 R.シュトラウスの最晩年にしてドイツ・オーストリア音楽に幕を引いた曲。作曲は20世紀の半ばになっていたが、19世紀の音楽を「メタモルフォーゼン」で弔い、「4つの最後の歌」で見送った。実際、R.シュトラウスが舞台を去ることによってドイツ・オーストリア音楽は終わった。
 4本のホルンが絶えず鳴り響き、魔術的なオーケストレーションを背景にして森谷真理が歌う。R.シュトラウスの乾いた諦念が露わになる。でも、どこか明るさに満ちている。それがよけい涙を誘う。

 休憩後、ブラームス「交響曲第1番」、弦は再び14型に増強。
 第1楽章、暗く重い足取りで、前に進むのを躊躇うよう。第2楽章以降も同じ。楽章ごとの色合いに変化がなく表情が単調。塗りこめられたような音で、聴き続けるには辛抱が必要だった。最終楽章になって、件のクララへのホルンの呼びかけと、フルートの音で一瞬景色がかわったが、すぐに元へ戻ってしまった。各楽器のバランスにも少々疑問、ミューザのフォルテの響きで苦痛を味わうのは過去に例がない。

 まぁ、こういった演奏会もたまにはある。R.シュトラウスの「4つの最後の歌」は改めて心に強く残った、善しとしよう。今年の夏祭りはこれで終わりである。