2022/4/24 ブランギエ×東響 火の鳥2022年04月24日 19:33



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第85回

日時:2022年4月24日(日) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:リオネル・ブランギエ
共演:ピアノ/リーズ・ドゥ・ラ・サール
演目:サロネン/ヘリックス
   ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調
   ラヴェル/高雅で感傷的なワルツ
   ストラヴィンスキー/組曲「火の鳥」


 今年度最初の東響川崎定期演奏会。
 2度目のブランギエである。2019年、初来日のときのブラームスとプロコフィエフを聴いた。もっとも記憶は朧げである。プロコフィエフの交響曲は、品よく暴れすぎない印象が薄っすら残っているが、ブラームスのヴァイオリンコンチェルトは、ソリストを含めまったく思い出すことができない。東響の事務局が7年の歳月をかけて招聘した指揮者なのに、こんな頼りない聴衆もいる。
 ブランギエは、フランス生まれの30歳半ば。ブザンソン国際指揮者コンクールの覇者で、ロス・フィルのアシスタント・コンダクターとしてエサ・ペッカ・サロネンに認められた。2014年、20代後半でデイヴィッド・ジンマンの跡を襲いチューリヒ・トーンハレ管の首席指揮者に就任したものの、契約は1期4年で延長されなかった。後任はパーヴォ・ヤルヴィが指名されている。

 今回のプログラムは4曲、サロネンが2005年にBBCの委嘱で書いた曲と、ラヴェルのピアノ協奏曲およびバレエ音楽、それにストラヴィンスキーの「火の鳥」。
 東響の今年度の定期・名曲は、ブルックナーやマーラー、ショスタコーヴィチの大曲に新ウィーン学派を組み合わせたプログラムが標準仕様だが、ラヴェルやストラヴィンスキーの作品も目立つ。

 前半1曲目は、ブランギエにとっては恩人ともいうべきサロネンの「ヘリックス」。
 プログラノートによると「螺旋」という意味らしい。曲全体が螺旋を上るプロセスで、アッチェレランドしながらフレーズの音価が長くなる。その音の動きによってエネルギーが蓄積されていく。ゲンダイ音楽にしては聴きやすい。それでいて、内実は音が複雑に練り込まれている。ブランギエと東響は、クールな響きでもって面白く描いた。
 ラヴェルの「ピアノ協奏曲 ト長調」のソリストは、リーズ・ドゥ・ラ・サール。すでに何度が来日しているようだが初聴き。
 第1楽章は終始リズムカルで諧謔的で、ラ・サールのピアノと東響の管楽器の名手たちの掛け合いが楽しい。ほとんどオケコンである。第2楽章は長いピアノソロから始まるが、まるでサティの「ジムノペディ」の中の1曲のように愁いをもって歌う。第3楽章は一転「ペトルーシュカ」ふう。ラ・サールは奔放でいながら羽目をはずさない。東響の管楽器からは『ゴジラ』のテーマもちゃんと聴こえてきた。
 アンコールはショパンの「ノクターン嬰ハ短調」(遺作)、ロマン・ポランスキーの映画『戦場のピアニスト』でも使われた。今の時代を映し出すような深い憂愁をたたえた息の長い歌と、透明で細やかな連符に、まさしく戦慄した。

 後半はダンス音楽。
 ラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」は当初ピアノ独奏曲として作曲され、ロシア人のバレリーナの依頼により、バレエ曲「アデライード、または花言葉」として管弦楽化している。バレエ台本もラヴェルが書いたという。7曲のワルツとエピローグで構成されている。
 ブランギエは、ほの暗い、それでいて色彩感のある音を、ゆっくりとした歩みのなかで次々と繰り出して行く。表面的なハッタリを噛ますようなことはなく、地味ではあっても神秘感を漂わせながら、上品で底光するような音楽をつくる。
 最後が1919年版の「火の鳥」組曲、ディアギレフの依頼によるストラヴィンスキーの出世作。このあと「ペトルーシュカ」と「春の祭典」が続く。オリジナルは4管編成で演奏時間約50分。1919年版は2管編成にスケールダウンし、演奏時間も20分くらい。1910年のオリジナルはもとより、1911年、1919年、1945年の3つある組曲のうちで、多分もっとも演奏機会が多い。適度な長さとドラマティックな終曲のせいもあるだろう。
 ブランギエは明晰な指揮で、オケの音色を磨き上げ、リズムを刻む。隅々まで計算されしつくした演奏。ただ、予定調和のように先が読めてしまうところがあって、ノットやエッティンガーのごとく意外な展開は期待できない。それがあとあとまで記憶に残りにくい理由のひとつなのかもしれないけど、若いに似合わずいっそ老練といったほうがいいくらいの指揮者である。

 今日の演奏会には、ニコニコ動画のカメラが入っていた。配信は以下の通り。

 https://live.nicovideo.jp/watch/lv336070041

2022/4/27 広瀬悦子と東響(弦楽五重奏) ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番2022年04月27日 19:33



横浜18区コンサート 第Ⅱ期 
 弦楽五重奏で聴くピアノ協奏曲

日時:2022年4月27日(水) 15:00 開演
会場:はまぎんホール「ヴィアマーレ」
出演:ピアノ/広瀬 悦子
   弦楽五重奏/東京交響楽団メンバー
    ヴァイオリン/水谷 晃、鈴木 浩司
    ヴィオラ/多井 千洋
    チェロ/蟹江 慶行
    コントラバス/渡邉 淳子
演目:吉松隆/アトム・ハーツ・クラブ組曲 第1番
   モーツァルト/アダージョとフーガ K.546
   ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58


 横浜銀行がホールを持っているとは知らなかった。正確には横浜銀行が出捐した公益財団が運営している。床は木製、壁面は凹凸ある木質材に煉瓦が縁取りされ、天井は少し低い。舞台上には反響板が設置されている。椅子は折り畳み式の薄い椅子が500席、椅子のボリュームがないぶん音響的には貢献しているかもしれない。下手な公共ホールより響きがよくて立派。さらに今回は、チケットが千鳥格子状に販売され、前後左右空席でゆったりと。

 横浜18区コンサートは、みなとみらいホールが大規模改修のため長期間休館となっており、その間、横浜市内各区のホールや公会堂等の文化施設を巡って開催する企画。メインプログラムは協奏曲を室内版に編曲し、ソリストとオケメンバーの弦楽五重奏団が共演するという趣向。昨年度がⅠ期として5プログラムを10区10公演、今年度がⅡ期として4プログラムを8区8公演行う。昨年度は一度も聴いてないが、面白そうなので今年度はできるだけ通ってみようかと。
 
 さて、最初は、吉松隆の「アトム・ハーツ・クラブ組曲 第1番」。
 作者自身が軽妙な作品解説を書いているので、そのまま引用しておく。
 <この曲、フル・ネームを「ドクター・タルカスズ・アトム・ハーツ・クラブ・デュオ」(直訳すれば「タルカス博士の原子心倶楽部二重奏曲」)と言う。
 これはもちろん、クラシックからロックンロールまでの人類の音楽全てを混合させたビートルズの傑作アルバム「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(直訳すると「ペッパー軍曹の傷心倶楽部楽団」)のもじり。これに70年代プログレッシヴ・ロックの名作であるエマーソン・レイク&パーマーの「タルカス」とピンクフロイドの「原子心母(アトム・ハート・マザー)」そしてイエスの「こわれもの」を加え、それをさらに手塚治虫の「鉄腕アトム」の十万馬力でシェイクしたのが、この作品である。
 全体は4つ楽章からなり、
 1は変拍子が全開のプログレ風アレグロ。
 2はちょっとイヤラシめのバラード風アンダンテ。
 3はつま先立ちでコソコソの逃げるコキュ(間男)風のスケルツォ。
 そして4はスラップスティック(ドタバタ)風ブギウギ。
 1997年夏にモルゴア・カルテットのために弦楽四重奏版として作曲。>

 なんのこっちゃ? ハチャメチャな解説だね。
 モルゴーア・クァルテットは、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を演奏するため、30年前に結成された弦楽四重奏団だが、Vn.1の荒井英治がプログレッシヴ・ロックのオタクなので、生でも音盤でもプログレのアレンジ作品をたびたび取り上げている。

 今日は本家本元の演奏ではないし、弦楽五重奏版。もっとも「アトム・ハーツ・クラブ組曲」は、オリジナルの弦楽四重奏版から派生したギター・デュオ、サクソフォン・カルテット、ピアノ・トリオ、弦楽オーケストラなどのための異稿があるから、弦楽五重奏であってもおかしくはない。弦楽合奏用の楽譜だろう。
 熱血漢の水谷晃のリードによるプログレ風吉松作品である。作者の能書きはともかく、演奏は情熱的でカッコいいの一言。この「アトム・ハーツ・クラブ組曲」には第2番もある。これも生で是非聴いてみたい。

 次いで、同じく弦楽五重奏によるK.546の「アダージョとフーガハ短調」。
 もともとはバッハに触発されて書いた「2台のクラヴィーアのためのフーガ K.426」を編曲し、アダージョを追加したもの。三大交響曲が書かれたモーツァルト32歳の作品。昔からカラヤンやクレンペラーなどが弦楽合奏で録音していたので、よく知られている。
 5、6分の短い曲ながら、東響メンバーによる「アダージョとフーガ」は鋭い切り込みと激しい気迫。アポロンとしてのモーツァルトではない、デモーニッシュなモーツアルトが立ち現れた。

 広瀬さんのピアノソロと弦楽五重奏によるベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」が本日のメイン演目。
 プログラムノートによれば編曲はヴィンツェンツ・ラハナー。ラハナーはシューマンと同年代のロマン派の作曲家だという。
 弦楽五重奏の曲を聴いたあとピアノが加わると、音の世界が非常にカラフルになる。広瀬さんの音色が多彩で美しい。協奏する弦楽五重奏は一目でそれぞれが何をしているかよくわかる。とくに第2ヴァイオリンとヴィオラの働きが新鮮に聴こえる。Vn.2は、あるときはVn.1と一緒になって主旋律を歌うかと思えば、Va.と会話しながら内声部を補強する。Va.はVn.2との会話以上にVc.と連携し低音部を担う。視覚的にも聴覚的にもそれが面白く、しばらくはそのことに注意が向いていたが、曲が進むうち音楽にどんどん引き込まれ、深い感動が訪れてきた。
 「ピアノ協奏曲第4番」は第1楽章から第3楽章まで”あこがれ“を音にしたものだと思う。広瀬さんと東響メンバーの演奏は、痛切にそれを感じさせてくれる音楽となっていた。

 アンコールは「夏の名残のバラ」、これは「庭の千草」ともいわれる歌ではなかったか。

2022/4/30 横島勝人×青山SO チャイコフスキー交響曲第4番2022年04月30日 19:36



青山シンフォニーオーケストラ 2022年特別演奏会

日時:2022年4月30日(土) 14:00開演
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
指揮:横島 勝人
演目:ワーグナー/
   「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲
   ハチャトゥリアン/「仮面舞踏会」組曲
   チャイコフスキー/交響曲第4番


 招待していただいたので、汐澤安彦を久ぶりに聴く予定だった。しかし降板。横島勝人に代わった。
 わが国の長老指揮者といえば、外山、小澤、汐澤、飯守、小林、秋山あたりか。先生方には頑張ってほしいけど、年齢相応で故障も増えてくる。健康だけは気を付けていても如何ともしがたいところがある。

 青山シンフォニーオーケストラは青壮老が揃い、30年以上の歴史を有するアマオケだから、各パートに白髪の、勤め人でいえば定年を過ぎたと思しき演奏者たちが、溌剌と弾いて、吹いて、叩いていた。
 今回の演目は、いずれも管楽奏者にとっては魅力的な曲ばかりで、管楽器の美味しい音を活かして書かれている。それぞれ適度なソロもある。音量も全力で出すよう指示されている。
 長年、汐澤さんに鍛えられたオケだから、音はデカいしリズムのキレがある。汐澤さん以外の指揮者であってもそれなりの合奏を聴かせてくれる。
 まぁ、この演奏会は、聴衆よりも演奏者にとっての快楽ではなかったかしら。