2023/10/1 スダーン×東響 モーツァルト「K.136」「パリ」「ハフナー」 ― 2023年10月01日 15:42
東京交響楽団 モーツァルト・マチネ第54回
日時:2023年10月1日(日) 11:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ユベール・スダーン
演目:ディヴェルティメント ニ長調 K.136(125a)
交響曲第31番 ニ長調 K.297(300a)「パリ」
交響曲第35番 ニ長調 K.385「ハフナー」
「モーツァルト・マチネ」シリーズの創設者であるユベール・スダーンが里帰り。5年ぶりだという。ニ長調の曲を3曲披露した。
スダーンは一時期、高椅子に座って指揮をしていた。健康を心配していたが、今日は最盛期に戻ったように勢いのある指揮ぶり。快速でノン・ビブラート。管は現代楽器、ティンパニはバロック。若々しく歯切れのいい音楽だった。
東響のコンマスはゲストの関朋岳。まだ20代、素晴らしい才能の持ち主、合奏においてもコンマスの音だけを聴き分けられるほど。
「K.136」、ディヴェルティメントと名づけられているが、ザルツブルク・シンフォニー1番と呼ばれることもある。ディヴェルティメントというよりは急―緩―急、3楽章形式のイタリア式シンフォニーとしたほうがしっくり来る。
モーツアルト16歳の、一陣の風が吹き抜けるような作品。爽やかでありながら喜びと悲しみが綯交ぜになって湧き出るような、まごうかたなき天才の証。それを再現した演奏。
「パリ」は管楽器が加わって一段と華やかに。就職活動中の作品のためか外面的な効果を施し大衆受けを狙ったところがあって、モーツァルトにしては珍しく無理している。演奏会は大成功だったようだが、就職はあえなく失敗して失意の帰郷となる。パリ旅行以降、モーツアルトの作品はより陰影深く凄みを増して来る。
今日の第2楽章のアンダンテは聴きなれない旋律だった。初稿を用いたようだ。第3楽章はフガート風に展開する。先の「K.136」の最終楽章もフーガが使われていた。ちょっとびっくり。
モーツァルトは「ハフナー」の楽譜を父に送るに際して「最初のアレグロは火のように激しく突き進み、最後の楽章はできる限り速く演奏しなければなりません」、と書き添えた。今日のスダーン×東響の演奏はまさにこの通り。
モーツアルトの交響曲でクラネットが用いられるのは、「ハフナー」と「パリ」と「40番」のみ。「ハフナー」の第2楽章と第3楽章では、このクラリネットとフルートがほとんど沈黙していることに今日はじめて気づいた。
アンコールは「パリ」の第2楽章をもう一度演奏して終演となった。
ミューザ川崎のHPにはスダーンのメッセージが掲載されている。そのまま引用しておこう。
<親愛なる東響の音楽ファンの皆様
私が愛するオーケストラとのコンサートをスタートしてちょうど25年になります。私は今、久しぶりに家族のもとを訪れたような気持ちです。最初の瞬間から東響の音楽家たちの温かさを感じ、今でも彼らに会うたびに大きな幸せを感じています。最初はゲストとして、その後、首席客演指揮者、音楽監督、そして今は桂冠指揮者として。私たちの関係は、音楽とお互いに対する尊敬の念で成り立っています。
モーツァルトはどのオーケストラにとっても音楽的資産となるものですので、共に始めたモーツァルト・マチネが、今でも東響とミューザの年間プログラムとして続いていることを、とても誇らしく思っています。東響はそういう文化を持ったオーケストラであり、他の多くの作曲家を演奏するための音楽的な柱でもあります。
そして、このニ長調プログラムを、私の親愛なる“通”のお客様のために演奏することを楽しみにしています。これからも、末永く大好きなオーケストラと共にあらんことを。 ユベール・スダーン>
ネックスピーカー ― 2023年10月03日 09:00
邦画のセリフが聴きとれないことが多くなった。洋画は字幕があるからあまり不自由を感じないけど。音楽も再生装置を経由したものは個々の楽器が判別し辛い。小さな音は旋律を追うことが出来ない。音盤や放送、配信に向き合うのが億劫で、生演奏以外はほとんど聴かなくなってしまった。
歳相応だから仕方ないものの不便といえば不便。ヘッドホーンやイヤフォンは外部の音が遮断され、耳に圧迫感があって長時間使用するのは難しい。で、ネックスピーカーを検討してみた。U字型をした首掛けスピーカーである。
ネックスピーカーは、もともとSONYのアイデアだったと思う。いまでは家電、オーディオ専門、スピーカー専業、PC周辺機器メーカーが多くの製品をつくっている。
もちろん高音質なものが望ましいが、重量や機能や装着感、そして肝心な価格を含めて判断しなければならない。結局、ネットでの評判や店舗での見聞を経て、PC周辺機器メーカーSANWA SUPPLYの400-SP090に決めた。
重さは175gでネックスピーカーのなかでは中程度、装着してもあまり負担にならない。10時間ほどの連続再生が可能でバッテリーの容量もまずまず。モバイル用の充電器で給電しながら聴くこともできる。
音質は低音がやや弱く音の迫力もそれほどでもないが、各音域ともクセがなく聴き疲れしない。人の声はよく聴きとれる。弱音での楽器の判別も容易になった。音漏れは当たり前にせよ耳元でスピーカーが鳴る仕組みだから音量を大きくしても知れている。
防水仕様、低遅延コーディックを内蔵、マイクもついているからハンズフリー通話やテレワークにも対応している。もっともこれらの機能を活用することは殆どないが。
YouTubeや録画した音楽番組の視聴が楽しくなった。邦画も躊躇なく観ることができる。今のところ大きな不満はなく快適である。
2023/10/4 直江智沙子 ヴァイオリン・リサイタル ― 2023年10月04日 14:34
神奈川フィル “ブランチ”ハーモニー inかなっく
日時:2023年10月4日(水) 11:00 開演
会場:かなっくホール
出演:ヴァイオリン/直江 智沙子
ピアノ/河野 紘子
司会/榊原 徹
演目:エルガー/朝の歌 op.15-2
クライスラー/Tenpo di Minuetto
パラディス/シチリアーノ
マスネ/タイスの瞑想曲
フォスター/金髪のジェニー
フランク/ヴァイオリンソナタ
今年の神奈川フィル“ブランチ”ハーモニーは、この直江智沙子のリサイタルのみを聴くことにした。神奈川フィルの顔といえば断トツで石田泰尚だが、第2ヴァイオリン首席の直江智沙子やオーボエの古山真里江、ホルンの坂東裕香など若い女性奏者の活躍も目覚ましい。
注目はフランクの「ヴァイオリンソナタ」。その前に小曲を披露。いずれも耳慣れた穏やかな曲で、平日昼の雨のコンサートにお似合い。直江さんのヴァイオリンは艶やかでしっとりとした音色、まったくガサガサしたところがなく滑らかで心地よい。
途中、進行の榊原さんとセカンドヴァイオリン談義が交わされる。第2ヴァイオリンの役割は、第1ヴァイオリンが弾きやすいように支えること、そして、ヴィオラやチェロ、コントラバスに受け渡して行くこと、それが楽しくてやりがいがある、と直江さん。弦合奏におけるコミュニケーションの中心的存在ね、と榊原さん。
最後にフランクの「ヴァイオリンソナタ」。フォルテや速いパッセージでもヒステリックにならない。温厚で美音を保って弾き続ける。それが面白くないかというとそうではない。効果を狙うような音づくりと違い、確かな技巧によって音楽がじわっと立ち上がってくる。第2楽章の終わりで拍手が起こるほどの演奏だった。
以前、新日フィルのビルマン聡平のリサイタルでも感じたが、セカンドヴァイオリンにこれほどの名手がいてオケを支えている。オケメンバーそれぞれの力を引き出し、音楽家たちをまとめあげることのできる指揮者であれば、時としてオーケストラがとんでもない演奏を生み出すのは当たり前のことだ、と改めて納得した次第。
直江さんもピアノの河野さんも同じくらいの背格好。2人とも淡く落ち着いた色調のドレスを纏い、登場したときから舞台が明るくなった。そのまま温かい雰囲気の1時間を過ごした。直江ファンも集まっていたようで会場はほぼ満席だった。
東響の来期プログラム ― 2023年10月05日 11:43
おととい、東京交響楽団の2024/2025シーズンのラインナップが発表され、今日、郵送で案内が届いた。音楽監督ジョナサン・ノットは11シーズン目を迎える。
全体に地味目のプログラムで大きな驚きはないが、川崎定期の会員は継続する。シーズン全5公演で、そのうちノットが2回振るほかサカリ・オラモ、ウルバンスキ、オスモ・ヴァンスカが指揮をする。
https://tokyosymphony.jp/pc/news/news_6124.html
ほかに東響とタイアップしたミューザ川崎主催の名曲全集が年10公演ある。東京定期との同一プログラムや、スダーンのベートヴェン、ウルバンスキの「展覧会の絵」、ロベルト・アバドのシューマンとベルリオーズなど7、8公演は聴きたいものがあるから、名曲全集については久しぶりに年間セット券を手配しようか、と考えている。
今年度、新日フィルの定期会員に復帰したものの、やはり錦糸町までは遠い。来期、新日フィルについては会員を継続しないので、その代替としても名曲全集はちょうど良い。
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/news/detail.php?id=1835
なお、特別演奏会の案内に「サロメ」「エレクトラ」と続いてきたR.シュトラウス第3弾となるオペラ公演が掲載されていない。仮に「ばらの騎士」ともなれば大ごとだ。鋭意調整中なのであろう。
東フィルの来期プログラム ― 2023年10月06日 08:50
東フィルの2024シーズンのプログラムが発表になっている。東フィル定期のスタートは1月である。年間8プログラムを各3公演、オーチャード、オペラシティ、サントリーホールで開催する。
https://www.tpo.or.jp/concert/2024season-01.php
定期演奏会は、名誉音楽監督のチョン・ミョンフンが3プログラム9公演、首席指揮者のアンドレア・バッティストーニが2プログラム6公演、あとは1プログラム3公演ずつミハイル・プレトニョフ、ダン・エッティンガー、出口大地が受け持つ。いつもの指揮者陣である。
チョン・ミョンフンは「トゥランガリーラ交響曲」や演奏会形式の「マクベス」を、バッティストーニは「カルミナ・ブラーナ」やマーラーの「交響曲第7番」などの大曲を振る。
ここ数年、東フィルでは首席指揮者バッティストーニの話題が少なく、チョン・ミョンフンのほうがオケの看板になっているようだ。そういえば前任のダン・エッティンガーの任期後半も影が薄かった。
楽団における指揮者の肩書は、音楽監督、芸術監督、芸術顧問、首席指揮者、常任指揮者、正指揮者、首席客演指揮者、特別客演指揮者、客演指揮者、桂冠指揮者、桂冠名誉指揮者、終身名誉指揮者などなど、呼称が数限りなくあるのに加え、同じような名称であっても楽団によって役割が微妙に違うようだ。外部からみると複雑怪奇というか、どういった責任と権限を持っているのかよく分からない。
チョン・ミョンフンは名誉音楽監督と称されているが、働きぶりからすると一般にイメージするような名誉職ではなさそうだ。首席指揮者以上の位置づけで、屋上屋を重ねているような気もする。まぁ、聴き手にとっては、贔屓の指揮者さえ登場してくれれば、肩書など頓着しないのかも知れないけど。
東フィルの演奏会はしばらくご無沙汰している。たまには東フィルの演奏会へ行きたいが、定期公演はサントリーホールにおけるチケットが取り辛いこともある。「午後のコンサート」から選ぶか、「フェスタサマーミューザ」などの機会をとらえて聴いてみようと思っている。