花と緑2023年05月04日 09:24



 3月に沈丁花の花が終わって、そのあと次々と、海棠、満天星、姫空木の花が咲き、いま、匂蕃茉莉、紫蘭、薔薇、勿忘草、天竺牡丹が満開となった。
 定家葛にもちらほら白い十字の花がつきだした。残念ながらひとり白丁花は開花しない。
 去年うまくいかなかった芍薬は蕾がふたつみっつ大きくなってきており、今年こそ咲いてくれるかもしれない。
 これら花々に足並みをあわせるように、樹々の山法師、月桂樹、西洋柊などは新緑が映え緑がまぶしい季節となってきた。そういえば、今日は「みどりの日」。

シャクヤク2023年05月10日 16:38



 三年目にしてようやく芍薬(シャクヤク)の花が咲いた。直径十センチほどの花が一輪,あと開花しそうな蕾がふたつ。硬い蕾はすべて摘み取った。去年は咲かないまま枯れてしまったが、今年は上手くいった。

 品種は「サラベルナール」、略して「サラベル」。ボリュームのある淡いピンクの八重咲で、甘い華やかな香りを放っている。19世紀末から20世紀初頭に活躍したフランスの大女優サラ・ベルナールにちなんで名づけられたという。

 そうそう、女優サラ・ベルナールは、作家エドモンド・ロスタンとも親しかった。俳優コクランの依頼で書いた『シラノ・ド・ベルジュラック』は、サラ・ベルナールがロスタンにコクランを紹介したことがきっかけだった。この辺りの事情は映画『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』にもきっちり描かれている。

 エドモン・ロスタンはサラ・ベルナールのために幾つか戯曲を書いた。『遠国の姫君』などは彼女の当り役。また、この芝居はアール・ヌーヴォーを代表する画家のアルフォンス・ミュシャが舞台美術、衣装をデザインしている。調べてみるとなかなか興味深い。

 芍薬の「サラベル」は、専門家の手にかかるとニ十センチ以上の大輪になるそうだが、素人でここまで育てるのは難しい。今はまだ茎が頼りないほど細くて花を支えきれない。もう数年かけて株を大きくする必要がありそうだ。それでもこの花を愛でていると、美人を形容する「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」といった言葉に納得すること頻りである。

2023/5/13 沼尻竜典×新日フィル シベリウス「Vn協」とメンデルスゾーン「讃歌」2023年05月13日 20:47



新日本フィルハーモニー交響楽団
#649〈トリフォニーホール・シリーズ〉

日時:2023年5月13日(土) 14:00開演
会場:すみだトリフォニーホール
指揮:沼尻 竜典
共演:ヴァイオリン/ユーハン・ダーレネ
   ソプラノ/砂川 涼子
   メゾ・ソプラノ/山際 きみ佳
   テノール/清水 徹太郎
   合唱/栗友会合唱団、新国立劇場合唱団
演目:シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47
   メンデルスゾーン/交響曲第2番 変ロ長調 op.52
           「讃歌」


 同日同時間に新日フィルと神奈川フィルの定期が重なった。新日フィルは15日にもサントリーホールにおいて同一プログラムの公演があるため、振替えを考えたけど、そうなると、明日の「エレクトラ」を含め3連荘となる。ちょっと体力的に自信がない。したがって、大植×神奈川フィルを別日の公演に振替えることにした。
 それにしても定期公演日に監督が隣接県で他のオケを振るのは勘弁してほしい。とはいっても、シベリウスとメンデルスゾーンの両演目、魅力的ではある。

 シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」の独奏者ダーレネは、まだ20代前半。北欧スウェーデンの出身、若者らしく白いシャツ姿で元気よく登場。
 隣国フィンランドのシベリウスは得意とするところだろう。第1楽章の珍しくも中間部に置いたカデンツァの技巧や、第2楽章の冷え冷えとした抒情、最終楽章の弾むような高揚感など、たしかなテクニックをもっている。沼尻さんもオーケストラの捌き方にそつがなく、終始気持ちのいいサポートだった。
 ソリストアンコールは、オケの弦楽器奏者と一緒に、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」。

 「讃歌」は、むかし音盤で時々聴いたが、実演は初めて。プログラムノートを読むとグーテンベルクの活版印刷発明400年を祝して作曲したものだという。
 第1曲はオーケストのみによるシンフォニア、3つの部分に分かれていて、序奏+アレグロ、スケルツォ楽章、緩徐楽章となっている。第2曲から第10曲の終曲までは合唱とソプラノ、メゾ、テノールの独唱が加わる。構成は「第九」のフィナーレ楽章を長大なカンタータに置き換えたようなものだ、カンタータの部分は旧約聖書の「詩編」の歌詞を編纂したものらしい。
 沼尻さんは、オペラに長けているだけあって、管弦楽、合唱、独唱をコントロールして、調和のとれた音楽をつくる。崇高な響き、愁いをおびた歌い回し、劇的な表情など多種多様な表現を駆使する。あまりポピュラーな曲ではないものの、馴染みのない曲でも面白く聴かせる手腕にはいつもながら感心する。
 砂川涼子さんは、歌唱、容姿とも相変わらず美しい。山際きみ佳さんと清水徹太郎さんも素晴らしい声、びわ湖ホール声楽アンサンブルのソロ登録メンバーとある。芸術監督であった沼尻さんのお気に入りでもあるのだろう。
 オケは14型、コンマスは崔文洙、隣に伝田正秀。管楽器では序奏からトロンボーン3人が目立っていたが、クラリネットのペレス・ミランダ、ファゴットの河村幹子さんが良い音を出していた。ホルンの日髙剛さんは教育者としても有名な人で、さすが美しいソロを聴かせてくれた。

2023/5/14 ノット×東響 オペラ「エレクトラ」2023年05月14日 20:40



東京交響楽団 特別演奏会 
 R.シュトラウス/オペラ「エレクトラ」
        (演奏会形式、全1幕)

日時:2023年5月14日(日) 14:00開演
会場:サントリーホール 大ホール
指揮:ジョナサン・ノット
演出監修:サー・トーマス・アレン
出演:エレクトラ/クリスティーン・ガーキー 
   クリソテミス/シネイド・キャンベル=ウォレス
   クリテムネストラ/ハンナ・シュヴァルツ
   エギスト/フランク・ファン・アーケン
   オレスト/ジェームス・アトキンソン
   オレストの養育者/山下浩司
   若い召使/伊藤達人
   老いた召使/鹿野由之
   監視の女/増田のり子
   第1の侍女/金子美香
   第2の侍女/谷口睦美
   第3の侍女/池田香織
   第4の侍女・クリテムネストラの
    裾持ちの女/髙橋絵理
   第5の侍女・クリテムネストラの
    側仕えの女/田崎尚美
   合唱/二期会合唱団


 去年の衝撃の「サロメ」から半年、R.シュトラウスのオペラ特別公演第二弾「エレクトラ」である。
 狂気と憎悪の物語にして、これを演奏するのも歌うのも狂気の沙汰と思えるほどだが、オケも歌手陣もパワー全開、今回も圧倒的な名演というほか言葉がない。
 終演後の会場は熱狂の嵐だった。

 タイトルロールのクリスティーン・ガーキーは最初から最後まで出ずっぱりで、歌唱力も演技も桁違い。強靭な声で歌い続け、復讐のあとの舞踏、所作などは鳥肌がたつほど。妹のシネイド・キャンベル=ウォレスの声も強い、ガーキーとがっぷり4つに組んで負けていない。母のハンナ・シュヴァルツは久しぶりに名前を聞いた。味わい深い低音と演技はいまもって健在。弟のジェームス・アトキンソンは意思の強さというには美声が上回っていて、ガーキーとの甘美な二重奏で涙が止まらなくなってしまった。母の愛人であるフランク・ファン・アーケンの出番はわずかながら、その声と演技はしっかりとした印象を残した。端役の召使、侍女といった歌手たちも、普段なら主役を演じる人たちばかりだから、その水準は推して知るべし。何という豪華な。よくもまあ、これだけの歌手を集めたものだと感心する。
 演出は「サロメ」の時と同じサー・トーマス・アレン。舞台前面の狭いスペースを使って「サロメ」以上に細かな演技をつけていた。

 オケは120人の大編成というからピットには入らないだろう。事前の情報によるとヴァイオリンとヴィオラが各3パート、チェロ2パートにコントラバス。管楽器は4管編成という具合。
 コンマスは小林壱成、コンマスの隣はゲストの小川響子だった。Vnの第2パートのトップにはグレブ・ニキティン。チェロのトップは伊藤文嗣、横に笹沼樹が並んでいた。
 東響の演奏の精度は高く、集中度も気合も半端ない。R.シュトラウスが完成させた複雑で困難な管弦楽法を解きほぐし、場面場面の情景を映し出すように演奏しきった。

 そして、もちろん今回の最大の主役は指揮者のノット。その才能にあらためて感服した。演奏会を聴いた、歌劇を観た、というよりは、とてつもない体験をした、といったほうが正確かも知れない。今日の全1幕を言葉で語るのは難しい。

2023/5/21 ノット×東響 マーラー「交響曲第6番」2023年05月21日 19:31



東京交響楽団 名曲全集 第187回

日時:2023年5月21日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ピアノ/小埜寺美樹
演目:リゲティ/ムジカ・リチェルカータ 第2番
   マーラー/交響曲 第6番 イ短調「悲劇的」


 指揮者、楽団全員が舞台に登場してから照明が落とされ、ピアノにスポットライトがあたる。
 リゲティの全11曲から成るピアノ・ソロ「ムジカ・リチェルカータ」のなかから第2番。小埜寺美樹が3音のみを使って奏でる。
 3分ほどのピアノ・ソロが終わると舞台全体が明るくなり、そのままマーラーの「交響曲第6番」が始まった。
 ゆっくりと柔らかく、あまりのさり気ない歩みに意表をつかれる。第2楽章には歯切れのいいスケルツォを置いた。アダージョは甘美な旋律、彫の深い表現。最終楽章に最大限のエネルギーを投入し、大きなクライマックスを築く。ハンマーは手稿を根拠に5回叩いた。
 ノットのマーラーは、たしかに斬新で、部分部分はすこぶる面白いのだけど、曲をまるごと聴いたあとの感銘が何故かおぼろげである。

 ノットは「エレクトラ」の公演前に読売新聞のインタビューを受け、それが記事になっている。
―――指揮者には二つのタイプがあると話す。一つは建築家タイプで、対象をじっくり分析し、自分の流儀で綿密に構築していく。もう一つはサーファーのようなタイプで、やって来る波を素早く見極め、絶妙なバランス感覚で乗りこなす。「私はサーファー・タイプ。自分が乗る板、つまりオーケストラの特性を熟知し、音楽という波に乗って物語を紡いでいく」―――
 R.シュトラウスやモーツァルト、ブルックナーなどは、ノットの即興性が曲全体の感銘を深く確かなものにしてくれることがある。しかし、ベートーヴェンがその典型で、マーラーやショスタコーヴィチなども、演奏の即興性が構築性を凌いでしまうと、曲のもつメッセージがうまく伝わって来ないことがある。
 今日のマーラーの「交響曲第6番」は、やはり、そうでなかったか、と思う。

 マイクが林立していた。ニコ動の配信があり、下のサイトで視聴可能だが、それにしてはマイクの数が多い。CDの録音用かもしれない。

https://live.nicovideo.jp/watch/lv340528461