2023/3/4 小泉和裕×神奈川フィル シューマン「春」、レスピーギ「ローマの松」 ― 2023年03月04日 22:08
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 定期演奏会第384回
日時:2023年3月4日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:小泉 和裕
演目:シューマン/交響曲第1番変ロ長調Op.38「春」
レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」
レスピーギ/交響詩「ローマの松」
シューマンの交響曲「春」は、“待ちわびる春”の時節に相応しい。これにレスピーギのローマ三部作からの2曲を合わせるという、ちょっと変わったプログラム。
交響曲の標題は作者自らでなく、あとから別人によって命名されることが多いけど、シューマンの「交響曲第1番」は、自身が「春の交響曲」と呼んだ。最終的には削除されたものの、各楽章にも「春のはじまり」「夕べ」「楽しい遊び」「たけなわの春」とタイトルをつけていた。クララと結婚をした翌年の、シューマン最初の交響曲。短期間で作曲したものらしい。
序奏でトランペットとホルンのファンファーレが鳴る。この動機が曲を支配する。開始楽章はエネルギーに満ちているが、明るいばかりではない。中間部あたりの弦や木管に翳りがさす。ラルゲットは少し寂しい気配、でもロマンチック。終盤のトロンボーンのコラールが印象的。スケルツォは情熱的、ホルンが活躍し、珍しくトリオがふたつある。最終楽章は舞曲風の主題、短調の部分が頻発するせいでどことなく暗い。
それにしてもシューマンのオーケストレーションは、各楽器を重ねて、また重ねる。第2楽章のラルゲットにおける木管などは、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの音色が判然としないほど。ずっと一緒に吹き続ける。ご丁寧にも背後ではホルンが途切れなく鳴っているからよけい木管が窮屈になる。これでは演奏効果に問題があろう。演奏者にとっては労多くして報われない。しかし、この響きがシューマンらしくて堪らないという人がいる。
そして、交響曲指揮者である小泉さんの手にかかると、小細工は一切ないのに、各楽章の部分部分に発見があり、曲が終わってみると、ずっしりと重みのある作品を聴いたという充実感で満たされる。神奈川フィルの各パートも、小泉さんの要求に反応することで、その努力は十分に報われたと思う。
休憩後、レスピーギのローマ三部作のうちの2曲。ローマ三部作とはいっても、レスピーギは最初から連作を意図したものではなく、結果として三部作になってしまったということらしい。今日は一作目の「噴水」と二作目の「松」。ちなみに三作目の「祭り」は交響楽団での演奏機会は少なく、近年ではむしろ吹奏楽団での重要なレパートリーとなっているようだ。
「ローマの噴水」は、ローマに2000あると言われる噴水から4カ所を選び夜明けから夕暮れまでを音楽で描写したもの。レスピーギを聴くと、塗りこめられたようなシューマンの音との隔たりに吃驚する。一転して光が溢れ、色彩が噴水の水しぶきのように迸り、暗闇から徐々に陽がさし、陽が落ちるまでを描いていく。シューマンとレスピーギの管弦楽法の極端な違い、音の対比を体感しただけで十分に満足してしまった。
「ローマの松」はオケのメンバーが数人入れ替わって開始された。
「ボルゲーゼ荘」の出だしから音がよく鳴り、賑やかな雰囲気に包まれる。ホルンは「春」でトップの豊田さんがアシストに回り、坂東さんが1番を吹いた。最近、ホルンの前半後半の配置はこの形が多い。豊田さんも立派な首席だが、坂東さんの音色は魅力的だ。トランペットは「ローマの噴水」でトップを吹いた林さんが舞台裏へ。舞台上には三澤さん。「カタコンべ」の不気味な響きのなか、舞台袖から林さんが朗々と歌う。「ジャニコロ」では、クラリネットの亀居さんが美しいソロを聴かせてくれた。亀居さんの隣にはシティフィルの須東さんが座った。須東さんは昨年夏のシティフィル公演で、亀居さんと同じ場面をやはり見事に吹いたのだった。コンマスは客演の佐久間聡一さん。トランペットやクラリネットのソロに笑みをみせながら皆をリードしていた。クライマックスの「アッピア街道」では、オルガン横に東響の澤田さんがバンダで参加、読響の田中さん共々強力な援軍だった。
神奈川フィルは若々しく、金管が良い音で鳴る。小泉さんの設計は奇を衒うことなく正攻法、音響の具合も音楽自体の歌いまわしも申し分なく、「ローマの松」の名演がまた加わった。
終演後、小泉さんは拍手で何度も舞台に呼び戻されていたが、途中、この3月で10年の契約期間満了で退団するチェロ首席の門脇さんと2、3言葉を交わしていた。オケのメンバーの入退団は常とはいえ、門脇さんが去るのは寂しい。この先、客演であっても神奈川フィルへときどき参加してくれることを期待したい。