2025/5/10 フリッチュ×神奈川フィル ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」「交響曲第1番」2025年05月10日 19:47



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第405回

日時:2025年5月10日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:ゲオルク・フリッチュ
共演:ピアノ/ミッシェル・ダルベルト
演目:ブラームス/ピアノ協奏曲第1番ニ短調Op.15
   ブラームス/交響曲第1番ハ短調Op.68


 フリッチュは前回2023年の神奈川フィルとの共演が初来日、好評に応えて再来日となった。旧東ドイツ出身の歌劇場指揮者である。
 前回がブラームスの「交響曲第2番」で今回が「交響曲第1番」、併せて、ダルベルトのソロで「ピアノ協奏曲第1番」という魅力的なプログラム。

 「ピアノ協奏曲第1番」はブラームスが20代半ばで書いた若き日の代表作。これを今年70歳のフランスの名匠が弾く。ダルベルトは明るめの音色ながら重量感があり切れ味も鋭い。何より歌心があって長大なこの曲を最後まで飽きさせない。
 冒頭、篠崎史門のティンパニのトレモロと低音楽器による持続音を背景に、ヴァイオリンとチェロのテーマが力強く重なる。まるで交響曲の開始のよう。ダルベルトは腕を抱えたまま鍵盤の前で沈思黙考。しばらくしてオケの激情は弱まり、ピアノが悲哀に満ちた表情をもって語りかけて來る。上昇音階による憧れに満ちた主題が次々と姿を変え発展していく。途中、何度も繰り返されるホルンの優しい響きは「交響曲第1番」と同様、クララへの呼びかけのように聴こえる。今日のホルンのトップは豊田実加。
 アダージョは穏やかで幻想的で慈愛に満ちている。鈴木、岡野のファゴットの音階が印象的。シューマンへの哀悼とクララへの憧憬が複雑に絡み合っているような気がする。ピアノ協奏曲というよりは交響曲のなかにピアノ・パートがあって、ダルベルトのピアノがオケをリードしているみたいだ。
 終楽章は上昇音型の主題が活気あるピアノで独奏されたあとオーケストラに引き継がれる。主題は徐々に緊張感を高め、カノン風の勢いを維持しながら頂点に向かって行く。劇的なカデンツァを経て全合奏で終結した。
 ソリストアンコールはブラームスの恩師シューマンの穏やかで繊細な曲。「子供の情景」より“眠っている子供”“詩人のお話”と掲示されていた。

 「交響曲第1番」は「ピアノ協奏曲第1番」を完成したころに着想され、20年の労苦を経て交響曲として結実、ブラームスは43歳になっていた。
 フリッチュはゆったりと構築して行く。大袈裟にアクセントをつけないし、派手な演出も施さない。総じて淡白でありながら何とも言えぬ滋味がある。
 ただ、過去に絶対的で決定的ともいうべき演奏を聴いた幾つかの曲は、何十年経ってもその演奏が耳に残っている。結局はそのことで今を楽しめない、心の底から満足することができない。不幸といえば不幸だが、至高の演奏会体験の報いだから仕方ない。ブラームスのわずか4曲の交響曲のなかで、この「第1番」と「第4番」はそうした曲である。

 前後半とも弦は14型、コンマスは元読響の小森谷巧がゲストだった。小森谷は現在も愛知室内オケや仙台フィルのコンマスでまだまだ元気。オーボエのトップには新日フィルで長く首席を務めた名手・古部賢一が座っていた。

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