2025/3/8 ライスキン×神奈川フィル チャイコフスキー「悲愴」2025年03月08日 21:10



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 みなとみらいシリーズ定期演奏会 第403回

日時:2025年3月8日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:ダニエル・ライスキン
共演:ヴァイオリン/MINAMI
演目:ドホナーニ/交響的小品集Op.36
   バルトーク/ヴァイオリン協奏曲第1番
   チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調
            Op.74「悲愴」


 ライスキンと神奈川フィルは二度目の顔合わせ。前回は3年ほど前、みなとみらいホールが改修中のため県民ホールでの定期演奏会だった。「モルダウ」とチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」、それにドヴォルザークの「交響曲第8番」というプログラムで、珍しく当時の感触をはっきり覚えている。
 ライスキンはサンクト・ペテルブルク生まれのロシア人だが、故郷でヴィオラを専攻した後、西側に渡り指揮者に転身した。スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務め、ヤナーチェク・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督にも就任している。一昨年にはスロヴァキア・フィルとの来日公演があった。

 プログラムの最初はドホナーニの作品。ドホナーニといえば我々の世代はすぐに指揮者のクリストフ・フォン・ドホナーニを思い浮かべるが、「交響的小品集」は、その祖父であるハンガリーのピアニスト兼作曲家であるエルンスト・フォン・ドホナーニの手になるもの。現在ではほとんど忘れられた作曲家の一人だろう。
 「交響的小品集」は、タイトル通り5曲の小品が集められている。ブラームスの「ハンガリー舞曲」風の民族色豊かな音楽かと思いきや、まるでファンダジー映画の劇伴音楽のような楽しい曲。ライスキンと神奈川フィルは上々のスタートをきった。

 次いで、バルトークの「ヴァイオリン協奏曲第1番」。プログラムノートによると、バルトークが20代のとき、想いを寄せていたヴァイオリニストに献呈した曲。なのにどういうわけか彼女は演奏しないまま封印し、バルトークも彼女も亡くなったあと、彼女の遺品の中から発見されて陽の目をみた作品だという。
 楽章はアンダンテとアレグロの2楽章、これからして変則的な構成。曲は全音音階を多用しているせいもあってなかなか調性がつかめないが、アンダンテは夢見るような楽章、独奏ヴァイオリンからはじまりオケ全体に音がだんだんと広がっていく様が美しい。アレグロはソロとオケとの掛け合いがスリリングで、MINAMIの弓使いなど人間業とは思えないほどのスピードと動き。難解な楽曲でありながら情感あふれる演奏を展開した。
 ソリストアンコールはアレクセイ・イグデスマンの「ファンク・ザ・ストリング」。これがまたキレキレ、会場は沸きに沸き、オケのメンバーもみな拍手喝采。MINAMIは、以前、吉田南といっていたはず。戸澤采紀と同様、ベルリン・フィルのヴァイオリン奏者を目指しているという。ソリストたちが入団を希望するベルリン・フィルとは、そういうモンスター集団ということなのだろう。

 休憩後、チャイコフスキーの「交響曲第6番」。ライスキンは大げさにハッタリをかますことなく、作品の構造を解き明かすような演奏でありながら、熱量十分な起伏の大きな音楽をつくった。ライスキンの棒のもとオケの鳴りは一段と冴え渡っていたが、第1楽章のクラリネットと終楽章のファゴットがとくに印象的で、ライスキンも真っ先にこの2人を称えていた。
 ファゴットは首席の鈴木一成。クラリネットはゲストの近藤千花子。近藤は東響の奏者で東響では主にセカンドを担当、ふくよかでやわらかな音を出す。弦5部も好演だった。コントラバスのトップには新日フィルの菅沼希望が、そして、コンマスには日本センチュリー響の松浦奈々が客演していた。

 ライスキンは、ドホナニーとバルトークという同じハンガリー人で音楽学校の同窓生を並べ、若い時から尖っていたバルトークと19世紀のロマン派音楽の流れを汲むドホナーニとを鮮やかに対比させた。チャイコフスキーの「交響曲第6番」という大向こうを唸らせるような曲も過剰な表現で誤魔化すことなく、それでいてうねるがごとき情感や悲哀をものの見事に描いた。今度は彼の指揮するショスタコーヴィチやプロコフィエフを聴いてみたい。

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