2022/3/20 葵トリオ モーツァルトとシューベルト2022年03月20日 21:27



大倉山ジョイフルコンサート
  第55回 葵トリオ リサイタル

日時:2022年3月20日(日) 14:00 開演
会場:横浜市港北公会堂
出演:ピアノ/秋元 孝介
   ヴァイオリン/小川 響子
   チェロ/伊東 裕
演目:モーツァルト:ピアノ三重奏曲 ハ長調 K.548
   リーム:見知らぬ土地の情景Ⅲ
   シューベルト:ピアノ三重奏曲 第1番
          変ロ長調 D898


 東急東横線「大倉山駅」近辺に住む音楽愛好家たちが実行委員会に集い、奇数月の第3日曜日に定期コンサートを企画し運営する。これが大倉山ジョイフルコンサート。
 ところが、会場である大倉山記念館ホールの換気能力が不十分なため、コンサートを2年あまり開催できない状態が続いていた。ここへ来てようやく会場を横浜市港北公会堂へ移し、葵トリオを呼んでの再開となった。

 葵トリオは2016年結成、2018年の第67回ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門で、日本人団体として初の優勝を果たした。ミュンヘンは滅多に1位が出ない最難関のコンクール。いま注目を集める常設のピアノ三重奏団であるから、一度聴きたいと思っていた。
 プログラムはモーツァルトとシューベルトの三重奏曲、間にリームを挟む。リームとシューベルトは数日前の紀尾井レジデント・シリーズと同一演目。

 いや、それにしても凄いトリオが誕生していたものだ。たとえばリームは絶叫というか悲鳴というか、そうとしか聴けない音楽だけど、極めて美しく、かつすさまじい迫力。ミュンヘンのときの課題曲だったらしいが、優勝して当たり前と思えるほど興奮した。

 チェロの伊東さんは、小柄で顔つきも幼く高校生くらいにしか見えない。音色は乾いた音から濡れた音まで、ザラザラした音から滑らかな音まで、とにかく変幻自在で懐が深い。ピアノの秋元さんは伊東さんと並ぶと大柄でどこかの元締めといった風体。音楽も安定感に揺るぎなく、しっかりリードして行く。ヴァイオリンは女性の小川さんだから、トリオ自体の見た目が華やかになる。音は切り込み鋭く、多彩に紡ぐが、男性が二人してがっちり受け止め調和を崩さない。普通ピアノトリオは常設よりもソリストがその都度集まってバトルを繰り広げ、それがまた面白いのだが、葵トリオはアンサンブルが持ち味。緻密で3人揃ってひとつの楽器と言えるほどバランスが保たれている。

 最初はモーツァルト。モーツァルトの三重奏曲といえば、ピアノにクラリネットとヴィオラを伴う「ケーゲルシュタットK.498」が有名で、そのあとに書かれたこの「ピアノ三重奏曲K.548」は「ケーゲルシュタット」の陰にひっそりと隠れている。しかし、抒情的でこじんまりとしていても、三大交響曲が書かれた円熟期の作品。第2楽章など小川さんと秋元さんとのヴァイオリンソナタと錯覚するような場面や、伊東さんのチェロが歌う副主題が美しく、明るく透明なまま浄化されていくよう。モーツアルト晩年の透徹した境地を垣間見せてくれた。
 驚きのリームが終わって、休憩後はシューベルトのD898。作曲されたのは「冬の旅」や最後のピアノソナタが生み出された最晩年の作。楽譜は遺品の中から発見されたため「遺作」と言われていた時期があった。シューベルティアーデでの演奏を意図したのだろう。旋律美に溢れていて、やはり第2楽章がロマンチックで美しい。最終楽章は3人の楽器の動きも大きく激しくなり活力いっぱい。死を前にした人の音楽ではないのが救い。それでもどこか悲しみが滲んでいる。

 アンコールは、シューマンの「ピアノ三重奏曲第1番」から第2楽章のスケルツォ、飛び跳ねるような楽しい音楽で終わった。
 港北公会堂の容量は最大500名ほど、講堂と言っていいホールで反響板の設備もない。そのハンディを感じさせない3人の演奏。末恐ろしい若者たちである。

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