読響の来期プログラム ― 2025年11月06日 12:15
読売日本交響楽団の2026/27シーズンプログラムが発表になった。サントリーホールの定期と名曲、東京芸術劇場とみなとみらいホールのマチネ―シリーズである。定期と名曲はサントリーホールが2027年3月から半年の間休館するため各9回の開催となる。
https://yomikyo.or.jp/2025/11/Yomiuri%20Nippon%20SO_2026-2027.pdf
常任指揮者のヴァイグレはシーズン8年目を迎える。R.シュトラウスの「死と変容」や「アルプス交響曲」、マーラーの「巨人」や年末の「第九」を振る。首席客演指揮者のヴァルチュハはマーラーの「悲劇的」、ショスタコーヴィチの「交響曲第10番」などを指揮する。
他にはカンブルラン、尾高忠明、小林研一郎といった読響指揮者陣とともに、ツァグロゼク、ロト、上岡敏之、山田和樹などが登場する。なお、指揮者及びクリエイティヴ・パートナーの鈴木優人は2026年3月末、任期満了で退任するとのこと。
今年は読響の演奏を聴いていない。定期会員になっていたこともあるが、中心となるサントリーホールが夜公演で毎度通うのが苦痛となり止めた。来シーズンも読響は遠くなりそうだ。
シティフィルの来期プログラム ― 2025年11月03日 09:42
先月末に東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の来期(2026/4~2027/3)ラインナップが発表されていた。オペラシティ・コンサートホールにおける定期演奏会と、すみだトリフォニーホールの特別演奏会である。
https://www.cityphil.jp/news/detail.php?id=842
オペラシティの定期演奏会はホール休館に伴い2026年7月に開幕する。また、ティアラこうとうの定期演奏会は会場の大規模改修が予定されているため休止となる。その代替がトリフォニーホールの特別演奏会ということだろう。
指揮者は常任の高関健と首席客演の藤岡幸夫が軸となり、原田慶太楼や鈴木秀美、リオ・クオクマンが客演する。ソリストも邦人が中心である。プログラムはイギリス、イタリア、ロシア、アメリカ、日本の作品など多彩。マーラーの「交響曲第3番」、ブリテンの「戦争レクイエム」、冨田勲の「源氏物語幻想交響絵巻」といった大曲も用意されている。
マーラー「交響曲第3番」と「戦争レクイエム」は高関健の指揮、来シーズンは神奈川フィル、新日本フィルもマーラーの「第3番」を予定しており競演となる。冨田勲の作品は藤岡が指揮をする。京言葉の語り手にオーケストラ、邦楽器、シンセサイザーを含む大規模な楽曲で演奏されるのは珍しい。
2025/11/2 広上淳一×N響 魅惑の映画音楽 ― 2025年11月02日 21:56
N響 オーチャド定期 第134回
日時:2025年11月2日(日) 15:30 開演
会場:オーチャードホール
指揮:広上 淳一
共演:ピアノ/小林 海都
演目:伊福部 昭/SF交響ファンタジー 第1番
モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番 ハ長調K.467
ラヴェル/ボレロ
ファリャ/「三角帽子」第1番、第2番
オーチャードホールは久方ぶり。バッティストーニ×東フィルの「トゥーランドット」以来。オーチャードホールでは東フィルとN響の定期演奏会を開催しているがあまり縁がない。今日はそのN響定期。映画で使われたクラシック音楽や映画音楽として作曲された「名画を彩るクラシック音楽」シリーズである。
伊福部の「SF交響ファンタジー 第1番」からスタート。広上のテンポは遅く極めて重厚なつくり。途中のマーチなどはもう少し軽快なほうが好み。N響の弦は厚く、木管は透明感がある。金管の高音域は安定し、打楽器は鋭い。音圧が押し寄せ迫力満点、さすが第一級のオケである。
伊福部の「SF交響ファンタジー」は「第3番」まである。ご存じ『ゴジラ』をはじめとする怪獣物や『宇宙大戦争』のテーマ等々を組曲にしたもの。実演では汐澤安彦や大植英次、山田和樹などを聴いて来たけど、汐澤が圧倒的で他を寄せ付けない。音盤では汐澤×東響のライブ録音や広上×日フィルのスタジオ録音などがあるものの、こればかりは生で比較しなければ公平ではない。
で、今日ようやく広上を聴いた。結果は…N響という最高のオケを用いて完璧な演奏ではあったが、練達の広上でもやはり師匠には敵わない。「SF交響ファンタジー」は生も録音も汐澤の独壇場である。
モーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番」はスウェーデン映画『みじかくも美しく燃え』で第2楽章が使われた。ソリストは先日のショパンコンクールに挑戦した小林海都、プログラムノートによるとピリスの弟子だという。小林のタッチはそれほど深くなく、軽やかで玉がコロコロと転がるように音が走っていく。と言って音量に不足はなく、明瞭できっちりとした音が届く。広上×N響は爽やかな伴奏をつけ、なかなかに素敵なモーツァルトだった。
休憩後のラヴェル「ボレロ」とファリャ「三角帽子」は9月に大野×都響で聴いたばかり。もっとも演奏順序は逆なうえ、都響の「三角帽子」は「第2番」の組曲だけ。N響は「第1番」と「第2番」の両組曲を演奏してくれた。
広上の管弦楽の制御は頭抜けている。ラヴェルにせよファリャにせよ各ソロに負担のかかる曲だが、決して無理強いをしない。奏者は知らぬ間に指揮者の思い通りにコントロールされ、気がつくと手のひらの上で踊らされている。広上の音楽は伸縮し飛び跳ねうねるけど則を超えることはない。だから、奏者も安心してその指揮に委ねることができるのだろう。大野×都響との対決は広上×N響の圧勝であった。
2025/10/26 太田弦×ユニコーンSO ブルックナー「交響曲第9番」 ― 2025年10月26日 18:57
ユニコーン・シンフォニー・オーケストラ
第19回 定期演奏会
日時:2025年10月26日(日) 13:30 開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:太田 弦
演目:尾高 尚忠/交響曲第1番
ブルックナー/交響曲第9番
前半は尾高尚忠の「交響曲第1番」。
尾高尚忠は指揮者・忠明の父。「交響曲第1番」は和洋折衷の堂々とした交響曲。ブルックナーの「第9番」と同様未完である。第1楽章は序奏つきの長大なアレグロ、第2楽章はアダージョで、この2楽章しか残されていない。
第1楽章は強烈な音響の一撃から始まり、中間部では嫋やかで和風の情緒を感じさせる部分もある。第2楽章は儚く優しげな音楽、全体的にスケールが大きくてR.シュトラウスを彷彿とさせるところもある。
太田弦は尾高忠明に師事したせいか指揮姿も先生によく似ている。感嘆すべきは統率力で、アマオケ相手に一糸乱れぬ演奏を展開した。各声部の音量バランスは絶妙で、最初から最後まで多層的でしっかりとした音楽を披露した。
後半はブルックナーの「交響曲第9番」。
太田弦のブルックナーは昨年、同じユニコーンSOを指揮した「第8番」を聴いた。太田はもう一人の師匠である高関健のように真面目で堅牢な音楽を構築する。アマオケの「第8番」としては豪快な征矢健之介×EMQも面白かったけど、太田×ユニコーンSOにも大層感心した。因みにEMQは早稲田を、ユニコーンSOは慶應を母体としているから、オケの特性が幾許か影響しているかも知れない。
このブルックナー「第9番」はアマオケにしては驚異的な精度に仕上げた演奏だった。各声部が明瞭かつ魅力的に響き、ブルックナーらしい神々しい瞬間が確かにあった。第1楽章の冒頭から神秘的な雰囲気が充満する。激烈なユニゾン、幾つかの主題が組み合わさり、ひやりとしたコラールを経て、天上に向かうようなコーダが來る。スケルツォは息をのむような空白をおいて全楽器が叩きつける。トランペットの鳴りが素晴らしい。トリオは速度を早め舞曲のよう。アダージョに入ると弦楽器が主導して音が跳躍する。無調のようにも聴こえる。峻厳な音楽が続くなかで木管が美しく歌う。コーダにおける救いを象徴するワグナーチューバもよく頑張った。
太田弦は、いま九州交響楽団の首席、仙台フィルハーモニー管弦楽団の指揮者を務める若手指揮者の筆頭格。もっと聴かなければならない。ユニコーンSOは太田弦をはじめ吉﨑理乃、そして、先日ブザンソンで優勝した米田覚士などを指揮者に招いている。ユニコーンSOにも注目していきたい。
2025/10/20 ビシュコフ×チェコ・フィル スメタナ「わが祖国」 ― 2025年10月21日 09:42
NHK音楽祭 2025
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
日時:2025年10月20日(月) 19:00開演
会場:NHKホール
指揮:セミヨン・ビシュコフ
演目:スメタナ/連作交響詩「わが祖国」
チェコ・フィルはビエロフラーヴェクのときに聴いたことがある。演目のメインはブラームスだったと思う。演奏の内容はおぼろげだけど、素朴な弦の音色とサントリーホールが飽和するかのような音圧だけは覚えている。
チェコ・フィルの「わが祖国」は一度聴いておきたい。円熟のビシュコフ×チェコ・フィルがNHK音楽祭で演奏してくれる。ビシュコフはイリヤ・ムーシンに師事したユダヤ系ロシア人だが、20代の早い時期に西側へ亡命している。2018年にチェコ・フィルの音楽監督に就任し、2028年の退任が決まっている。後任は長期政権になりそうなフルシャとなった。ビシュコフ×チェコ・フィルを聴く機会はこの先わずかである。
チェコ・フィルはやはりNHKホールをものともしない。何ならこのくらいの容量が相応しいくらい。弦・管・打楽器とも懐の深い音色が魅力的で音量も桁違い。この基礎体力でもって隙のない演奏を繰り広げる。「わが祖国」であれば楽団員一人ひとりが楽曲の隅々まで熟知しているからどんな局面でもバランスが崩れない。ビシュコフは粘りのある音楽をつくるが、奏者の自主性に任せているところもあるようで、メンバーがとても楽しそうに演奏していた。「わが祖国」は聴き手にも体力を要求するけど、休憩なしの1時間半がもたれることなく短く感じた。
「わが祖国」はチェコの伝説(1.ヴィシェフラド[高い城]、3.シャールカ)と自然(2.ヴルタヴァ[モルダウ]、4.ボヘミアの森と草原から)と歴史(5.ターボル、6.ブラニーク)が音によって描かれ、スメタナはこの作品に帝国の支配下にあったチェコの復活と独立への渇望を託した。チェコの人々にとっては国歌に等しい曲だろう。そして、他の国の人々にとっても自らの国への思いは共通のはずで、「わが祖国」という楽曲にこめられた熱き願いが普遍性を持ち共感を呼ぶ。ロシアで生まれスターリン時代の共産主義の弾圧の歴史と対峙したビシュコフであれば尚更のこと。ビシュコフ×チェコ・フィルの「わが祖国」に感服した。